第8話 竜の揺籠
第八位階下位
戦力をある程度数字で管理出来るのは、極めて便利でありありがたい事だ。
一部数字を遥かに逸脱する力を持つ者はいるが、その数字の最低値を基準とする為数字以下の力しか無い者はいない。
レベルによる戦力管理は合理的と言う事だ。
現在、新たに中位環境迷宮が解放されつつあるが、プレイヤー達がそこを訪れる様子は無く、今暫くの猶予期間があり、僕の狩場となっている。
中位環境迷宮に要する戦力は、レベル600が1体いれば十二分な為、特に負担では無い。
上位環境迷宮の方も、レベル600が5体程度いれば回して行ける為、総合的にはレベル600が63体、少し多く見積もって65体いれば問題無い訳である。
それに続けて、万色のイベント会場。此方は2時間毎に25回分の戦力が必要であり、1回当たりの必要戦力はレベル600がおよそ35前後。
現状の戦力とその蓄財や部下を考慮すると、レベル700半ばであるイェガやクリカ、サンディア、エヴァなんかは、2体いれば万色のチケットを制覇出来るだろう。
確実性を考えると3〜4体は欲しい所だ。
最低値としてのレベル700代であれば、おおよそ10体いればイベントを回して行けるだろう。
即ちレベル700なら250体。600なら870体程である。
問題なく回せる範疇であり、予備戦力もある。
と言う訳で、クエストクリアに向けて戦力を運用出来る様に調節しつつ、防衛戦力を厚くする為竜寝殿に忍び込んでみた。
◇
先ずもって、竜達は基礎的な魔力コントロールを先天的に習得している。
それは概ね竜玉による援護であり、ただ時間を掛けるのみで闘気法までの魔力操作技術を体得出来るのだ。
また、高次の竜達に至ってはその魔力操作技術は仙気の領域に突入しており、一握りの上位者達は、その経験こそ無いものの、死んだら魂のみで行動出来るだけのポテンシャルがある。
と言う訳で、彼等竜達に課した最初の修行は、微に入り細を穿つ緻密な魔力調節である。
もっと言えば、最初からやろうとすれば出来るそれを徹底的にやる集中力の強化と、経験の蓄積による魂の錬磨、慣れと言う名のスキルレベリングだ。
つまる所、節約戦術の体得である。
しかしそれは、既にレベル600代に至っていた者達にとって児戯に等しい。
……そんな児戯を黒霧によるシゴキで限界まで多重演算して失神させている訳だが。
ともあれ、そのシゴキを越えた者達には、次の試練。
限界まで魔力質を向上させ、膨大且つ高質の魔力をコントロールする修行だ。
これは600を越えた者達を持ってしても難しかった様で、しばしば爆発四散した。
この修行は、一撃必殺を放てる様になる為の修行だ。
仮想敵が尋常ならざる存在である為、出し惜しみせず使い捨ての如く必殺級の攻撃を連発出来る様にならないと、そもそも話にならないのだ。
……まぁ、場所が狭かったのは仕方ない話だが……集まって修行してるから、誰かが爆散したら連鎖爆発する映像は何かのギャグみたいだったと評しておく。
それらを更に越えたのが、シテンやシャクナ、ニベルの様なレベル700代の伝説達。
ここまで来ると、ただその身に神気を下ろした程度の神懸かりではなく、ちゃんと神気を操れる高みを見据え、前段階である真気操作及び錬成の修行を行わせた。
シテンに限って言えば真気の錬成は出来てるし、神気の操作も少しは出来るが、一から鍛え直すと言う意味で、真気操作、錬成の修行を行なっている。
一方シャクナは、元々極めて高質且つ膨大な魔力の操作に長けている他、竜寝殿全体が神権を降ろす技能を持っている事もあり、神気をどうにかしてコントロールする訓練をやらせている。
僕が付いてやる方が効率的だが、そこら辺は獣人3人組が立ち直るか僕が更なる分裂を出来る様になるまで保留だ。
