掌話 燃え盛るは火神の残影 五
腕がミシミシと悲鳴をあげ、限界を迎えようとしたその瞬間、微かに小さな声が聞こえた。
「サモン・ゴーレム……!」
刹那、ズシンッと大きな揺れ。
投げ飛ばされる様にして生じた突然の浮遊感。そして急速な落下。
訳も分からぬまま体を縮めていると、思いの外柔らかな衝撃が体を襲った。
「っぶね……はぁ〜……危ねぇ危ねぇ」
「……うみにぃ、その子——」
「——敵来てるぞー」
掛けられた声で誰かに受け止められたんだと気付く。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、青い瞳と目があった。
「おお、良かった。気絶じゃなかったか。ミナモ、回復頼む」
「分かった」
この人には見覚えがある。
確か、カイトとか言うまぁまぁ強い人だ。
ミナモとか言う私と同い年くらいの子が、回復魔法を掛けてくれる。
カイトは私を下ろすと直ぐに立ち上がり、近付いて来ていた人形を一突きで粉砕、同時に動物型を踏み砕いた。
「スピリトーゾ! いるか!?」
「あ、はーいっ! いまーすっ!」
「おまっ、囲まれてんじゃねーか!?」
「いやっ、ほんとっ、ゴーレムをっ、暴れさせようとっ、したんですっ、けどっ、ねっ!」
「今行くっ! 避けてろ!」
「あり、がとっ、ござますっ!」
遠くで小柄な男の子が無様に人形達の攻撃を避け続けているのが見える。
「シャークジャベリン!」
「アサルトファング!」
投じられた槍、と言うよりも銛が、青い鮫や鱓に変じて、男の子の周りの人形を複数同時に撃破した。
カイトは道中の敵を次々と薙ぎ払い、単身突き進んで行く。
……中々やる。
瞬く間に男の子を連れて戻って来た。
「スピリトーゾ、何処までやれる?」
「倒すなら1対1。避けるなら3。被弾覚悟なら2くらいです」
「壁になれるなら上々。ミナモ、アニキ、俺は中の連中と合流出来ないかやってみる。ゆっくり来てくれ」
「任せなぁ」
「無茶しないでね」
さっきと同じ様に、カイトは人形を薙ぎ払いながら一直線に進んで行った。
「えと、大丈夫? 立てる?」
「……なんとかね」
疲労や精神消耗の状態異常になってるけど、なんとか立てはする。
ふらつきながらも立ち上がり、ミナモに支えられた。
「……うーん……サモンブルージェム」
カイトの銛と似たデザインの銛が光り、青い宝石の様な物が2つ現れた。
それは即座に周囲の人形へ水の玉を放つ。
「もう一セット。サモンブルージェム」
また2つの宝石が現れ、周囲へ攻撃を放つ。
ミナモはマナポーションを咥えながら、私を支え直した。
……私の為、よね。
「…………ごめん」
「……良いよ、別に。お互い様だし」
「……」
「次は私とかを助けてね」
「……うん」
借り1つね。
思いの外憂鬱な気持ちにならないのは、ミナモと言う子がフォローしてくれたからだろう。
何となく……普段の素直になれない自分との差を見せ付けられているみたいで少しもやもやしつつも、休息の呼吸を整え、ゆっくりと壁の元へ進む。
疲れてるから弱気になってるんだわ。私は強いんだもの。この程度の借りくらい、直ぐに返せる。
風の壁があった道を通り、中に入る。
見えて来たのは……渦潮。
掲げられた銛の上で、渦巻く水の塊が瞬く間に肥大化する。
そしてそれは放たれた。
「ヴォルテクスハンマーッ!!」
振り下ろされた渦潮を、ゴーレムは両腕でガードする。
勢いよく叩き付けられる水流で、ゴーレムの腕は削られ、ひび割れ、粉砕された。
私の拳と同じ威力なの!?
