掌話 燃え盛るは火神の残影 六
残党を駆逐し、後退。改めて状況を把握する。
6万くらいいたプレイヤーは、この小半時で半分以下に数を減らした。
その殆どは新規のレベルが低いプレイヤーで、第一波との乱戦で落命。
後の第二波では、一波同様に突撃していった数少ない連中がほぼほぼ全滅し、比較的敵の総数が少ない所で戦っていた者達にも少なくない被害が出た。
安全重視の戦闘で、指揮下にある者達にはこれと言った被害は出ていないが、持ってきた物資は既に半分少々。
次来るらしい第三波が第二波より少し強くなるだろう事を考えると、かなりギリギリになるだろう。
ボスクラスを拳姫とかが倒してくれたのが良かったな。
後方への対策は最低限。隊列を崩されたら余計に被害が出る所だった。
NPC達が殆どその場を動かないのは、プレイヤーに敵を倒させる為であると同時に安地を作る為だろう。
素材は手に入っていないが、レベルは上がっている。
大方、新規プレイヤーに向けたレベル上げの為の獲物の供給と言った所か。
ただ、それだけじゃ終わらないのがこのゲームの楽しい所だ。
◇
敵の姿が変わった。
変わっていないのはエレメントくらいで、それ以外が全て、より上位の魔物へと姿を変えた。
難易度はグンと上昇し、想定される適性レベルはおおよそ25〜30程。
中でも木の魔物はタチが悪く、図体がデカめで体が硬く、弱点も不明。
普通なら火を試す所だが、ここに出てくる木の魔物は火の属性を持っている。
そんな耐久特化の合間を縫って、小さな動物型が攻撃を仕掛けて来る。
その動物達は、今までは単なる噛みつきや体当たり程度だったのに、弱い火の魔法を使って来る様になった。
警戒対象がエレメントや人魂みたいなのだけじゃなくなった訳だ。
『全軍、微速後退! 動きの遅い木は放置っ、素早い動物型を優先するでござる! 追撃は禁止、あくまでも後退中に倒せる敵だけを倒すようにっ!』
レギオン指定したパーティーチャットにより、全員に正確に情報が届く。
指示通り、全体がゆっくりと後退る。少々遅いが、攻撃しながらだとこんな物だろう。
木の魔物が迫るよりも早ければ十分だ。
狙い通り、木の魔物がゆっくりと根の足を動かして進むのに対し、動物型はその隙間をすり抜けて迫る。
飛来した小さな火をレベルの高いメイン戦士が受け、その背にポーションや回復魔法が掛けられる。
即座に武技の刃が閃いて敵に致命打を与え、サブ戦士達がその生き残りへ刃を振るう。
硬直が終わり次第後退し、それを繰り返す。
一見好調に見えて、その実消耗は凄まじい。
敵を倒し切るか物資が底を突くかのチキンレースだ。
……ボスに温存しておきたかったが、仕方ない。
「佐助、投擲の用意だ」
「狙いは如何致そう?」
「木の帯を吹き飛ばす」
「相分かった」
ちょうど束になってる。今がチャンスだろう。
『アイテム部隊に通達っ。投擲用意、目標は木の魔物にござる! 繰り返す、投擲用意、目標、木の魔物!』
何度めかの接敵、後武技を放ち、後退——
『——放て!』
佐助の号令であちこちから気合いの声が響き、大量の破石が投じられる。
複数属性の破石は幾らかが手前に落ちて動物型をぶっ飛ばし、殆どは木の魔物付近に落ちて、木の魔物を吹き飛ばした。
《レベルが上がりました》
無数の光りが乱舞し、大きな木の魔物が倒れた事で、視界が広がった。
これで十分殲滅まで持つ筈だ。
未だ油断は出来ないが、一先ず安堵した所で、それは目に入った。
視界の果て。戦場の奥。森の境界。
そこから複数の火が滲み出る様に現れるのが。
「……エレメントの追加……?」
「……いや、これはっ」
視覚機能を強化するスキルを積んだ佐助が、顔を歪める。
「何が出た?」
「……火の塊……球体ではなく人型にござる」
「人型……? 総数は」
「何とも、おおよそ数千程度にござろう……むっ!」
「っ!」
それは、火の人型を押し除ける様にして現れた。
先のゴーレムと同程度の大きさ。
ギラつく赤の両刃斧。
遠目からもはっきりと分かる、膨れ上がった筋肉。
——牛頭の巨人……!
「……アレが今回のボスか」
「周囲の取り巻きも強いでしょうな」
だろうな。おそらく敵の総数が一定値を切ると出現する仕様になってたんだろう。
さて、となると……前線を押し上げるか? それとも——
そこまで思考した所で、森から這い出たミノタウロスらしき魔物は、空を見上げた。
——Guruooo!!!!
響き渡る咆哮。
ゾクっと背筋が震えた。
否応無く視線が集まる。
「はっ……粋な演出してくれるな」
怯みを払い、自分を鼓舞する。
刹那、ミノタウロスは突進を始めた。
「うっそだろっ——佐助っ」
「承知!」
伝令を任せて、前に出る。
佐助含むメンバーが俺に続く。
『全軍、ミノタウロスを避けて進軍開始! 火の人型を殲滅するでござる!』
そんな指示を聞き流し、背に担いだ大剣を抜いた。
火竜の素材を使って強化した、竜牙剣だ。
行けるさ。行ける。
だってこいつよりも火竜の方が大きくて、何より恐ろしかったから。
物凄いスピードで突進して来ていたミノタウロスは、徐に跳躍し、両刃斧を振り上げる。
他のプレイヤーの退避はまるで間に合っていない。
くそったれッ! 流石にそれは……いや、行ける! 行けっ!
「ドラゴンクローッ!!!」
武技を発動した。
レベルアップやスキルで随分増えていた筈の魔力が、ガクンと半減して剣に赤いオーラが宿る。
ドラゴンネイルだと受け切れるか分からない。これは致し方ない事だ。
振り下ろされる両刃斧と、同じく大上段から振り下ろした大剣が衝突した——




