第9話 竜の揺籠 二
第八位階下位
次に向かったのは、ペーリアンティエ姉妹の小さな海。
アルトナもマリエナも真面目に修行中なので、マリエナの背で気配を出してみた。
ビクッと震えて軽い津波が起きた。
「な、なにかっ?」
「なんでも?」
「……マリエナ、ユキ様に失礼ですよ」
取り敢えずマリエナ含む何体かの水棲竜種はクリカの部下に回したいし、しっかり交流しておこう。
ヒレをむにむにしたりゴリゴリしたりして、次に向かった。
妹さんをクリカにくださいと言うにはもう少し好感度が必要だ。
続いて訪れたのは、メイドール姉妹の棲家。
背の高い木の樹間距離を狭め、幾らかの道を作り、部屋と広間を演出したその森は、図体のデカイ竜達にとっては正しく森の家。
出入り口以外から侵入するには木を破壊するしかなく、また空からは広間が見下ろせる程度。
そんな森の、日差しが上手いこと入りつつプライバシーを保護している一室に、すやすや眠る影が一つ。
ラオヴィクスの始祖——ファラフィア・メイドールその人だ。
まぁ厳密に始祖とは言えないが、その様な信仰を受けているのだからそれで十分だ。
彼女はいつもの様に怠けている。のでは無く、泥に沈むかの様に眠っている。
今まで怠けて来たツケを払っているのだ。
本来ならもっと修行していたかっただろうが、今までやって来なかっただけに疲労も大きく、寝落ちしていた。
「……よしよし」
「ふが……」
いっぱい寝て、しっかり休んで、強くなるんだよ。
丹念に撫で、愛と生命力を練り込んだ。
一方、フタ・メイドールは、広間の中心で静かに瞑想していた。
内在魔力と生命力が激しく流動し、膨大なエネルギーが渦を巻いている。
そんな真面目なフタの横に、小動物がいたので捕まえた。
「ぷきゅい?」
「よしよーし」
「きゅぅ〜」
もふもふの襟巻きが付いた大兎だ。
大型化の傾向がある竜寝殿の竜変種達の中では特に異例な存在。
兎竜フワンナル、フー・フラン。
もふもふをもふもふしていると、フタが僕に気付いた。
「……? ……っ!? …………」
「やぁ、修行は順調?」
「……はい、私も姉様も、更なる高みへと登っています」
「なら良かった」
まぁでも実際の所、ファラフィアは増殖及び生産系の能力持ちで、戦闘で特別活躍する必要はない。
フタの様な強個体を複数作り上げて従えれば良いだけの話である。
フタに関して言えば、通常のラオヴィクスの倍は重く巨大なレア個体だからそう易々と量産は出来ないだろうが。
フタの方も、愛を込めてゴリゴリ撫でた。
次。バハード兄弟、ガラド翁とヴァザク翁。
付いてくるフーを頭に乗せ、向かったのはちょっとした砂漠。
そこにいるのが、トルティガンの長老にして、竜が竜寝殿に訪れる前から生きていた大老だ。
もう十分強く、細かい操作訓練を終え、莫大なエネルギー操作に限っては一撃必殺の砲を使っていた為問題なく、既に神気操作に移っている。
山とも島とも言える背に乗り、何故かいた扁平な獣竜を捕まえて撫でさする。
形状的にはアナグマが近いか。毛は硬質で撫で甲斐がなく、皮はゴムの様で作り物感がする。硬質な毛と柔軟な皮でダメージを受け流せる様になっているらしい。
カパッと開いた口の中には鋭くギラつく牙が並び、毒属性魔力の痕跡が見られる。
「クァー?」
「よしよーし」
「ムォァ〜」
背中は硬いが腹は柔らかめだ。
これがフー・フラン同様の特異例、貛竜アジデード、モー・アザド。
フーとモーは森や荒野といった棲家こそあるが、基本的にあちこちに移動して色んな竜に可愛がられていたらしい。
そんな訳で僕も可愛がる。
「……おん? 兄者、背中にちんまいのが乗っとるぞ?」
「あん? そりゃ乗っとる……おんや、いつのまに増えたんじゃ?」
「よぉ見るとヌシさんじゃぁないかいな」
「うむ、僕だぞ」
「おんやまぁ、遥々老いぼれなんかになんぞ御用かね?」
「様子見に回ってる所だよ」
フーとモーを撫で回しつつ、バハード兄弟と話を続ける。
「御勤めも大変だのぅ」
「ほれほれ、休んで行きなされ。なんぞ用意出来るもんはあったかのぉ?」
「お構いなく」
「いっちょ取ってくるか、まっとれよぉ」
「直ぐ次に行くから修行を続ける様に」
マッサージ代わりに甲羅をゴリゴリしたりした。
次に向かったのは、メタリオンの道場。
今は門下が基礎訓練を施されている為、閑古鳥が鳴いている。
そんな中、付いてきたフーとモーが毒刃竜クーラートと激しいじゃれあいを始めた。
「キュププィッ!」
「おいおいまて! 追いかけっこかっ?」
「クァッ、クァッ!」
クーラートが逃げるフーを追いかけ回し、既に捕まっているモーは助けを求めている。
そのせいで僕がいる事がバレ、兄の方は目を瞑って僕を探している。
……見つかるまで待ってみようか。
「ふふふっ、捕まえたぞ? どうしたどうした、私に会いに来たのかぁ? こいつめこいつめぇ」
「ギュプィ……」
「クァ……」
強固な頭部にぐりぐり擦り付けられ死んだ魚の目をしたフーとモーが哀れだ。
それはそうと、わざとあちこちウロウロして気配をちらつかせ、さわさわして痕跡を残し、おまけでフーとモーに夢中なクーラートを撫で回す。
うーむ……緊張感が無いせいか、もしくは僕に欲望や殺気が無いせいか、ヴァルトラの鋭敏な直感を持ってしても僕を捉えきれないらしい。
戦場なら多分行けるんだろうが、そこら辺は常に強者である竜種としての驕りか、相手が僕であろうと当たりを付けているのも大きい。
仕方ないので、気配を極僅かずつ強くしてみる。
程なくして、尻尾もぎっても良いかなとさわさわしていたら気付かれた。
ヴァルトラをずっと見てるとさぁ……尻尾の辺りをもぎっともぎ取りたくなるんだよね……。
「……王よ、御期待に添えず慙愧の至り、如何様にも罰をお与えください」
「それじゃあ体中弄くり回すね」
「………………御意」
間が長いぞ。
僕がいたらしい事に気付き愕然としているクーラートへ視線を移し、フーとモーに軽く手招きすると、2人はここぞとクーラートの手から脱出、僕を駆け上がって両肩にしがみ付く。
「ヴァルトラ、この島に僕と同じくらいの隠密能力を持つ竜を送ったから、それと鍛錬すると良い」
「御意」
「それからクーラート。人化の術を習得したらもっといっぱいこう言う子達がいる所に連れてってあげる」
「っ!? はいっ!!」
メタリオンの兄妹に見送られ、その場を後にした。
……フーとモーはいつまで付いてくるんだろうか?