そんな修行中の竜寝殿を、端から見て回る。
先ずはニベルの所。
ニベルの為に用意されたちょっとした規模の湖。
その畔で、静かに瞑想しているのがニベル。
その横でちょこんと座ってニベルを見ているのが、自称ニベルの嫁、ニム。
その横で瞑想しているのが、ニムの姉、ネリア。
そしてその前に座ってるのが僕。
ふいにニベルがパチリと片目を開いた。
するとニムがニコリと微笑み、ネリアがニベルへ視線を向ける。
凄くやり辛そうである。
僕もふいにころっと隠密を解いてみた。
「……」
「……」
「……」
「……」
暫しの沈黙。
後——ニベルはカッと両目を開いた。
ニコパッと微笑むニム、チラッと視線を向けるネリア。
すかさずニベルは膝をついた。
そこでようやく此方に気付いたネムネ姉妹は、ギョッとした顔で慌てている。
「……如何なる御用事でしょうか」
「修行は順調かな?」
「はっ、以前と比べ大きな成長を実感しています」
「2人は?」
僕が促すと、2人ことネムネ姉妹はびくりと震えた。
竜寝殿最上位メンバーとは少し交流があるが、レベル600代の上位メンバーには情報しか回ってないので、必要以上に恐れられている様だ。
ネリアが守る様にニムの斜め前に出る。
「修行は至って順調です。今は休憩をしていました」
「そう、ニムは?」
敢えて察せず、ニムへ問う。
対する彼女は、ビクッと震えた後、おずおずと口を開いた。
「……じゅ、順調です」
「そう、なら良かった」
まぁ報告は聞いてるけどね。
取り敢えずニムとネムネの羽毛をもふもふした後、ニベルの中身をちょっとだけ調節し、次に向かった。
続いての獲物は、ガルナの一派がいる、火を吹く岩場。
ガルナ・カーデイを筆頭に、レスタの父と母であるラバナとレファナ。それから竜生九子のサラフィーナ。
多数の門下生を抱えるガルナも、その門下達が皆基礎修行中である為自己鍛錬に時間を掛けられる。
ラバナとレファナは、仮とは言え亡くした娘に会い、僕の目論見通りそれを妹として認識、今度こそ絶対に失わない為、更なる修行を行なっている。
サラフィーナの方は、ネムネ姉妹同様ガルナの横にいるが、流石は年単位でマレの侵食に抗い続けただけあり、ポテンシャルは既にガルナと並ぶか越える程。
自らに厳しい修行を課すガルナに追随している。
そんな訳で、ここにもふいっと姿を現してみた。
「……」
「っ……」
やはりと言うべきか、気配の現出に真っ先に気付いたのはガルナ。
カッと開かれた目で僕を見下ろし、即座に跪く。
サラフィーナはそれに気付くや、ネムネ姉妹と違って魂の解放の際にあれこれやったので、特に慌てる事なくゆるりと膝をつく。
ラバナとレファナもそれに続いた。
最初に口を開くのは、当主の仕事だ。
「……偉大なる神獣を従えし神よ、我等に如何なる用命か」
「修行は順調かな?」
「……新たな火が我が身に宿り、大きく燃え盛っている様だ。どうか、俺に彼の騎士による師事の機会を願いたい」
「いいよ」
二つ返事で許可を出す。
彼の騎士ってアルフ君だよね? 彼も彼で修行中の身だし、口説き落とすのは自分でしてね。
「会う機会は作るから、弟子になりたいなら自らの言葉で口説き落とすと良い」
「感謝する」
「是非、私も宗主と共にありとうございます」
「許可する」
サラフィーナは竜生九子になってはいたが、ケスト・スピケス同様に完全な竜生九子ではなく、偶々手に入ったから支配する上で当てがわれた特異な個体だ。
ラニにとってはあった方が良いがなくとも問題ない相手である。
我も我もとやって来たラバナとレファナにも許可を出し、たいして意味は無いが愛を込めてもふもふしたりゴリゴリした後、次に向かった。




