第11話 休憩
第八位階下位
竜寝殿の竜達を撫でて回り、好感度を上げて回った。
これで、急遽戦力が必要となったら気持ち良く動いてくれるに違いない。
戦力的にはこれで十分とし、直ぐにでも鍛錬島に残るクエストをクリアしても良いが、その前に休憩も兼ねて残る瑣末ごとを片付ける。
◇
休憩の為訪れたのは、塔の迷宮。
ボス連戦の迷宮である。
そこに居わすは、リンカちゃんチームの面々+α。
全8階層からなるこの迷宮は、一層をレベル35とし、そこから5レベルずつ上がって最後にレベル70の下位火竜と戦う迷宮である。
そんなこの迷宮は、現状閑古鳥が鳴いている。
理由は明白。およそ9万の新規は未だ殆どが鍛錬島に訪れておらず、残り1万のプレイヤーも襲撃イベントの為浮遊島に行ったり、イベントの為に高級消耗品を揃えんと手頃な下位狩場に行っている。
後のコウキ一行も、イベントに向けて高級消耗品を全員分用意したり、イベントで得たアイテムで簡単な迷宮から順番に攻略報酬を取りに行っている。
また、塔の迷宮自体が下位6つの迷宮を攻略している前提であり、クリアしている者の分母が少ないのもある。
訪れるのは精々1時間に1、2パーティーいるかどうかと言った所だ。
勿論攻略し切れない。コウキ達含む数十人の精鋭が、アイテムを惜しまず使ってようやくレベル100の下位赤竜を倒したのだ。
エンジョイ勢が単パーティーで勝てる相手ではない。それどころか下位赤竜に顔を合わせる事すら出来ない。
第一層ボス。
お決まりの大きな狼の魔物、ヒュージウルフは、取り巻きに貧弱なレベル10の狼を4体従えている。
対するは、リンカちゃん一行と、+αと言うには大き過ぎる援軍、シロ達。
差し当たり四方に散って迫る狼に、リンカちゃんの配下達が飛び掛かり、そしてヒュージウルフへリンカちゃん達が襲い掛かる。
如何に同レベルならば人より強い獣の身と言えど、基礎修行を終え十分な武装を持つリンカちゃん達の敵ではなかった。
続けて二層で大きなバッタ数十体をやり、空飛ぶ鮫とその配下をやり、大樹の魔物を切り捨て、リッチと複数のスケルトンを破壊し、4腕の騎士型ゴーレムとその配下を粉砕し、精霊の様な魔力の塊を霧散させた。
流石にここまで快進撃を続けたリンカちゃん達も、次が竜だと分かっているから少し休憩を入れる様子。
尚、シロ達はここまで殆ど戦闘をしていない。飛んで来たバッタを1匹潰したくらいだ。
取り敢えず竜寝殿のノリでリンカちゃんの横に立ち、隠密を解く。
真っ先に気付いたのは、その後方で子供達を見守る年長のシロ達。
次に気付いたのは、勿論リンカちゃん。
「……ユッキーの幻が見える……?」
「僕の美貌は確かに幻」
「あぁ、ユッキーだ……ユッキー!!」
改めて僕を認識し、飛び付くリンカちゃん。
素早く華麗に寄って来るシロとナツナ。
そして大きなクッションにサンドイッチされる僕とリンカちゃん。
「……ちょっと休憩がてらピィコ達を進化させようと思って」
「ほらどいて! シロネェ、シキネェ、ユッキーの邪魔しないで!」
「あぁん、リンちゃんが酷い……」
「まぁまぁ、ユキちゃんは多少絡みつかれて縛り上げられても邪魔にならない筈ですから」
何の障害にもならないのは確かだがそれがイコール邪魔じゃない訳ではない。
だがそんな事より、リンカちゃんが捕まえたパールスライム・亜種を見に来た。いや弄りに来た。
◇
ピィコ達4体は、小型化出来る様に変化術を刻み込み、順当な進化を遂げさせた。
既にレベル的には十分だが、中ボス相当へ進化させるのは次の機会としておく。
テンテンは、研究が終わっているので、不調があってもちゃんと天使に進化させる事が出来る。
取り敢えずはエルデクーンに進化。
猿飛さんは悪魔獣であった為、詳しく魂を調べたが、特におかしなその他の要素はなかった。
コレーやクーロスの様に複数の因子を含んでいれば、成長に際してその因子が発現し、異形に変わる物だが、猿飛さんは猿と悪魔の因子しか持っていない純粋培養な悪魔獣である。
差し当たり他に合わせて体の巨大化を行ない、三者面談により翼を強化して飛べる様にした。
猿飛さんはいよいよ猿飛さんになった。
そして本命のパールスライム・亜種。
結晶大王蟹改めクリスタロスが持っていた光の因子を僅かに継承し、宝石へと進化したパルルンはメタルスライムの一種である。
見た所クリスタロスの因子は僅かであり、取り込まれている因子は光と結晶の性質のみ。
亜種たる所以は、光を放つ特殊性があるからだろう……そもそもパールスライムと言う種自体が珍しいから何とも言えないが。
三者面談の末、基本的な成長方針は僕の配下の宝石ゴーレム君達と同じ方向に決め、取り急ぎ縮小、拡大の技術を仕込んだ。
その他は基本性質のブラッシュアップであり、防御力の向上や機動力の強化を図った。
閃光系の魔法は、クリスタロスの因子を主軸にしつつ少し強めの光属性。それから若干相性は悪いが汎用性の為にその他5属性の技術を刻んだ。
手札が多いのは良い事だし、一芸は道に通じるとも言う。どちらをより極めるかはリンカちゃんとパルルン次第だ。
準備を終え、回復を終え、ついでに竜寝殿のノリで愛属性を撫で込み、少し経って、下位火竜への挑戦が始まった。
……愛属性と言う形で僕の因子を受け、そのポテンシャルを最大まで発揮した影響か、結局シロ達の出番は無かったけどね。
——まさしく聖母だ。
マシロは額に手をやり、窓から天を仰ぎ見た。
その様は、太陽よりも眩しい物が地上にあるのだと、天啓を受けた信徒の如し。
しかし即座に思い直し、地上に降り立った女神を脳裏に焼き付ける。
「……」
マシロはその膨大なCPUをフル回転させ、全ての情報を脳に収めた後、楚々とした笑みを浮かべた。
なんて愛らしいのだろう。
いつもの夜空の様な黒髪と目も愛らしいが、星々の様な銀と輝く月の如き青い瞳は、何故だか妙にしっくり来た。
まるで夜の外套を脱ぎ去ったかの様な、それが真の姿であると言わんばかりの美貌。
深淵より迸る魂の輝きを直視し、マシロは軽い目眩に頬を支えた。
まるで誘蛾灯に誘われる小虫の様に、群がり眠る子等を羨ましく思いながらも、当主の意向を見守る。
その様はまさしく忠犬。
卑しくも餌を前にだらだらと涎を垂らす犬もいるが、それもまた本能が故だろう。
「うへへ、ユキちゃん私も——」
「ダメ」
「なん……だと……? チャンスじゃなかった……?」
遠い北の地を配する同胞にして、幼少よりの長い付き合いであるシキナが撃沈するのを見届け、マシロは楚々とした笑みを続けた。




