幕間 研究所にて
「貴女の数百年分の基礎研究データは中々良いサンプルだったわ」
そう言ってふんぞりかえる少女こそ、伝説級の怪物。
一体で国の一つや二つくらい簡単に滅ぼせると言われる悪魔王。それを複数従える悪魔の頂点にして魔界の支配者。
——悪魔皇帝。
ユキ様には無反応だった私の危険センサーがビンビンに反応している……!
「あ」
「ひゃいっ」
「畏まらなくていいわよ? 貴女1,000年くらい生きてるんでしょ? 私より年上じゃない」
「ぅぇ?」
「弱っちそうに見えて霊験門は越えてるでしょうし、基礎ステータスや総エネルギー量の差なんて此処にいるとあっと言う間もなく埋まってるわよ」
「はぁ」
そんな様な情報も確かにあった様な気もするけど……にわかには信じられないよね?
「ともかく、貴女には早速仕事に取り掛かって貰うわ」
「え?」
「ちょうど今獣身レベルの研究開発をしている所でね、貴女みたいに何千年も獣身を弄り回してた変人が欲しかったのよ」
「変人……?」
「褒めてるのよ?」
褒めてる……?
これ以上はちょっと口に出せないけど……変人は褒め言葉じゃないよっ!
そんな事を思いつつ、放られた上質な紙の束を見る。
知らない文字だ。なのに読める。怖い。
えーと……竜装兵……霊化粉粒体……予算……? ……!!!!!???
「じゅっ、じゅょっ、ちょぉ…………」
「全域に配備する事を視野に色んなタイプを作成しなさいって黒霧が……あ、一応言っておくけど、資金そのままじゃなくて資材を含めた総合額だからね?」
それにしても凄いと思うんだ。
パラパラとページをめくり、資材の目録を見る。
「……りゅぅしょじゃい…………」
「そりゃ竜装兵なんだから竜素材よ」
これだけあればどれほどの武器や防具、魔道具、いや、兵器が作れるのか。
「取り敢えず案内するから、読みながらついて来て」
「ふぁい」
◇
霊化粉粒体。
元は生命力に闇属性を混ぜた砂粒状の魔力結晶、ゴーストパウダーであり、任意の物体にかける事でその物体の魂魄を活性化、残留する負の因子と結び付いてゴーストやゾンビの様な不死種族を生み出す。
この性質を応用し、任意の属性を込めた結晶を作り対応する属性を持つ物体にかける事で、誰でも簡単に魔物を生み出す事が出来るアイテム、霊化粉粒体の開発に成功した。
砂粒程度の大きさである為、魔力操作による結晶化の負担が少なく、闘気法レベルの操魔力と必要な属性変換能力があれば誰にでも作成は可能である。
ただし、魔力質は個人で異なり、属性配合量もその後に影響がある為、術式による一律な作成を推奨する。
術式は以下、図1は属性配合量が多く精神体化しやすく、図2は生命力が多く物質体化しやすい。
ふおぉぉっ……作り方がっ……DPが浮くっ……!
「で、これが霊化粉粒体の製造装置」
「ふぁぁ……これが……」
目の前に並んでいるのは、一抱え程の大きさの色とりどりな楕円の箱。
鳥の様に小さな頭が付いていて、そこから下に向かって霊化粉粒体が出て来るらしい。
色は多分属性を表すんだろう。良く見ると火や風、雷等を模したと見られる装飾が掘られており、見た目にも分かりやすい。
「取り急ぎ報告書に上げる為に形だけ作ったの。目下の問題は……作った霊化粉粒体は属性に対応する容器に封じて保存するんだけど……長期の保存は空間属性必須で、そこら辺のコスパは最悪だから都度作るしか無いって所かしら?」
「そっか……勝手に変化したり拡散するから保存が効かない……」
「竜属性に関しては竜装兵作成の為に大量生産ラインが完成してるし、必要分しか作らないから保存も気にしてないんだけど……将来的には安価で年単位保つ様にしたいわね」
「ふへぇ」
ふぅむ……直ぐに変質が始まるのが利点なら物は変えられないし、やっぱりケースの方に手を加えるしかないよね?
空間なんちゃらが高価ならそれを使わない方法しか無い訳で……劣化を抑えるならやっぱり触れる物を最小限にした方が良いよね? となると魔力を抜いて……いやでもそれだと結晶自体からも魔力が抜けちゃうし……かと言って抜け辛い様に結晶を大きくすると変質が起き辛くなる……?
