掌話 燃え盛るは火神の残影 七
度重なる衝突。
幾度も地面が捲れ上がり、爆発した様に土石が飛び散る。
——ミノタウロスの技量は大した事ない。
その剛力は、一撃でも当たれば即死する様な代物だが、やってくる事と言えば振り下ろしか薙ぎ払い、時折火を吹いて来るのが厄介と言えば厄介だ。
……ただし、火竜の素材で作られた鎧は高い火耐性を持つ為、吸い込んだり目に入らなければ大きなダメージにはならない。
だが……だがだ……その剛力こそが、攻めあぐねる最たる要因だった。
「ドラゴンネイル!」
バフを掛け直す。
ドラゴンクローは必殺技だが、ドラゴンネイルは強化型武技だ。
全力の振り下ろしにはドラゴンクローじゃないと対処出来ないが、通常攻撃はドラゴンネイルでギリギリ対処出来る。
受け流す事は出来るが、受けるのは無理だ。身体中のあちこちでボキボキいって足首まで地面に埋まる。
剣で受けたにも関わらず、体力は3割も減った。
骨折の状態異常で動きが阻害される中生き延びたのは、佐助の目眩しとテルマの猛攻のお陰だ。
振り下ろされた斬撃を、刃を斜めにして受け流す。
真横でドンッと轟音が響いて土石が弾け飛ぶ。
ミノタウロスは剛力に物を言わせて地面を抉り、土を巻き上げながら両刃斧を横薙ぎに振るった。
引き上げる様な一撃で、威力は低い。連撃の隙間を埋める為の苦し紛れだ。
地面へ大剣を突き刺し、斧を受け止める。
そんな隙に、仲間達が迫る。
「紅蓮の炎よ、我が敵を爆砕せよ! ファイアマイン!」
ミヨのバトンの先から、澄んだ赤を纏う炎の球体が放たれた。
詠唱は定型文から細々と変えられ、魔力消費が少し多い分威力も高い。
炎の球体はミノタウロスのぶっとい太腿に当たり、赤い表皮が微かに爛れる。体は少し揺れた程度だが、その瞳を歪めて痛がっている様に見える。
……やっぱり水属性の方が良いんだろうが、火竜装備で完全に火特化だからなぁ。耐性は良いが攻撃はちと相性が悪い。
「ウォータースロー!」
佐助が投げたナイフは水属性を宿し、ミヨが攻撃した場所に突き刺さる。
それと同時に水属性の爆石が破裂した。
——ぐぐもった悲鳴。
ダメージが通り、ミノタウロスは膝をつく。
大きく抉れた太腿はしかし、直ぐに赤いオーラが吹き出して目に見える速度で再生を始めた。
そこへテルマとネネコが迫る。
「ドラゴンファング!」
「ファイアスタンプ! てぇぇ!」
逆手に振るわれた竜牙剣から、赤い竜の様なオーラが噴き出し、強固なミノタウロスの表皮を容易く貫く。
その反対側では、猫の手の様な手袋をしたネネコが、ネコパンチよろしく負傷部位を連打し、肉球のマークを付ける。
同じ場所に5回ずつ、計10個のマークを付けるやネネコは直ぐに離脱、テルマは抜けない武器を捨て、ワンテンポ遅れて離脱した。
手痛い攻撃を仕掛け、微かに遅れたテルマ目掛け、ミノタウロスは両刃斧を振り上げ——
——爆発。
肉球マークが火を吹いて、ミノタウロスは今度こそ明確な悲鳴を上げ、負傷部位を抑えて蹲った。
ここだ……!
