掌話 ミナモに映る世界 六
開け放たれた門の先には、水面が広がっていた。
門が床よりも何段か上にあり、部屋自体は水没している様だ。
迷いなく足を踏み入れる。
水深は腰程で、大した深さでは無い。
ボス戦なので、魔法を使っておく。
「サモン・ブルージェム」
唱えるや光を放って出現した2つの宝石が、目前の水中に水流を放った。
直後、静かだった水面を突き破り、ギラリと光る牙が飛び込んで来た。
「っ!?」
刹那、大きな背中が視界を塞ぐ。
「カスケード・ストライクッ!」
放たれた一突きは真っ直ぐ敵の顎を穿ち、出現した4本の水槍が顎をズタズタにする。
しかし勢いは止められず、敵の牙がなるにぃを襲った。
「ジェム!!」
敵、巨大ウツボの頭部に銛を突き込むと同時に、ジェムへ全力で攻撃する様に指示を出す。
銛は狙い違わずウツボの頭を貫き、一方ジェム達はウツボの左右に張り付いた。
次の瞬間、大きな音を立てて、赤の混じる水が弾け飛んだ。
ジェムが自爆したんだ。
ウツボはなるにぃから口を離し、水中へ離脱した。
「サモン・ブルージェム!」
魔力がガクンと減る。一回4割も使うから3度目は発動出来ない。
警戒及び迎撃する様に指示を出し、前に出たなるにぃに近づく。
「なるにぃ!」
「……なぁに、ちょっと噛まれただけさ」
血が溢れ落ち、水面が赤く染まる。
体力ゲージは一撃で3割も削れているし、何らかの状態異常になってて僅かずつ体力ゲージが減っている。
直ぐにネックレスを使った。
「強がんないでよ」
「ははは」
さっきのウツボの5倍はある巨大なウツボの牙は、初期装備を易々と貫いて、なるにぃの腹側部に幾つもの穴を穿っている。
ネックレスから放たれた青い光の玉は、なるにぃに入るや体力ゲージをじわじわと回復させ、その傷が目に見えて治癒していく。
「思ってたより攻撃力が高いな」
「防御は弱そうだったけど……」
「防具の更新はやっぱり大事なんだなぁ」
そんな事を言って警戒していると、ジェムが動いた。
一体が水中に飛び込むと同時に、爆発。水中が赤く染まる。
「水上からは危険だから水中からに変えたのか……?」
「水面の揺らぎが全く無かった。水を操ってるのかも?」
頭が良くて、偽装も出来る。今の一撃でもそう大きなダメージにはなっていないだろう。
たかが中級って舐めてたかも……。
少し重心が後ろを向いていたのを直し、槍を構える。
「ミナモ、ネックレスの効果に水中適性が高くなるってのがあったよな」
「うん」
「俺が潜って引き付ける。ミナモは横っ腹を狙ってくれ」
「分かった」
また庇われてるけど、状況に対する判断としては適正。仕方ない。
「ジェム、なるにぃを援護して」
なるにぃが水に潜り、ジェムがそれに追随する。
果たして、そう離れていない場所で、水面が爆発した。
赤い斑らの水が弾け、巨大なウツボが顔を出す。
そこへなるにぃの槍が迫り、水槍と同時に再度ウツボの顎部分を刺し貫いた。
今だね!
「ジャベリンッ!」
投じた銛は、案外正確にウツボの胴体を貫いた。
頭部が貫かれているにも関わらず暴れるウツボに、なるにぃはぐっと堪える。
硬直が解けると同時に水中へ飛び込み、上がった身体能力に物を言わせて急速接近、なけなしの魔力を使って武技を放った。
「スピア!」
銛はウツボの首付近に刺さった。
「なるにぃ! 任せて!」
「おう、頼んだ!」
なるにぃは即座に離れ、アポートで銛を手元に呼び出す。
ここぞと暴れるウツボを、全力で押さえ込む。
「カスケード・ストライク!」
放たれた武技はウツボの頭を蹂躙する——直前に、ウツボの牙が光った。
仄かに光を纏う牙は、被弾を全く気にせずなるにぃに迫り、血飛沫が舞う。
「ぐぅぅっ!!?」
「なるにぃ!?」
上顎だけの牙は執拗になるにぃに突き立てられ、頭を振ってその傷を広げる。
「づッ! ぐぅ、アポート! スピアァッ!」
「このっ!」
なるにぃも魔力切れらしく、スピアを一回放ったっきり、銛を引き抜いては突き刺す事しか出来ない。
私は銛が骨か何かに引っかかってるらしく、全く抜けないから殴る事しか出来ない。
もうちょっとっ……多分もうちょっとなのに……!
ネックレスのおかげでなるにぃの体力はじわじわと減少するに留まっているけど、このままだともう数秒と持たない。
何か、何か一気にダメージを与えられる手段はないの!?
辺りを見回した所で、腰にあった小さな重みを思い出した。
即座にナイフを抜き放ち、叩き付ける。
「うぁぁ!!」
こんな短いナイフでも、無いよりはマシ。
そんな思いで振るったナイフは、拳ではびくともしなかったウツボの皮膚を案外するっと貫いた。
叫ぶと共に何度も何度も切り裂いて、肉を抉り、骨に傷付け、内臓へ刺し込んで——
《《【迷宮クエスト】『朽ちた水の祭壇に挑む者』を『匿名』のパーティーがクリアしました》》
「……はぁ……はぁ……勝った……?」
勝った。クリアメッセージが流れたんだもん。
深い息を吐き、へたり込みそうになる足を叱咤してどうにか水を掻き分けてなるにぃの方へ向かう。
「なるにぃぃ……」
「おーう、ちょい、まち……」
なるにぃはポーション飲み下し、ギリギリ残っていた体力を回復させる。
本当にギリギリだった。パーティーメンバーの表示の所のなるにぃの体力ゲージは、米粒くらいしか残っていなか——え?
「え、え、なるにぃ、うみにぃの体力」
「……あぁ、見えた。ガクッと半分減ったぞ。こりゃあ行った方が良いかもな」
「……魔力がないよ……?」
「そんときゃ兄妹仲良くって事でなー」
「…………ふん、別に言う程でも無いけどね。行くんなら早く行った方が良いよ」
「合点承知!」
うみにぃ……もなるにぃもガンガン体力減らして……結構痛みもあるのに、無茶ばっかりなんだから……。
……私も負けないくらい強くならなきゃ……!