唸りをあげる渦潮が弾けて消え、後には腕と胴体の上部を失ったゴーレムが残る。
カイトはガクリと膝を付いた。
「ふ、は……なんだ? 疲れた、のか?」
魔力の行使による精神の消耗。これはちょっと誤魔化したり無茶をする事は出来るけど、根本的にどうしようも無い事なのよ。
師匠が言ってたから間違いないわ。
「……はぁ、私の獲物が……」
……まぁ、今回に限っては倒しきれなかった私が悪い。次は絶対私が——
「——まだ、かも」
「ぇ?」
仄かな囁きに顔を上げると、カイトが銛を頼りに立ち上がった所だった。
「くそっ……アニキっ、ミナモっ!」
「合点!」
「任せて」
言うや、兄らしき人は銛を投擲せんと体を捻り、ミナモは私を支えたまま銛を掲げた。
「アサルトファング!」
「サモンブルージェム。バースト!」
放たれた鱓の銛は、ゴーレムの削れた上部に直撃、飛んで行ったブルージェムとやらは、上部の断面に張り付くや、水の飛沫をあげて爆発した。
「やったかぁ!?」
「……フラグ立てないでよ」
「まだだ! まだコアが壊れてない!」
その声と同時に、マイト達も武技を放った。
「イグニッションクラッシュ!」
「ヒートブレイド!」
「シェイカーショット!」
「ピアースゲイル!」
殺到した武技は脆くなったゴーレムの上部を破壊。
邪魔な上部が無くなった事で、コアと思わしき赤い玉がはっきりと見える様になった。
ここぞと攻めに掛かったマイトとアサヒを、ゴーレムの蹴りが襲う。
盾で受けたけど、そのまま吹き飛ばされた。
まぁ、パワーの差があり過ぎるから仕方ないわね。
一撃でざっと2割。防いだ割には大きなダメージだ。
何も出来ない中分析をしていると、真横からその声は聞こえた。
「スローイングダガー!」
スピリトーゾと言う男の子だ。
投げられたナイフは、真っ直ぐコアに当たる軌道。
でも、それだけじゃあ威力が足りな——
——刹那、青い光が爆発した。
「……はっ?」
「やりました!」
ゴーレムが赤い粒子を溢しながら、ゆっくりと消滅する。
《レベルが上がりました》
「……今、何投げたの?」
「あ、はい。爆石って言う少しレアめな消費アイテムなんですけど、それをナイフに付けて貰った奴です。1万MCもするんですけど、遠距離系の武技ってほぼ必中攻撃だから、ここぞって時に使えるんです!」
「へぇ……短剣術取ろうかな?」
「や、投擲って言うスキルもあるのでそっちの方が良いかもしれません」
軽く息を吐いた。
なんて呆気ない幕引き。増してやノーマークだった弱そうな男の子の攻撃だ。
ミナモとスピリトーゾで気の抜ける会話をしてるのも、少しだけモヤッとする。
ここは戦場なんだから、油断してんじゃないわよ……。
銛を頼りに戻って来たカイトが兄に支えられる。
「サンキューアニキ……スピリトーゾ、良くやったなぁ! 何投げたんだ?」
「あ、爆石をナイフに付けて貰った奴です」
「成る程……遠距離武技は命中率高いからなぁ」
カイトとスピリトーゾが話してるのを横に、マイト達も小走りで此方へ向かって来た。
「ヨウ! 良かった……」
「ごめん、何も出来なかった……」
「ごめんね、ごめんねっ。痛いとこ無い? 私、気が動転しちゃって、チ……ヨウを助けられなかった……」
「私も、動揺してた……不甲斐ない……!」
「良いわよ、別に。敵が思ってた以上に強かっただけじゃない」
ゴーレムなんて一撃で倒してたから、コアなんて大した物じゃないと思ってたけど……大物になると如何に弱点を突けるかが大事ね。
「……ヨウ。頭を打ったんだよ……病院に行こうっ先生に診てもらわないと!」
「そ、そうだよっ。いつものヨウなら……動き遅すぎ、やる気あんの? くらい言ってそうなのに……」
「ぅるっさいわね……なんなのよ」
ちらっとミナモを見ると、ちょうどミナモも此方を見たところだった。
流れる様に視線を逸らし、明後日の方向を見る。
それでもじっと、ミナモは此方を見ている。
「……なによ」
「……良い友達だね」
「……友達なんかじゃないわよ」
「ふーん」
……なんでか、ミナモとかその兄達とかは、どうも気が抜けると言うか、毒気が抜けると言うか……ほんとなんなのよっ。
「仲良くしてる所悪いが、敵の密度が濃い、急いで撤退するぞ!」
別に仲良くしてないけど……。
動き出したミナモに支えられるまま、マイト達に指示を出す。
「……壁まで引くわよ」
思ってたより消耗した。
第三波があったら……ちょっと難しいわね。




