掌話 燃え盛るは火神の残影 九
「なっ!?」
はぁ!? んなばかなっ!? アレが2匹っ!?
「……1匹でもレイド級だぞ……」
「こりゃあ厳しいな」
「……怖気付いたの? 私は行くわよ」
条件反射なのか虚勢を張ってるのか。ともあれ、少し停止し掛けた思考を動かす。
「……整理しよう」
そうだ整理をしよう。
「敵の総数は?」
「暫し待たれよ……大きさで分かりづらいが……ざっと10万程か……」
「種類は」
「……大型のゴーレム、火の騎士、人の頭程もある宝石の3種のみ、数はおおよそ等分でござる」
「って事は……」
火の騎士が3万匹以上か……それだけでも最初期の戦力と五分五分じゃねぇか。
無理だ無理。隊列を組んでも最初の衝突で前衛が死に、返す刃で中衛が死ぬ。
戦力差が余りに激しい。蹂躙される未来しか見えない。
「……白兵戦だな」
誰かが肉壁となって敵の隊列を引き伸ばし、敵を囲んで撃破するしかない。
普通ならその役目は自然の要害であったり何らかの設備を仕掛ける訳だが、用意されている乱杭や耐火の木壁は既に殆ど潰され、残す所は壁間近や戦場側面の物のみ。
堀が無いのは用意する時間が無かったってこったな。
……次があったらちょっと相談持ち掛けて見るか? 真面目な話、死体が積み上がらないから数で押されても問題なく対処出来るぞ?
「白兵戦か……ほぼ死ぬだろうな」
「致し方ない。だが覚悟は問う」
死んだらそれなりにペナルティがあるからな。
佐助に視線を向け、声を掛けようとした所で、それは動き出した。
「っ! そんな気はしてたぞクソがっ!!」
——ミノタウロスの突撃。
先を進むゴーレム火の騎士を追い抜き、2匹のミノタウロスが戦場へ突き進む。
「やべぇな、行くぞ!」
「ちっ、出るわよ!」
誰かが止めなきゃ無駄に被害が拡大する……!
未だ消えない疲労で悲鳴をあげる足を叱咤し、前線へ駆ける。しかし——
——これは……間に合わないっ……!
拳姫がボス級の様に全身に仄かな光を纏い、カイト達が足を止めて投擲の姿勢に入った刹那——
——轟音が響き、ミノタウロスの巨体がぶっ飛んだ。
遠目だからこそ、何が起きたかはっきりと分かった。
外壁上から跳んで来た赤い鎧の女の剣と、目にも止まらぬ速さで地面を滑る様に駆けた青白い鎧の小柄な騎士の拳。
それが、振り下ろされたミノタウロスの両刃斧と衝突し、ミノタウロスごと吹き飛ばしたのだ。
「戦士達よっ!」
ミノタウロスを吹き飛ばした女が振り向き、剣を掲げた。
「異界より招かれし勇士達よっ!」
その声は、然ながら響き渡る進撃の猛火。
「剣を掲げよ! 軍靴を鳴らせ! 咆哮を響かせろ!!」
女の肉体から紅蓮のオーラが滲み、それに呼応するかの様に、俺の体も熱くなる。
「今こそっ、魂を燃やす時ッ!!!」
刹那、紅蓮のオーラは噴火する様に噴き上がり、同時に俺やNPC含む全ての味方が同じオーラに包まれる。
「これはっ……?」
即座にステータスを見ると、複数の身体強化系バフが付いていた。
その詳細は不明だが、明らかに体が軽い。
全員がこのバフを受けているなら……行ける!
あちこちで鬨の声を上げ、兵士達が突撃する。
多数のプレイヤーがそれに釣られて突撃していく。
本来なら隊列を組みたい所だが、致し方ない。
『俺達も行くぞ! NPCに続けッ!!』
待つべきか行くべきか、律儀に指示を待ってくれた連中に答えを与え、俺も突撃を開始した。
◇◆◇
さぁ、最終局面です。
そんな時に来やがってくださったのが、ミノタウロス2匹。
「……黒霧さーん」
『さぁ、今です!』
「何がっ!?」
と思ったのも束の間、ミノタウロスが駆け出したので戦場へ飛び込む。
レベルは80程度で、火神殿に普通に出て来るレッサーリトルミノタウロスと比べると少々強い。
しかし、支給された聖都の武装を使えば、十分対処出来る相手だ。
プレイヤーを狙って振り下ろされた斬撃を、仙気を込めた逆袈裟で弾き飛ばす。
もう1体を見ると、そちらも吹き飛ばされた所だった。
ノノさんだ。
多少被害は出るだろうと思ったが、多分ノノさんも黒霧さんにせっつかれたのだろう。
それにしてもなんでまたミノタウロスなんかを……。
『効果的であると判断しました』
「あー……」
いや、そうだな。確かに、プレイヤーに対しての演出としては、中々効果的かな?
『では、これより手筈通りに』
「ここからですか!?」
『剣を掲げなさい』
あーもうっ、噛んでも知りませんからねっ!?
言われるがまま、私はプレイヤーとキャストの皆さんへ振り返り、剣を掲げた。
「戦士達よっ! 異界より招かれし勇士達よっ!」
黒霧さんの補助で、私の声は戦場全体に響き渡る。
急な変更でミスも出るかと思ったが、案外落ち着いているのは多分……精神耐性とかのおかげだろう。
厳しい修行を耐え抜いた恩恵だ。
「剣を掲げよ! 軍靴を鳴らせ! 咆哮を響かせろ!!」
事前に読み込んでおいたセリフ。
だけど、そこに乗せる意思は本物だ。
何故なら、私の後方何百メートルには、普通に考えて小国は勿論それなりの国ですらなす術なく壊滅する様な軍勢が進軍しているから。
レベルもそうだし数は9万だし、何より種族が……亜精霊とゴーレムという易々とは死なない強種族。
いったい何処を滅ぼしに行くと言うのでしょうか?
「今こそっ、魂を燃やす時ッ!!!」
疑問を胸に仕舞い込み、噛まずにセリフを言い切った所で、付与魔法が掛けられる。
基本的には全員が対象だが、火の紋章を目印として少し強く付与が掛けられる様にもなっているらしい。
キャストの雄叫びと突撃に乗せられたプレイヤー達と共に、万魔強行にも劣らない規模の敵へ攻撃を開始した。




