第4話 良い朝
第八位階下位
明けて翌朝。
ゲーム開始27日目の早朝。
早起きしすぎると下々の手間を増やすので、その間はアナザーとかをやる。
◇
ログインし、早速オルダナとシャスティアの鎧を一括購入した。
これで神霊金属の鎧は全て買い占めた事になる。さぁ次だと思ったのも束の間、新たな商品が追加されていた。
——虹の鎧だ。
値段は他の鎧の倍で、30セット3,000億EP。
質量こそ変わらないが性質はおそらく虹貨と同質であり、格こそ幼霊級だろうが、その実小さな神と言って差し支えない程の極めて高い万能性を持つ。筈だ。
その配合内容は、基本の4属性に加えて光と闇、発展属性である雷、氷、森、霧、鋼、砂の12属性。それから柔と硬の武属性に、愛、夢、幻、生命、空間等の高次属性を持つ。
即ち、基本を抑えつつ柔軟性の高い属性で非対応属性に対応する作りである。
防具として使えば耐性が充実し、武具として使えば様々な神気を持つが故に極めて万能な攻撃手段となる。
ニルヴァーナの結界やパラダイスの魔法攻撃をより簡単に再現出来る様になる訳だ。
当然買いである。
ピピピッと色んな事を操作しつつ、変わり無い報告を処理、レイ・セードーの元に向かった。
レイ君は変わらず釣り堀の端で釣りをしていた。
僕の配下の殆どがレベル限界に至った事で、有り余っている経験値の供給を受け、その体は既に数度の進化を重ねている。
子供だった顔付きや身長も今や立派な青年となり、双角は白金の結晶質。過剰なエネルギーの為か髪は長く伸びていた。
目の前に降り立ち声を掛ける。
「おはよう」
「っ……おはようございます」
「調子はどうかな?」
「快調ではありますね」
体を動かして見せる彼に、取り敢えず制服を着せる。
流石にゴブリン用の小さな服では腰に巻いて隠すぐらいしか出来なかった様で、少し恥ずかしげだったからね。
「髪はどうする? 切る?」
「あ、あぁ、いえ……少し邪魔ではあるけれど」
「じゃあ整えるだけにしておくね」
手早くスパッと整え、一つ結びに纏めておく。
情報を詰め込み、それを一晩掛けて飲み下した彼は、ほぼ同じ境遇のノーレル君同様レベル500代で限界値に到達。後は仙気を練る練習をして勘を取り戻せば600代に直ぐ到達出来るだろう。
たかがレベル500代の髪の毛は、折角なのでスライムズの餌にする事とした。
「武器は何が良い?」
「いや、まぁ……剣、両刃の重いのが良い、かな」
「用意しよう」
差し当たり、以前入手した大した事ない剣、聖剣クラウンナイトを基本として、折角なのでさっき買ったばかりのシャスティアの鎧を使って強化。余った部分はそのまま鎧に加工した。
それらを換装させたレイ君は、確かな武威を備える一角の戦士に見える。
ここまでやった所で、僕は一つ頷いた。
「うん、それじゃあ……質問を許そう」
とは言え既に情報の大半は与えてあるので、再確認程度の意味しかないだろうが。
暫し後、レイ君は深刻そうに顔を歪めて問うた。
「……悪魔王が生きている、と言うのは……事実、なのでしょうね」
「間違いないだろう」
「僕は……正義が何なのか、分からなくなってしまいました……」
大義の為に悪を成す奴の情報を知ったが故に、ははっと儚げに笑う彼に、僕は微笑んだ。
「ディアリードは殴れ」
ディアリードがレイ・セードーを殺害した理由は、強化したレイ・セードーと言う戦力を天使に回収させる為と考えられる。
これは、素の状態で既に強かったマレをわざわざ後の竜寝殿まで誘導し、戦力を蓄えさせた事からも明らかだ。
ディアリードは大敵を用意する事に終始し、それらを駒として世界規模のストラテジーゲームを展開している。
最終的に世界全体の活性化と魔力の増大が為されれば、その過程による犠牲は彼にとって塵芥の様な物なのだ。
そんなディアリードの、おそらく想定外となったであろう物事が……邪神の攻撃と神の鉄槌だ。
取り敢えず神の方は僕がどうにかするし、邪神もまた同じ。そしてディアリードも殴る。が他の子達にも殴らせても良いだろう。
言い放つ僕に、レイ君は子供の様にキョトンとした。
