第21話 和澄の剣、鈴守の牙
第四位階上位
「次、僕とやりたい人、いる?」
そう言った瞬間に襲い掛かってきたのは三人、センリとユウミとユリちゃんである。
それぞれがそれぞれの木製武器を持っているので、ハンデとしても行き過ぎである。
よく周りを見て見ると、双子ちゃんとの戦いで衆目、皆の視線を集めてしまっていた様で、訓練も忘れて観戦している。
最初に切り込んできたのはやはりセンリ。
和澄の剣は攻めの剣。
それを受け継ぐセンリの一撃は、速いだけでなく認識し辛い。
所謂無拍子と言う奥義だが、和澄はそれを剣に使うのでは無く足に使う。
端的に言って、呼吸の隙間を狙い続ける歩法だ。故に認識し辛い。
同じ事が出来る僕には余り効果は無いが、不意打ちだと反応は致命的に遅れる。
今回の場合は正面からなので、十分対処出来るレベルである。
「せっ!」
センリの袈裟斬りを一歩下がって回避する。
次に来た逆袈裟も同じ様に回避。
和澄の剣には二種類ある。歩法や無拍子を使った幻剣と、体重や筋肉の動きを利用した迅斬術。
幻剣は僕には効かないので、センリが主に使用するのは迅斬術だ。
唸りを上げて迫るセンリの木刀。この世界の強化された肉体で振るわれるそれは、先端が音速に近く、木製でも十分な殺傷力を持つ。
明らかに、センリはレベル以上の力を持っていると言えるだろう。
ただまぁ、迅斬術は筋肉を酷使するので、僕からして見たら読み易い。
分かりやすく、読み易い。つまり僕は、和澄の剣を既に攻略しているのだ。
「おっと」
「っ!」
故にこそ、センリはセンリの剣を持つ。態と握力を弱めて射程を少し伸ばす。とかね。
和澄の剣に集中すると、どうしても足腰の筋肉の動きに意識が向いてしまうので、この攻撃は直前まで読めない事が多い。
だがまぁ、同時にチャンスでもある。
威力を犠牲に射程を伸ばした攻撃、その剣の腹に手を伸ばし、搦めとる。とった木刀は邪魔なので投げ捨てた。
「はっ!」
「?」
何故か迅斬の応用を使って、高速で僕の腰目掛けて飛び付いて来たセンリ。
頭を片手で鷲掴み、ひょいっと乗り越えて回避する。
「っ!」
「ふむ?」
センリの影から迫っていたのはユリちゃん。
宙にいる僕の、一番当たり易い腹目掛けて槍を突き込んで来た。
槍に足を絡めて、態と力を軽めに奪い取ろうとする。
抵抗するユリちゃんを尻目に、センリを乗り越えた僕は地面に両手をついて、今度こそ無理やり奪い取る。
捻りを加え、半回転しながら地面に吸い寄せられる僕は、体重、反発力、遠心力を重ねた槍の一撃を、此方へ振り返ろうとしているセンリの胴に打ち付けた。
その後、更に半回転し、体重を乗せた槍でユリちゃんの膝裏を薙ぎ、体勢を崩させる。
次いで、飛来して来た木の棍を受け止め、飛び掛かって来た黒い影を転がって回避する。
「くっ!?」
「ふわっ!?」
「きゃん!?」
状況を整理する。
センリはうまく衝撃を受け流した様で、ダメージは少ない。
ユリちゃんは体勢を崩して跪き、良いタイミングで飛び込んで来たユウミは僕の足先を掠めて床にダイブした。
なんだかんだ言って、ユウミは根性がある。
避け切った筈なのに掠めた。
何をしたのかよく気配を探って見ると、どうやらユウミは魔法を使ったらしい。
確かに、ユウミは魔法使いなので訓練でも魔法を使うのは当然だろう。
失念していた。と言うよりも応用して来ないだろうとはなから決め付けていた、か。
体勢を崩している内にユウミとユリちゃんを除外してしまおう。
と、言っても、手荒な事をする訳では無い。軽く叩くだけである。それで通じるだろう。
「っ!?」
「あうっ!?」
実戦で言うなら、二人の首を刎ねてセンリへ駆けている状況だ。
「っ!!」
「む?」
訓練最後の交錯になるであろう僕の突撃に向けて、センリはあろう事か得物の剣を投擲した。
僕の丹田の辺りを狙って投げられた木刀は、左右に避けるには少々体勢が悪く時間が無かったので、跳躍する事で回避。
勢いのままに攻撃を繰り出そうとしたのだが……。
「わぷっ!?」
「ふっ!」
迅斬術の応用を使って、勢い良く前に飛び込んで来たセンリと正面衝突した。
僕の方が勢いに体重を乗せているのでセンリは僕共々突き倒された。
迎撃するのでは無く両者痛み分け、むしろ事前に衝撃が来るのをわかっていたセンリの方が有利だ。
図らずもセンリを押し倒す形となった僕。
肉体の耐久力から鑑みて生身なら首の骨が折れているかとも思ったが、センリのクッションの大きさと柔らかさを考えると余裕を持ってセーフと言える。有効打では無い。
——つまり、まだ勝負はついていないのだ。
迅斬術は接地していればどんな体勢でも使う事が出来る。この状態でセンリが狙うとしたら急所であるコメカミか首だろう。
手のある位置に辺りをつけて、急所をガードしつつセンリの手を捕まえる。
——これで追撃は無い。
身長差から、センリが僕に攻撃を与えるには、僕を跳ね除けるしか無い。
なので、やられる前に腰に足を回してロックする。
——万事整えて最後の攻撃を敢行した。
「かぷっ」
「くぅん……」
——頚動脈を喰い千切る。
訓練なので甘噛みであるが……。
鈴守の家の人は犬歯が一般に比べて鋭く、アナザーの肉体にもそれが適用されている。
言うなれば、両手両足塞がった上での鈴守の必殺技である。首をガードしようとしたら頭突きで無理やり開かせる。
首の頚動脈を切られて人が意識を失うまでは、大凡15秒程。
それまで敵を抑え付けていられるかが勝負の決め所だ。
少しでもその時間を早くする為に更に深くへと牙を突き立てる。
「はむはむ」
「くうっ……ん……はぁ、はぁ…………ヵヮィィ」
「はむ?」
「ンン!! コホンッ」
引き剥がそうと藻掻くセンリは、しかし力が弱々しい。
態々血が抜けて行くのを再現しなくても良いのに、こんなところでも真面目である。
センリのスペックを考慮して、18秒程噛み付き続け、勝利を確信した。
首から口を離すと、唾液の糸がつーっと伸びる。
これも鈴守の特徴なのだが、何故かこれをやると唾液が過剰に分泌される。
特にお腹が空く訳でも無いので、多分生肉に反射的に唾液を分泌しているだけなのだろう。鈴守はどちらかと言うと肉食動物なのだ。
取り敢えず、口元とセンリの首を服の袖で拭う。
「僕の勝ちだね」
「はぁ、はぁ……そ、その様ね」
思ったよりも苦戦した様な気がするし、三人相手には何も教える事は無い。
センリとユウミの機転もなかなかの物で、ユリちゃんは正確にタイミングを見極めて掛かっていた。
このまま精進すれば、もっと強くなれるだろう。




