第10話 竜の揺籠 三
第八位階下位
続いて向かったのは火山。
竜寝殿の固有種、溶岩に揺蕩う蛇竜ヴォルガイユの長、ナオ・ユーロンの住居だ。
極めて高い統率力や、分裂と言って差し支えない増殖により、その軍勢は竜寝殿でも一、二を争う。
ナオ自身は、おそらくマレの因子を大きく取り込んでいる物と考えられ、その強さも納得と言った所だ。
取り敢えず鼻先に降り立ってから気配を出してみる。
尚、フーとモーは流石に溶岩に浸かるのはいやらしく、僕にしがみついたままだ。
「……」
「……」
二度見した後きゅっと寄り目で僕を見るナオ。
どうやら何も言わずに沙汰を待っているらしい。
物を問わない忠誠もあるが、今は平時だし緊急性は無いと見て、されるがままにしているのだろう。
よってその高熱を帯びる肌に腰掛け、撫で回す。
「……君の種族傾向と極めて似通った傾向を持つ竜を送り込んだから、参考にしてみてね」
「……是、我らが神に感謝を」
首を垂れ、地面に頭をつけるナオを、暫しの間撫で回した。
地面が溶融し始めた所で、次へ向かう。
◇
スピケスの音楽団では、囚牛となったケスト・スピケスを筆頭に鵬竜のレヴィ・スピケスや、蛙の竜、イマニス兄妹が集まって音楽を奏でている所に混じり。
珍しい昆虫型の竜達は、幸にしてたとえ巨大であろうと忌避すべき怪物である奴がいなかった事もあり、そこはかとなく撫でて回り。
おそらくラヴィクから進化したと思わしき実は本体が小さい触腕の怪物、ローザンニョルドのナイ・ニオ、その本体部分を何故か背中に貼り付け。
砂漠の魚竜、ザントマス種のボスに増殖ではなく自己鍛錬を先にする事でナオの様になれると吹き込んだり、スピード狂のデクス兄弟の様子を見たり、劣化神血を保有する鋼属性のトルティガンを見たり、金や銀の因子を持つ竜を注視したり、あれこれ回った末、ベルツェリーアの所に向かった。
シテンがいる手前、何度も竜寝殿内で姿を現しているので隠れる事なく中央の城に入る。
中身がほぼ空洞の、白亜の町を修復及び改築したハリボテ城だ。
その中心では、シテン、シャクナ、ヴィーナの竜寝殿トップ戦力に加えて、ベルツェリーアとミシュカが膝を突き合わせていた。
早速とばかりにミシュカとベルツェリーアがやって来る。
「おかあ、んんっ……ユキさん」
「やぁミシュカ」
「嫁御殿よ、ここ酒がないんじゃが……このままだと妾干からびるんじゃが……」
「それも含めて竜寝殿を開発したら良いよ」
寄ってきたミシュカを撫でて抱きしめ、ベルッェリーアには助言する。
続けてミシュカを撫でながら、何か言いたげなシテンと向き合った。
視線を合わせると、シテンは遠慮がち且つ淑やかに問うて来る。
「……ユキ様、妙な者がこの地にいる様ですが……」
「例の奴だよ」
「そうですか……」
「シテンから見てどうかな?」
「……見通せません、まるで霧を見ている様です」
「その他一切を一時的に無視して良いよ」
「それならば……」
シテンは竜寝殿全域を映し取る事に演算力を割いているから、一点に集中すればある程度見抜けるだろう。ほぼ同格だしね。
うんうん唸るシテンを置いて、次に移る。ヴィーナだ。
「……偉大なる幼神よ、我等が同胞に手ずから稽古を付けてくれたと聞きました。師事を望む者も多い、これも貴女の思惑通りなのでしょう」
「その通りだ」
力に屈した者達が強い力に惹かれるのは当然の反応だからね。
その力がたまたま味方になっただけの話である。
更にヴィーナは言葉を続ける。
「……ベルツェリーア様をお救い頂いた事、如何に礼を尽くしたとて足りません」
「それは厳密には僕ではないけどね」
「それでもです。改めて感謝を」
酒浸りの主人と打って変わってペコペコするヴィーナを撫でる。
会う度会う度同じ事を言うのは、それだけ感謝していると言う事だろう。
次に、シャクナの本体の方に視線を合わせる。
「……な、何用、でしょうか」
立場が明確に上となったからだろう。シャクナの言葉遣いが変わっている。
まぁ元々彼女は威厳の為にそんな喋り方をしていた様だし、目上に言葉遣いを変えるのは当たり前なのだろう。
そんなシャクナの結晶に包まれた肉体目掛け、魔力の腕を送り込む。
結晶体の高濃度魔力を貫いて、シャクナの本体を撫でさすった。
「——ふぁっ!??」
「よしよーし」
シャクナは今でこそほぼオリジン個体だが、かつては間違いなくリトル系。
意図的にリトルカナのルカナと違って、より早く、より強くを求め続けて来たが故の今の姿だ。
そこには仲間の為、家族の為の努力があった。
取り敢えず撫でるよね。




