掌話 燃え盛るは火神の残影 八
膨大な赤い粒子が解ける様に拡散し、宙へと消えて行く。
後に残ったのは、大きなクレーターとドロップアイテムの角、そして立ち込める熱気と鉄臭さ。
がくりと膝を付いた。
「はぁ、はぁ……」
凄まじい疲労感。
まるで数十キロ走った直後の様に足腰が震え、剣を取り落とす。
荒い呼吸を繰り返し、どうにか息を整えた。
「はぁ……ふぅ……」
最後はクローにするかキラーにするか悩んだが、キラーにしておいて良かった。
火竜戦時もそうだったが、強い魔物は追い詰められるとオーラを出すし、ここぞと言う最後の瞬間には命を燃やすかの様にオーラを噴出させる。
クローだったらおそらく僅差で打ち負けていただろう。
勝ったは勝ったが……ボスを倒したのにクリアのメッセージは無い。
敵を殲滅したらクリアと言う可能性も十分考えられるが、第三波が最後と言う保証も無い。
集まって来たメンバーに指示を出す。
「……俺等は一時撤退する。佐助、戦線を下げる様に指示を、状況把握を頼む」
「任されよ」
「ミヨ、肩を貸してくれ」
「うん!」
「なるべく強い奴等が集まってる方に行こう。次に備える」
チラリとネネコを見る。
いつも通りに見えるが、少し足が上がっていないし、視線が下向きだ。周りを見えていない。
「……テルマ、ネネコを」
「え?」
「……うちは大丈夫にゃ……」
「あぁ、結構消耗してるじゃない。無理しないで。倒れたら事よ」
「んにゃ〜……」
ネネコのアレもかなりの大技だからな。
精神消耗の状態異常が出てる筈だ。
他の皆も相応に消耗してる筈だし、とっとと撤退しよう。
◇
「おー、お前ら、お疲れ!」
「……中々やるじゃない」
撤退先は、拳姫とおそらくカイトがいる壁際。
早速とばかりに両人から声を掛けられた。
「おう、お疲れ様」
その場にどかっと座り込む。
「大剣士、状況はどうなんだ?」
「ぼちぼち……悪い」
「まぁ、敵がそれなりに強いものね」
そうなんだよなぁ。
「……佐助」
「御意」
さっきの報告を、とも簡潔に、とも言う前に、佐助は返事をした。長い付き合いだけあるな。
「僭越ながら拙者が御説明致す」
「許可するわ。話しなさい」
「ははっ! 誠心誠意務める所存!」
「……流石佐助にゃ」
全くだ。
座りながらもふんぞり返る拳姫に、佐助は自分も疲れているだろうに片膝を付き、頭を垂れる。
「……状況は極めて深刻。牛頭の巨人と共に現れた火の騎士は、レベル30前後の戦士達と互角ないしそれ以上の武威を誇り、敵僅か数千体に対して現時点での死者数はおよそ……5,000」
「5,000!? そりゃまた随分とやられたな……」
「第三波全体の分も合わせるとおおよそ1万程と推測され、全体の総合的な死者数は4万と数千に昇ると考えられるでござる」
「ふん……まぁ、たかがレベル一桁そこらの新参になんて、そう高い期待はしてないわ」
大半は特に作戦もなく突っ込んで行った初心者達だ。第一波で2万近くトられた。
その次の襲撃では精々消耗した初心者や中堅、一部上位がヤられた程度だが、それでも数としては1万くらいは行った。
そして次の第三波だ。
敵がぐんと強くなり、火の騎士とミノタウロスもあってか初心者はほぼ壊滅。中堅も大半が死に戻りで、上位は幾らか死んだ上に物資が尽きていると来た。
残りは、物資が無い中集団心理で此方の指示に従ってくれてる上位から初心者までのプレイヤー。
この危機的な状況では固まった方が良いと判断するだろうから、およそ8,000程になると見積もっておこう。
それに加え、純魔法型や珍しい遠距離型が外壁上の一部箇所に集められていて、総数はざっと3,000くらいか?