「早速考えて貰ってるところ悪いんだけど、あくまでも今は竜装兵に関して労力を割いてちょうだい」
「はひっ」
「結局保存が必要ってなる時は一般に降ろす時だから、向こう数年は不要なの。まぁやがてはやりたいけどね?」
「そう、ですね」
確かに、一般人に売るってなると敵に渡る可能性もあるし、研究段階と言う事ならこのままでもいい。
「あと、もう一度言うけど、畏るのはやめなさい。グラシアの者に変人と言われる事がどれほど名誉な事か、貴女は知るべきよ」
「んぇぇ?」
どゆことぉ?
◇
「現時点での最適解は、竜玉核型の竜装兵と言える」
そう言って男の悪魔が指し示したのが、無色の輝きを持つ宝石。
これが伝説の……高くて買えない竜玉……凄い高濃度の魔力を感じる。
まぁ両隣りの悪魔達にはまるで敵わないけど。
「この竜玉には速度型の竜身精製術式が刻まれており、戦場では魔力を自力補給して欠損を再生、戦闘を継続する」
「装甲はざっと上級魔法1発分を耐え、武装は若竜程度のブレスを吐ける魔砲に爪、牙。そしてそれらの再展開にはおよそ3秒程。まぁ雑魚ね」
「え」
雑魚っ!? 今雑魚って言ったっ!? いや雑魚でしょうけどもっ!
こんなの彷徨いてたらA級冒険者かB級パーティーレベルの危険度だよ!? あともうちょっと強かったら付近の村に避難勧告が出るよ!
「獣身なんてこんな物よね」
「低級の竜玉でこれ以上スペックを上げると補給が必要になるから仕方あるまい」
「低級……」
もう何が何やらだよ……。
ユキ様のお膝元ではこれが常識って事なんだろうね。
「取り敢えずルシアにはこの竜装兵配備計画で経験を積んで貰って、その後ゴーレムとか合成獣とか精霊の基礎を修了……貴重な雑魚向けアイテム開発の御意見番になって貰うわ」
「ぅえー……確かに弱者向けの調整なら1番出来る自信がある」
少なくともこの2人よりは。
コクコクと頷いていると、男の方の悪魔は呆れた様に苦笑いを浮かべた。なんだよぅ。
「変な所に自信があるのだな……まぁ、ともあれ、私は新顔を歓迎する。朝食には期待したまえ」
「そうね、捕食と魂魄の関係についてとか、生命力の基本的な働きとか、貴女にとっては今更な物もあるかもしれないけど勉強する事は山程ある。休んでる暇は無いわよ!」
伸びてきた手が、私の手をがっしり掴む。
「心配ないわ、大丈夫よ。直ぐになんでも出来る様になるわ!」
「そうだな、竜装兵の骨子は出来ているし、残るは細かい詰めのみ。我々が演算力を割く程では無くなっている。後は頼むぞ、ルシア殿」
「はぃぃ……ん?」
それってつまり……責任者を引き継げって事?
「あ、あのぉ……私、迷宮の管理とか学園の管理をですねぇ……」
「それは黒霧と貴女の部下がやるでしょ? 人材育成に関わる部門は厳格に管理されてるんだから、任せとけば良いのよ」
「確認程度には声が掛かるだろうし、安心して研究に励むと良いだろう」
えぇぇぇっ!? そんな話になってるのっ!? ……あれ? 私、その話、知ってる……?
ちょ、ちょっと待ってっ! 頭の整理をさせてっー!!
「さぁ、次行くわよ!」
「助けてジョディ……」
「君の部下も大変だと思うぞ」
ジョディを虐めないでぇー!!
〜その頃のジョディ〜
「空間拡張による範囲の拡大と休憩地点及び給水地点の設置、そして初心者でも倒しやすい魔物の大量配置……確かにこれなら死者数も減り、経済への影響も小さい……」
「冒険者の講習内容……ふむ……心構えに武器の扱い、迷宮や森の歩き方、薬草や毒草類の見分けに……操気法……? 生存率が大きく向上しますね」
「学園で教える内容を更に発展させる……練気法に中級魔法まで……これは……戦力が上がり過ぎる? それに教師自体の教育が必要で……」
「王国そのものの基礎向上……? それは……監視網が構築済み……? 諜報員の類いは全て捕獲教育済み……? …………裏切りや情報漏れの可能性が無いなら……確かに……」
〜情報の波状攻撃に溺れる〜




