掌話 ミナモに映る世界 四
薄青い石の人型。
それが振り下ろした一撃を軽く跳んで避ける。
ずんと重く鈍い音を立てて、地面が揺れた。
此方が構える頃に、ようやく拳を持ち上げる岩の人型。その核である胸部の球体に、槍を突き込んだ。
「『スピア』」
魔力を示すゲージがカクッと減って、槍が淡い光を纏う。
それと同時に半自動的に突き込まれた槍は、岩の人型、ゴーレムの核を粉砕した。
《《【迷宮クエスト】【教会クエスト】『水の祭壇に挑む者』を『匿名』のパーティーがクリアしました》》
周りを見ると、なるにぃは同じ様にゴーレムを倒し、うみにぃはと言うと……長めの銛にゴーレムが3体串刺しになっていた。
「うへぇ、そんなの付けて良く振れたなぁ」
「貫いたまま振ったの……!?」
「まぁ、レベル上がると身体能力も上がるし、幾らかスキルも取ってるからこのぐらいは出来る様になる」
ふーん……そんな物なのかな? ……でも普通の人は1体倒したら一回引いてから倒すと思う。無理……じゃなかったとしてもリスクを背負ってまではしないだろうし。
……あとなるにぃも何気に見てるし。私だけ弱いみたいじゃん……まぁ、弱いけどさ。
落ちて来たアイテム、水流の指輪を拾って、次の迷宮に向かった。
◇
翌朝。
軽く運動してから朝御飯を食べ、休日とは言えある色々をこなしてから、ゲームを始めた。
昨日の夜は結構大変だった。
初級、下級と来て中級となった迷宮から、難易度が2〜3倍程に跳ね上がったからだ。
敵は強いし全3階層あるしで、地図のおかげで迷いこそしなかったが、一つの迷宮毎におおよそ4、50分は掛かる。
そんな迷宮全6個を巡り、水流の指輪6個と35万MCを入手、レベルも15まで上がり、かなり良い感じで順調に行っているらしい。
一点問題なのは、その更に一つ上のランクの迷宮。
うみにぃが見てきた限りだと、うみにぃですら連戦は危険で、未だ適正レベルには至ってないらしい。
と言う訳で、今日は町の外に行ってみる事になった。
何処となく青い木や草が見える以外は普通の草原。
澄んだ青空と仄かな風の中、あちこちから聞こえるのはプレイヤー達の声だ。
あっちを向けば初期装備のプレイヤーが兎を囲み、こっちを向けば同プレイヤーがスライムを叩き、はたまたそっちを見ればプレイヤーではないっぽい耳が長かったり背が低かったりする人々が森に入って行く。
広い草原の中は、おもちゃ箱をひっくり返した様な騒ぎになっていた。
「……何でこんなにいっぱいいるの……?」
「森に入ると難易度上がるんじゃないかぁ?」
「聞いた話だと、エリア毎に群れてる敵が変わるらしい。中には明らかに他と違う色だったり形をしている個体に襲われた奴もいるとかで、取り敢えず安全な草原でレベル上げてるんだろ」
それにしたって街中に迷宮あるし、そっち行けば良いのに……資料室使ってないのかな?
「都市内の迷宮はつかわんのかなぁ?」
「聞いた限りだと、何か入れなかったらしい。理由は不明。入れたって人も少しいるみたいだ」
入れなかった……? なら草原に人がいっぱいいるのも納得。
……でも何で入れなかったんだろう? ゲーム的に考えると、フラグが立ってないって言うんだろうけど……そう言えば迷宮クリアしたら教会クエストって出てたし、もしかしたら信徒しか入れない仕様……? あり得る。
差し当たり私達は、最も近い初心者向けの迷宮に向かった。
◇
そこは小さな森。
樹間距離も広く、藪が殆ど無く、管理された森だ。
資料室の地図では、範囲も狭かった様に思う。
そんな森には、草原程じゃないけど、沢山のプレイヤーがいた。
あちこちでプレイヤーの声と獣の声が上がり、時折青い粒子が散らばる。
これだけのプレイヤーがいても、目的地に到達するまでに数度の遭遇があった。
「ふっ」
浅く息を吐いて、何度目かのスライムを撃破する。
穂先を核に当てたまま、解体スキルを使用した
。
「ん?」
「んん?」
「お、ラッキーだったな」
出て来たアイテムを拾う。
ぷにっと柔らかい感触の、青い半透明な楕円形の物体だ。
核かその欠片か小瓶に入った液体くらいしか出なかったのに……なんだろう、コレ……。
「それはスライムゼリー……って皆呼んでるんだが、解体スキルを使うと低確率でドロップするレアアイテムだ」
「ゼリーって事は食べられんのかね?」
「ああ、食べると体力ゲージに被る様に青いゲージが少しだけ付く。決闘の時に出るのと同じ物らしいぞ」
ふーん……成る程……。
「……高いの?」
「そこそこ高い。少なくともスライムのドロップ品の中では飛び抜けて高いな」
「そう」
やったね。まぁ、ちょっとだけって話しだし、スライムのドロップ品の中ではって事だから大した事ないんだろうけど。
「効果は体力ゲージの最大まで重複して、おおよそ1時間発揮される。その間は体力が実質増加で、ポーションで回復出来る」
「中々有用なんじゃん?」
「ああ、でも数を集めないと大した効果はないから売った方が良いな。大剣士とかの所が高く買い取ってくれる」
「大剣士?」
「相当デカイプレイヤー集団のボス。大剣士は二つ名な」
ふーん。そんなのいるんだ。二つ名か……。
「……じゃあうみにぃにも——」
「——お、みえて来たぞー」
……何かあるね。絶対。後で調べよ。
今は攻略が優先だ。
見えて来たのは、森の中にポツンと開けた草原。
その中心には幹の太い大木があり、根の付近には古びた祠の様な残骸と、人が数人同時に通れそうな大きな穴が空いていた。
「良し、行くぞ」
少し緊張するのは、それが今までの迷宮と違って、整備された感じがしないからだろう。
槍を握る手に、自然と力が込もる。
ゲームって、こう言う緊張感を味わう為にやるんだろうね。
◇
その迷宮は、やはり整備された迷宮とは違った。
階層こそ全三階層らしいが、出現する魔物は1種類ではなく、エレメント、鼠、犬、スライム、歩く木の5種。
壁は土や岩で装飾は無い。全体的に薄暗く、一部壁や床、天井が青白く光っているのがこの迷宮の唯一の光源だった。
そんな入り組んだ迷宮を進み、数回のプレイヤーや魔物との遭遇を経て最深部と思わしき場所に到着した。
そこに有った門だけは精緻な装飾がある。
いざボス戦と勇んで門に触れたけど、その門は開かなかった。
ちょっと調べると、装飾に何かをはめ込む様な窪みが6個空いているのが分かった。
そしてそれが属性石とか言うアイテムだろうと当たりを付け、うみにぃが持っていた属性石をはめると、門が重い音を立てて開く。
そこにいたのは、大きな木の魔物。
祭壇級の迷宮で彷徨っていた奴と同じ奴だった。
《【迷宮クエスト】『朽ちた雫の祠に挑む者』をクリアしました》




