掌話 燃え盛るは火神の残影 二
レビュー頂きました。ありがとうございます。
今年中は掌話や閑話が続きますが、ご容赦ください。
大規模イベントに際して、助っ人として何名か派遣されたと聞き、黒霧さんの案内で外壁に向かった。
そこにいたのは、カーレスタさんと鎧の大男。
声を掛ける前に、2人は振り向いた。
「む……確か……」
「ああ、オクタヴィア……ここ使うんだったかしら?」
「いえ、使うのはこっちです」
一段高い場所を指差してそう言うと、2人はちらりとそちらを見て頷いた。
「助っ人が来ていると聞いて、せめてご挨拶だけでもと伺わせて頂きました」
「そう」
カーレスタさんは徐に隣の大男を指し示す。
「彼が助っ人よ」
「紹介に預かった、ノーレル・クレッヒアだ。よろしく頼む」
「報告は受けています。初めまして、私はオクタヴィア・オーディニル。もしくは新妻あずみです」
伸ばされた手を握り、軽く握手する。
神代化処理以降、接触していると相手の意思傾向が微妙に分かるんだけど……この人はシンプルに良い人みたい。
まぁ、聞いた限りだと、かつて悪魔の王と戦って勇者と聖女を守って死んだって話だし、そりゃあ良い人に違いない。
今はレベルが近いから何とか内面を探れているけど、きっと明日には無理でしょうね。
今日のも本格稼働に向けた慣らし運転って言ってたし。
「それじゃあ、報告も受けてるし見えてもいるけど、状況の説明でもお願いしようかしら。あ、忙しいなら良いわよ?」
「いえ、私は教会の顔である聖徒として妄りに作業を手伝うのは禁止されているので、何だったら開戦まで暇です」
現場監督として詳細情報は受け取ってるし、端から説明していこう。
「では櫓の上に行きましょう」
◇
全体を見下ろせる場所に立ち、広い目前の草原を見下ろす。
浮遊都市と言いつつも、至って普通の草原だ。
属性の都合上赤い草や木があり、赤い生物が多いが、特殊エリアに入らない限りは普通の草木が多く、普通の生物も一定数放たれている。
私は一つ、咳払いした。
「こほん……僭越ながら現状説明をさせて頂きます。質問などあれば御随意に」
少し緊張する。
それなりに高位の貴族として生まれ変わり、大多数に対して声を張る事は一定数あったが、緊張した事なんて殆どなかった。
今緊張するのは、相手が圧倒的格上だからだ。緊張し過ぎないのは、格上過ぎて全く理解が及んでいないからだろう。
2人が頷くのを見てから、話を始める。
「主要都市・エヴァンノーンの本襲撃イベントに際する防衛戦力は、主に4つの集団から構成されています」
高所から見下ろすと、あちこちに装備が似通った者達とそうでない者達がいるのが分かる。
赤い法衣や鎧を纏い、噴禍神の象徴である炎の紋章を背負うのが、教会側の勢力。
外壁上には火の魔法を使う法師もとい魔術士がおり、その総数は300名。
地上には北部の神殿に詰めている設定の神殿騎士と神殿兵士、総数300名がいる。
一方、似た様なカラーリングで少し刺々しい鎧を纏っているのが、元エヴァンスタ王国の兵士、現エヴァンノーン公都の兵士達だ。
総数は1500名で、教会側同様に火の魔法が使えるが、教会側よりも魔法の質が低いと言う設定だ。
それと言うのも、火の魔法は噴禍神の加護と言う設定がある為で、公都側にも強い兵はいるが、総合的な質は教会側の方が上という事になっている。
それら似通った者達とは別の集団が、冒険者ギルド所属の冒険者と傭兵達だ。
兵力の合計数は2000名、この内1500が傭兵として登録されている冒険者で、一見すると人と遜色無い様に見えるが、何かのタイミングでふと人じゃないと分かる生きた人形達だ。
そう言ったタイミングが見え隠れする度にちょっと気持ち悪く感じてしまうのは、不気味の谷現象と言うらしい。
似てるけど違う物に対する分類困難な未知への感情が恐怖を誘発するとか言ってたけれど……詳しい所は分からない。
その他500名が、ユウイチ君率いるリベリオンメンバーだ。
今日はルベリオン王国の北の方で色々と大変だったけど……もう一踏ん張りね。
エヴァンノーンとして今回出した兵力の合計が、この4100名。
これに加えて、既に集まっているマレビトが5万少々。チケットを配ってたり事前告知があったりで、結構な数が集まった。
「ふむ……マレビトの指揮はどう執る?」
「基本的には放置です。最初に作戦内容を伝達し、至って簡単な力押しで対応させます」
「……危うい……が、死を厭わぬ明快な白兵戦ならばそんな物か……」
「まぁ、マレビトなんぞに大した事なんて出来ないわよ、何せこの戦場は黒霧が支配してるんだから」
それはそうですよね。
……まぁ、カーレスタさんも理解しているとは思いますが、こう言う時に黒霧さんとかユキさんは何か仕掛けて来たりするんですけどね。
「成る程確かに、殆どが実戦闘力の低い見習い兵士程度であると考えれば、大それた事をしでかす者も少ないだろう」
「……そうですね」
「……そう、だと良いわね」
「?」
