第2話 全知と不可知
第八位階下位
次にやったのは、万の瞳の研究。
万の瞳は、眼球系魔物を生み出す理論結晶である。
差し当たり適当な結晶に刻み、使用感を試してみた。
眼球にそのまま足が生えた様なキモ、奇妙な魔物から始まり、空を飛ぶタイプや蜥蜴みたいなタイプ、魚みたいなタイプ。それらの進化っぽい物。
蛇みたいなのが生えた大きな単眼の球体。大量の目玉が全身にある巨人。シルエットは人型だが全身の至る所からミミズみたいなのが生え、その先端が目玉になっているキモ、悍ましい物。
属性変異種だったり邪眼の特性だったりも考慮すると、結構な種類を生成出来る。
マギクラフトか通常かも選べたので、取り敢えずマギクラフトで生成、その肉体構造や魂魄の性質、その他諸々を調べ、書類に纏めた。
やはり眼球系魔物は邪視、邪眼系が基本で、それに加え高位になると視線の神性により視線に映らない事、即ち隠密系の適性が出て来る様だ。
みる事。みせる事。みせぬ事に適性があるとの言は、正しく眼球系魔物の核心をついていると言えるだろう。
尚、時間経過で消える筈だったマギクラフトの目玉君達は、僕の特に隠していない研究を片手間に覗き込んでいた配下達の中からバアルが念話を送り、どうしても食べたいお願いしますユキお願いしますとの事で、バアルのお腹の中で成仏した。
あまり手に入らない珍しい邪眼系スキルが大量にあったので、そうなるのも宜なるかな。
マギクラフトとは言え術式構造自体は本物なので、壊れやすいそれを慎重にエネルギー供給して補強する事で、ちゃんとスキルとして維持出来る。
バアルなら頑張れば出来るだろう。さっきから悲鳴ばっかり聞こえるが。
一方カナデは、焼いた目玉を丸齧りしていた。
……制作におけるベースは多分人間なので、眼球魔物達の眼球は構造的には人間のそれと殆ど変わらないだろうし、なんだったら見た目で人の目玉だと分かる。よく食べるな本当に……。
マギクラフト系が魔力的に薄味なのは納得。
差し当たって万の瞳は、必要に駆られる様な物でも無いと言う結論に至った為、邪視、邪眼系のスキル作成ツールとして運用する事に決め、黒霧に運用を任せる事とした。
また、それに伴い、視の神性を持つ瞳神から貰った涙滴型結晶。観察者の涙を改造して黒霧に埋め込む事とした。
知覚系能力の補強に使えるのでリブラリアに埋め込む事も考えなかった訳では無いが、黒霧は拠点運用の要を担うのでそのまま拠点防衛特化の情報支配をしてもらい、リブラリアは敵地制圧特化の情報支配をしてもらう事に決めた。
より重要度の高い拠点防衛を担う黒霧に埋め込む事とした訳である。
黒霧は視の神性に通じた事で、リブラリアを越えるポテンシャルを獲得した。
後はリブラリアの報酬装備による補助と、ひたすらな訓練あるのみである。
さぁ次だと取り出したるは、神結晶。
天帝竜を封じた結晶である。
今や天帝級の隠密も、同格のリブラリアや黒霧、何より僕の知覚能力を駆使すれば問題なく感知する事が出来る。
まぁ、何をしようにも先ず天帝竜本人と話をつけないと何も出来ないので、パパッと話をつけた。
何という事もない。彼はマレと同じだ。
特にコレと言って使命は無く。コレと言った目的も無く。ただ戦い、眷属を生成し、外敵を駆逐して、生存率を高め、時の中で学習し、多少性悪になっただけの事。
……それと強大な力の塊である神気に囲まれ、さながら塩漬けにでもされているかの様な目に遭い相当参っていた様なので、案外話しは直ぐについた。
幸い一般エルフ達はハミリオンの姿を知らないし、英雄エルフ達は思う所があろうとも従ってくれるだろう。
差し当たり不可知天帝竜君を核に、無属性の神気を不可知の概念に変換して肉付け、核部分にも手を入れて最適化し、一つの星珠を形成した。
分野が専門的過ぎるので属性変換には些か消耗を強いられたが、不可知の星珠は無事完成。不可知天帝竜の肉の器に投入し、定着させた。
星珠化した不可知天帝竜のレベルは、800丁度に設定。
別に演算補助装置が付いている訳でも無いのに、レベル限界値を800まで引き上げられると言う事は、彼も彼でそれなりに修羅場を越えて来たのだろう。
生憎と彼から漏れ出た幾らかの力や記憶の断片は、白いキノコが全部消化してしまったので分からないが……ざっと見た感じ……鋼の巨大猪にボコボコにされて逃げたり、巨大な黒蜘蛛や銀の巨狼にニアミスして肝を冷やしたりと……うん。彼も彼でそれなりに修羅場を潜っていたのだ。
やっぱり、マレと同じで……いや、正しく今の僕がディアリードを恐れて力を際限なく求めているのと一緒で、彼もまた力を恐れ力を求めて来たのだろう。
今夜中は黒霧の元で調整し、その後は竜寝殿の方で活動して貰う予定である。
竜寝殿の竜達も、事実上トップであるシテンを少し超える不可知天帝竜が入って来れば、大いに驚き畏怖して刺激となり上を目指してくれるだろう。
そんなこんなで、観察者の涙と不可知の星珠と言う真逆の極地を錬成し、とんでもなく消耗した所で、今日のお仕事は終わり。
夜を徹して頑張る配下達やプレイヤー達を覗き見しつつ、来たる微睡みに船をこぎこぎしていると——
——それは起きた。