先のミノタウロスの焼き直しの様に、飛び掛かりと同時に大剣を振り下ろす。
「ドラゴンクロー!」
剣から竜型のオーラが噴出し、振り下ろされた爪はその下がった頭部へ迫り——
「くっ!」
合間に差し込まれた両刃斧と衝突した。
赤いオーラを纏い火を放つその両刃斧は、竜の爪と拮抗する。
「ぐ、おおぉぉ!!」
「ブルァァァッ!!」
赤いオーラが激しく明滅し、その境界を交わらせ、消し潰し合う。
それと同時に、片やドラゴンネイルによる強化を施された俺の力と、片や体勢が悪く足を負傷しているミノタウロスの力がぶつかり合う。
果たして——
——轟音。
衝撃——
拮抗していた両刃斧が逸らされると共に大剣も逸れ、地面を粉砕。
次の瞬間、払い除ける様な拳がまともに衝突した。
車にはねられたかの様な衝撃で吹っ飛び、地面を何度も転がって止まる。
「ゴフッ」
血と一緒に痛みと怯みを吐き出して、無理矢理体を起こす。
「ごほ、ごほっ……ぺっ……」
後から後から込み上げて来るせいで声が出せない。直ぐにフレンドチャットを開き、掠れた声を届ける。
『つい、げき、しろっ……手を、休めるな……! 奴、を……!』
そこまで行ったところで、ミノタウロスの負傷部位が再度爆発した。
ミヨと佐助だ。言うまでもなく攻撃を再開していたらしい。
即座に思考操作でクランインベントリからポーションを取り出し咥える。
ゆっくりそれを飲み下す一方で、ミノタウロスへ2人が迫った。
「ドラゴンファング!」
「ファイアスタンプ!」
斬撃が腕に突き刺さり、肉球が足を爆破する。
武器を取り落とし、手を振り回して暴れるミノタウロスへ、佐助達が魔法や破石を投げかけて時間を稼ぐ。
その間にマナポーションも飲み干して、準備完了だ。
大き過ぎる損傷系状態異常は下位のポーションじゃ治らない。
イベント向けに貯めといた虎の子の上級ポーションを消費させられた分のお返しはきっちり付けてやる。
『……よし、もう行けるぞ。全力攻撃の用意を! しぶとく再生される前に一気に削り取るぞ!』
『応!』
ダメージを防ぎ、回復に専念する為か防御姿勢を取ったミノタウロスに、此方は破石を投げつつ、ポーションによる回復を行う。
『魔力充填完了にゃ!』
『此方も準備は万端にござる』
『いつでも行けるわ!』
『お兄ちゃん、合図を!』
『よし、対大型級想定連携! 俺に続け!』
俺が駆け出すと同時に、声もなくそれぞれの行動を開始する。
初動を悟らせない為だ。
真っ先に、堂々と、真正面から突撃する俺に、ミノタウロスは煮えたぎる様な憎しみの視線を向ける。
そのあまりの生き生きとした威圧に、口元が歪んだ。
……いかんいかん。戒めよう。
教えが為か、本能か、火竜戦以来の笑みを浮かべる口元を結び、心なしか威圧の弱まった様に見えるミノタウロスへ迫る。
「ドラゴンネイル!」
ダメ押しに武技も発動させ、大剣をぶん投げた。
ミノタウロスは拾った両刃斧を持ち上げ——
——刹那、背後からの衝撃にその巨体を揺らした。
ぐらりと傾きつつも、飛来する大剣を迎撃しようとするミノタウロスを、更なる衝撃が襲う。
——ドッッ!!
戦場一帯に轟音が響き渡る。爆石仕込みの佐助のダガーだ。
火竜の鱗を使った高額な使い捨て装備で、衝撃と爆発を起こす武技、ドラゴンブラストと火の爆石の相乗効果で高威力の爆発を起こす。
そんな強い衝撃を受けたミノタウロスはしかし、赤いオーラを噴き出して大剣を迎撃した。
此方を睨め付けるミノタウロスの側頭部に、炎が着弾した。
「グモッ!!?」
今ミヨに出来る最大の魔法、火属性魔法35で取得できるギガファイア。
それも、火竜のバトンの強化魔法、ドラゴンチャージを使ったミヨの最大火力だ。
驚愕の声は直ちに悲鳴へと変わる。
炎はミノタウロスの耐性を貫いて、その側頭部を焼き焦がした。
思ったよりダメージを稼げていないのは、赤いオーラのせいだ。
火竜戦の時もそうだったが、強い魔物は土壇場でオーラを纏い、戦闘力を一気に増大させて来る。
焼けた顔面を抑え、ミヨへ隻眼となった視線を向けたその直後、次の攻撃がミノタウロスの背後から襲い掛かった。
「ファイアプレス!」
ネネコが手を振り上げると共に、その背後に巨大な猫の手が出現。
振り下ろす動作に合わせて猫の手がミノタウロスへと叩き付けられる。
巨体が軽く吹き飛び、地を転がる。
その全身を覆う様に付けられた巨大な肉球マークは、即座に爆発し、炎上した。
心なしか弱くなった赤いオーラを噴き出して、火を消し回復を試みるミノタウロスへ、アポートで回収した大剣を振り上げた。
「これで、終わりだッ!」
全魔力と体力の半分を消費して放つ奥の手。
「ドラゴンキラーッ!!」
剣身から爆発的に赤いオーラが広がり、幅広な大剣より尚大きな巨剣が出現する。
巨剣は脈動する様に魔力と体力を吸い上げ、瞬く間に巨大化。
竜殺しの剣を、ミノタウロスへ振り下ろした。
「うぉぉぉッッ!!!」
「ブルァァァッッ!!!」
衝突する巨剣と噴出する赤いオーラを纏う両刃斧。
先と同じ様な光景。
違うのは、その趨勢。
拮抗は一瞬。耐えるミノタウロスの斧を押し込み、地面が音を立てて割れ砕ける。
次の瞬間——巨剣の刃はミノタウロスを両断した。




