掌話 燃え盛るは火神の残影 十
人魔入り乱れる激しい戦場で、赤と青の粒子が交錯する様に舞い踊る。
それは命の散華だ。
プレイヤー達は未だ稚拙な武威を持って、然ながら獣の如く武器を振るっている。
それは自分が何処で舞っているか知らない道化の様だと思わずにはいられない。
隊列などありはしない魔物の群れに飛び込み、叩き潰す様に武器を振っては、囲まれて嬲り殺しに会う。狂気の沙汰だ。
一方傭兵や兵士達はと言うと、ユキさんの厳しい修行を得た事で、一切の死者を出さずに敵を殲滅している。
回避と防御に重点を置き、決して味方から離れず、戦場全体を俯瞰するかの様に立ち回る。敵を引き寄せ囲み離れと、それは然ながら波の如し。
一人一人の技量は勿論の事、群体としての武力すらも、数倍はいるプレイヤー達を圧倒していた。
そんな中にあって、特に目立つプレイヤーが数名。
一人は、大剣士と二つ名で呼ばれ、万人万様のプレイヤー達に道標を与える事で軍団を使役する強者。
その統率力は中々の物で、一般人から毛が生えた程度のプレイヤーを、この最終局面まで生き延びさせる事が出来る程。
個人の武威も、ユキさんが秒で鍛えた傭兵達と並ぶか越える程であり、ミノタウロスとの一戦は、それを見る多くのプレイヤーに感動と興奮を与えたに相違無い。
その仲間達も大した物で、疲労は未だ拭えぬだろうに獅子奮迅の活躍を見せている。
火の騎士は手間だと分かってる様で、その狙いは主にゴーレム。
スピリットが生成する雑魚ゴーレムをばったばったと薙ぎ倒し、雑魚じゃない方のゴーレムも連携して攻撃する事で撃破している。
もう一人は、拳姫と呼ばれる小さな子供。
こいつは誰かに習ったのか、闘気を練り上げ拳に込めて、スピリットを重点的に狙って屠っている。
どうやらこの乱戦下で、スピリットがゴーレムを生成して水増ししている事に気付いたらしい。
武威は勿論の事その洞察力も優れている。
その仲間達は精々下位の傭兵程度だが、それでも十分敵を屠れている。
またもう一人は、未だ二つ名を持たないカイトと言う名前の戦士。
技量こそ拳姫に劣る程度だが、恐るべきはその正確性。
兄妹と共に戦い、攻撃の隙を補い合い、火の騎士の致命的な弱点であるコア部分を破壊して回っている。
主にこの3人とその仲間達が強く、他にも下位傭兵に少し劣る程度の戦闘力の持ち主が一定数いる。
味方が数を減らす中、抜きん出た強者達は徐々に一つ場所に集まり始めている。
……ちょっと誘導されている様にも見えるのは……考え過ぎだろうか?
プレイヤー達が健闘する中、役者である俺達もそれなりに戦いを続けている。
1番目立つのは、ちっさいミノタウロスと正面からやり合っているあずみとノノ。
ちっさい割にレベルが高く、身体能力も高い為、一見して凄まじい激戦となっている。
どかんどかんと地面が爆発し、片や炎と炎、片や炎と氷がぶつかり合って、激しい爆風と轟音が撒き散らされている。
それらの補助をしているのが、俺ともう一人。ノーレルさんだ。
近付こうとするその他の魔物を弾き飛ばし、時間を稼いでいる。
しかし、それも終わりの時を迎えた。
ズシンと大地が揺れる。
木々を掻き分け薙ぎ倒し、それは戦場へ到達した。
——火神の残影。
襲撃イベントのトリを飾る巨大ゴーレム。
一歩が大きいから遠くにいる様に見えてその実到達は早かった。
そんな巨大ゴーレムに対し、黒霧さんの目論見通り、最も近い場所に誘導されていた一定数の強者達が躍り掛かる。
さぁさぁ、格上だがこれ見よがしに弱点があるんだ。精々足掻いて勝利してくれよ?