構わず言葉を続ける。
「結果的にディアリードが世界の為に戦っているのだとしても、やり方なんて幾らでもあるのだから。ディアリードを倒して味方にする方が効率的だ」
そう。ディアリードを叩いて潰してその強大な演算力を再利用するのだ。
味方になるならば良し。ならないのなら解体するまでの事。
レイ君は人も獣も無生物も全て似た様な物である事を知って、人を殺した悪魔達と魔物や悪魔達を殺し回った自分がどう違うのか今に至るまで悩んでいた様だが、それこそ正しく些末な事である。
敵は倒せ、味方は守れ、それ以外は味方にしろ。なんなら敵も味方にしろ。
後は能力によって正しい仕事を任せるのみよ。
暫し言葉を噛み砕く様に沈黙したレイ君。その思考はレベル相応には激しく周り、彼に残された凡ゆる記憶と与えられた情報、そこから導き出される未来を見通して集束し——ふっと笑みを浮かべた。
「ふ、ふふ……そうだね……そうだ」
こくこくと何度も彼は頷いた。
「……僕は正義にはなれなかった。大切な人達も守れず。多くを傷付けるのを良しとし、剰えそれに気付きもせず。宿願を果たす事すら叶わなかった……」
言葉とは裏腹に、その瞳には力が宿っている。些末な悩みに答えを得た彼は、決然と言い放った。
「——今度こそ、僕はディアリードを倒す!」
僕が倒すけどね。
と言うか、仮に七聖賢と五大賢者が全員揃っても勝てないだろうね。まだ見つかってない残りの賢者達がどの程度力を有しているかは知らないけれど。
内心とは裏腹に、僕は微笑む。
「どこまでも未熟な僕だけど、どうか……ユキさんの力にならせて欲しい」
「ふふ」
まぁ、及第点だ。
レイ君は、愛すべき仲間を殆ど失い、その末に宿願を果たしたと思わされ、自らも死に瀕して、その意志は燃え尽きかけていた。
最後あっさりと死んでしまったのも、仲間の元に行きたかったからだ。
最後、あっさりと死んで尚その魂が拡散しなかったのは、残して行く仲間、エルミェージュや、もしかしたら生きているかもしれない仲間、クロエ・ベルベットの事を思うが故だ。
記憶を失いつつも今こうして転生し、宿願未だ果たせずと知り、仲間の幾人かが転生した事を知り、僕の保有する戦力を見てかつての自分達があまりにも未熟であったと勘違いし、大いに自信を喪失している。
それでもディアリードを倒すと言ってのけたのだから。最後に少し及び腰になったのにも目を瞑って良いだろう。
何か言い掛けたレイ君の口に、人差し指を当てて黙らせる。
少し間を置いて、僕は言って聞かせる様に語り出した。
「……君の戦いは、その死は、確かにディアリードの手のひらの上だっただろうね。でも、その意志や覚悟は真実君の物だ。君が諦めたら、ディアリードは何の躊躇いもなく人を滅ぶ寸前まで追い詰めただろうから」
そう、奴ならやる。
戦わざるを得ないまで追い込み、英雄を英雄たらしめ様とする。
その他の有象無象など、まさに雑草の如く薙ぎ払うだろう。
「——君の死は無駄ではなかった」
その手を取り、言葉を重ねる。
「その偉業は子々孫々と語り継がれ、君が守った者達は今を生きている」
知らず知らずに何かを求める手を握り、深く、その魂に言葉を刻む。
「——君の正義は多くを救った」
それは福音だろう。
「君はこれからも、多くを救うだろう」
渇いた大地に雨を降らせよう。
「君は間違えるだろう……僕はそれを正そう」
沁み渡る様に、それは彼の心を満たす。
「君は迷うだろう……僕は答えが出るまで君を見守ろう」
漠然と消えぬ不安を溶かし、流して行く。
「君は選択を迫られるだろう……僕は君が選べなかった全てを救おう」
それはまるで、揺籠を揺らすかの様に——
「いつか君が、君の救いたい物、全て救える様になる日まで——」
弱い心が求めるままに、心が強くなるその時まで——
「——僕が君を導こう」
見上げたレイ君の瞳は、キラキラと光っている。
……何故って、僕が映っているからね。
僕はニコリと微笑んで——
「おはようレイ君、良い朝だよ」
「……はい……おはようございますっ……ユキさんっ……!」
その瞳に、もはや迷いは無かった。