彼等はもう殆ど物資や魔力が尽きてるだろう。もはやただの観客だ。
俺等としては降りて来てせめてもの肉壁になって欲しい所だが、死に戻り時のドロップやデスペナを考えるとこのまま安地静観だろうな。
後は野良で戦って生き残ってる奴等が数千。
頑なに群れないのはともかく、ここまで野良で生き残ってる奴等は、相当に運が良いか賢いか強いかだ。
物資は減ってるだろうが、まだまだ戦えるだろう。
急遽指示に従ってくれてる連中は……悪い言い方だが、水膨れの戦力だ。
何せ物資が無いから少しでも生存率を上げる為に集まってる訳で、これがゲームだからこそ死に戻りまで指示を聞いてくれるだろうが、ゲームじゃなかったら……見せか置きか最悪捨てだろうな。
「……となると、もし次があったらやばい、か」
「同規模でギリギリ互角と見積もっている。が、同規模では無いだろうな」
「強くなるのが妥当ね。まぁ、最悪私がやるわよ」
ふふんと不敵に笑って胸を張る拳姫。
自信過剰だ。実戦闘力はかなり上の方だが、それでもゴーレムに苦戦している様では話にならない。
「……一応言っておくけど、私はまだ切り札を切って無いわよ」
「俺も、もう少し戦えるぞ」
「そりゃ好都合。俺ももう1発は行けそうだが……精神消耗が治らないと大分マズイな……」
大技使える様になって判明した状態異常で、対処法や条件が不明なんだよなぁ。
取り敢えずその状態のまま戦闘を続行したら悪化する事は分かってるが。
「ふーん……ミナモ、掛けてあげなさいよ」
「まぁ、疲れてる訳じゃ無いし良いけど」
何をと思う前に、ミナモと呼ばれた少女は俺達に手を翳した。
「この者に休息を。マインドヒール」
掌から淡い光が溢れ、体温が仄かに上がる。
心なしか疲労感が抜け、体が少し軽くなった気がする。
チラッと確認すると、精神消耗の状態異常が一段軽減されていた。
「……回復魔法か……」
そう言えばそんなのもあったな。
現状ポーションで事足りる上、回復量や戦場でのリスク、必要スキルポイント的に利点がなさ過ぎて忘れていた。
成る程、精神消耗を軽減出来るってのは良く出来てるな。
各浮遊島でスキルポイントは結構稼げるし、ノービスクエストとかデイリークエストとかで資源や資金、スキルポイントが得られる様になったし、痒い所に手が届く、狙った様なタイミングのアップデートだな。
ミナモに礼をしつつ考察していると、拳姫はドヤった顔で話し始める。
「……そもそもね、武技にせよ魔法にせよ、魔力を行使しようとすると精神力を消耗する物なのよ」
「ふむ……」
隠しパラメータか。まぁ延々鍛錬してれば疲れるのと一緒だな。然もありなん。
「精神力を上げるには?」
「それは……修行したり戦うと良いのよ」
「成る程」
スキルレベリングと通常のレベリングか。妥当だな。
「……そう言えば、講習でそう言った事を教えて貰えるそうですよ」
すっと手を上げて話す少年に、視線が集まる。
「講習?」
「あ、えっと……大型アプデの後に色んな町で受けれる様になったんですけど、魔力の事とか魔法の事とか武技の事を教えて貰えるし、他にも薬草の事とか魔物の事とか教えて貰えるんです」
「へぇ、それはまた……重要な情報だな」
チラリと佐助を見ると、佐助はコクリと頷いた。
さてさて、第三波終結まではまだもう少し時間があるだろうし、休憩も兼ねて情報共有と行こうか。
カイトはモンスターカードについて、拳姫は不明なスキルについて、俺達の知らない事を知っている。有意義な時間になるだろうよ。
◇
僅かな休息と情報交換をし、未だ疲れが取れない中、その時は訪れた。
森からぽつりぽつり、次第に豪雨の如く。
遍く全てを焼き尽くさんとする炎の群れが現れる。
その群れの遥か奥、森の木立を掻き分ける様に、それは姿を現した。
「……まじか」
「……大きい」
「……やれるか?」
——巨大な鎧。
おそらくゴーレムの類いだろうが、それにしても巨大だ。火竜と同じくらいはある。
「む」
「どうした」
佐助の微かな呟きを即座に問う。
「まさか……そんな…………」
「何が見えた」
佐助は引き攣った顔で振り向いた。
「……2匹……ミノタウロスがいるでござる」