でも今日は1回大きな事があったので、2回目は無いと思っておきましょう。
再度咳払いし、次の説明に移る。
「こほん……続けますね。次は敵の勢力についてです」
第一波として押し寄せて来るのが、レベル1桁の集団。
火属性のエレメントがおよそ10万。同スライム系と兎系、犬系、樹木系がそれぞれ3万。
そして、1万の狼系と、同じくレベル10代半ばの狼数十匹を従えた、第一波のボスであるレベル30代の巨狼。
序盤は倒しやすい敵を大量に配置する事で、マレビトを活気付けて早死にさせるのが狙いらしい。
都市周辺に配置されている普段倒している雑魚なので、マレビト達にもやり易いだろうし油断もしやすいだろうとの事。黒霧さんはさりげなく悪魔だ。
第二波は、レベル1桁後半から10代前半の集団。
エレメント5万にその他1万ずつ、それと狼が1万。
これらに加え、火属性の蟹と狐と狐火が1万ずつ。火属性のドールが3万。ボスが、レベル50の大型ゴーレム。
防御力が高かったり、少し魔法を使ったり、武器を使ったりする為、レベル上昇以上に危険度が高い。
第三波は、レベル10代後半から20代前半がメインの集団。
エレメント系が1万で、その他は一段進化した種が1万ずつ。そして、エレメント系の上位種に分類されるらしい火で出来た騎士型精霊が1,000と、レベル80の大型ボス、レッサーリトルミノタウロス。
ここまで来ると、レベルや練度の低いマレビトはほぼ一掃されるでしょうね。
最後が、エクストラステージと言う事で、レベル30からなるゴーレムと火の騎士、エレメント系の上位種であるスピリット系合計3万に、レベル120の超大型ボス、残影憑き。
設定上はスピリット系とゴーレム系の上位種で、質の悪いらしい魔力結晶と火属性を持つ石を組み合わせた無手の巨人。
動きが遅く、足にある結晶を破壊すれば足が、腕にある結晶を破壊すれば腕が動かなくなり、最後に胸の結晶を破壊すれば停止する。
尚、これらの魔物達は死亡後分解され、黒霧さんカウントの数値等を参考に、箱詰めされて分配される仕様らしい。
「れべる120か……それはマレビトに倒せるのか?」
「最初の1万人からも結構な数来ているみたいですし、おそらく可能だと判断された様ですね。最悪私やユウイチ君とノノさんがいるので、突破される心配は無用です」
「我もいるし、そこら辺の心配はないわよ」
「それもそうか」
そうそう、その筈。ですよね?
「……ともあれ、開戦までもう直ぐですから、それぞれ配置に着きましょう」
「分かった、任されよ」
「我は壁内で弩でも使ってる事にするわ」
「それは良いですね! 私もそうしようかな?」
壁の中ならマレビトは侵入禁止エリアだから入っちゃダメって事になってますからね。
「貴女は象徴の立場なんだから上にいなさいよ」
「はーい」
弩の使い方が分からないので元より無理な話です。
◇
それから暫くして、いよいよその時間になった。
壁の外には武装した集団が並び、その少し先には申し訳程度の耐火性がある木の柵等が設置されている。
見下ろすと、マレビトとそれ以外は直ぐに分かった。
兵士達は整列し、冒険者達は武装毎に纏っている一方、マレビトはパーティーやレギオン単位で纏まっており、殆ど無秩序だからだ。
一部弓持ちや魔法メインのマレビトだけ壁の上におり、此方は下と違ってほぼ完璧に整列している。
数が比較的少ないと言うのもあるだろうが、下は概ね白兵戦になるから突撃と撤退の合図だけを教えれば良く、上は接近戦が無い為適切な配置と効果的な攻撃を行わせる必要があるかららしい。
……また、撤退の合図をせずに兵士達を怪しくないギリギリまで引かせたりして、主にマレビトに戦わせるらしい。
『マレビトの総数は現在54,402名。多少の増加はあるでしょうが、6万には至らないでしょう。……各位、間もなく開戦です。カウントダウンを開始、10、9、8……』
黒霧さんのアナウンスを聞きながら、始まりを待つ。
残り数秒で開始とあり、戦場は静まりかえっている。
果たして、カウントダウンは0へと変わった。
——音は無い。
夕焼けの一歩手前の空の下、静かな時が流れ——
ふと、草原の果ての森に火が灯った。
赤い森から生じた赤は次々に数を増やし、それは然ながら火の津波が如く。
私は立ち上がり、空へ爆炎を放った。
鳴り響く爆音。多くの視線が此方へ集まる。
『戦士達よ、死線に挑まんとする勇士達よ……!』
黒霧さんの補助で、声は戦場全体に響き渡り、その意思は一人一人に伝わって行く。
『偉大なる我等が神、ヴェルガノン様の与えたもうた試練を越え、英雄たらんとする者達よ!!』
私は剣を掲げた。
『武器を掲げよッ! 声を響かせよッ! この場に立つ我等が英雄だッ!! 栄光を我等が手にッ!!!』
咆哮が響き渡る。
4100のサクラに乗せられ、響き伝播する意思に背を押された、およそ6万に迫る者達の咆哮が。
心地良い高揚。
伝播する意思に、私も当てられたらしい。
——祭りが始まる。