『ユウイチ、ノーレル両名は最前線に移動。ボスを攻撃するプレイヤーに敵を近付けない様立ち回ってください』
「……りょうかーい」
マカセロリ!
……言うてヴァルメンそう多くないし、俺単体で突出するとなると余裕なんて無いんですけどね。
◇◆◇
叩き付ける様に振り下ろされた拳を大きく避ける。
強化された身体能力に未だ感覚は追い付いていないが、そのおかげで命が救われている。
その一撃は大地を砕き、着弾と同時に噴き上がる炎が爆風となって吹き荒れる。
想定以上に飛んでいなかったら、今頃足がこんがり美味しくなっていた所だ。
……まぁ、強い耐火性のある火竜装備だからそこまでのダメージにはならなかっただろうがな。
ただ一撃で生じたあまりの被害に現実逃避気味の思考を引き戻す。
爆風もあって思いの外飛ばされた宙から着地する前に、拳姫がゴーレムの足元へ駆けるのが見えた。
「全力で行くわ! ネコシェイプ!!」
唱えるやオーラの猫耳と尻尾を生やして急加速した拳姫は、拳のオーラを瞬く間に肥大化させ、勢いそのままにゴーレムの左足へ叩き付ける。
凄まじい轟音が鳴り響き、ゴーレムの足が一歩分程押しやられた。
ネネコのなんでにゃと言う声が聞こえた気がしたが……幻聴だろう。
拳姫に遅れを取らない様、着地後直ぐに突貫をする。
「まだまだぁぁッッ!!!」
さっきそれで失敗しかけてただろうに、拳姫は乱打を続けた。
最初程の威力は無いが、流石のボスゴーレムも執拗な猛攻には危険を感じたか、左足が急激に赤く染まる。
「拳姫! 退けっ!」
その声が届く前に、拳姫はゴーレムの足へ飛び蹴りをかまし、反動を利用してバク転をしながら退避、刹那——ゴーレムの足から火が噴き出した。
そうと思ったのも束の間、足目掛けて渦巻く激流が振り下ろされる。
爆発する様に蒸気が広がって、ゴーレムの下半身が隠された。
強い熱波に構わず突っ込み、少しでも脆くなっている筈の左足へダメージを重ねる。
「ドラゴンクロー!」
「ドラゴンファング!」
「ファイアスタンプ!」
「ウォータースロー!」
「ギガファイア!」
斬撃と爆発。
エネルギーの奔流が濃霧を払い、ぼろぼろにひび割れたゴーレムの片足が露わになる。
念の為離脱すると同時に、あちこちから攻撃が飛来した。
鮫や鱓、青い結晶に緑の矢、黄色の球体が足に殺到し——崩壊。
轟音を立てて、ゴーレムが膝を突く。
そこへ迫ったのは、一度離脱し水蒸気の中を駆けていた拳姫。
「ここが、弱いんでしょッ!!」
叫びと共に、ゴーレムの膝上にある赤い結晶へ、オーラを纏った拳を叩き付ける。
一撃目で赤い結晶が色を失い、次の一撃で砕け散る。
結晶が失われた事で、ゴーレムの左足がぼろぼろと崩れだす。
次の瞬間、ゴーレムの巨大な腕が、拳姫を払い除けた。
生じた爆炎と衝撃に吹っ飛んで行った拳姫は、地面に大きなクレーターを作って停止する。
死んではいない。
腕が当たる瞬間に、まるで猫の様に受け身を取って衝撃を殺した。
ただ勢いと爆発はどうにもならなかった様だな。動かないのは気絶のせいだろう。
拳姫は良くやってくれた。
弱点が分かればこっちのものだ。
この一戦で復活するのは無理だろうし、何だったら拳姫のパーティーメンバーまでもが拳姫を守る為に戦線離脱するだろうが、戦果はこれで十分だ。
『見てたな? 足を崩して機動力を削ぐぞ!』
大地に手を突き、這う様な姿勢に移行したゴーレムを見上げた。




