第31話 霞の様に人知れず
続けて向かったのは、古くからある城塞都市。
この城塞都市は、動物組を捕まえた森の北、森と草原の境目にある。
それらはかつての防衛の要と見られ、北と南を分断する様に壁が連なっている。
その壁は殆どが低く、山から海へ掛けて存在し、川を流用した水堀がある。
実は山側から回り込むと壁を直ぐに抜けられてしまう為、少しだけ南へ突き出す様に壁が存在するが……そもそも警備の人間が殆ど居らず、通過は容易い。
そんな人員不足でほぼ無意味な城塞都市は、その他多くの町や村同様に、閑古鳥が鳴く様な有り様だった。
都市自体の壁は随分昔に改修され高くなっているが、人が殆どいないからもはや砦ではなく複雑な家である。
その城塞都市は、遥か昔は国境であり、その任を解かれた後も王都防衛の要衝として発展した。
人がいれば営みがある物で、水も引いて兵士もいてなんだったら目の前は平原で農地としても使えた結果、大きく発展したのだ。
今その町に残っているのは、一部の兵士と新兵、そして少しの町民と冒険者のみ……あと帝国兵もいたか。
そんな寂れた町には、小隊規模のヴァルハラメンバーを送り込んでいる。
隊長は、早瀬健弥君。
能力は、武装技師。
コトノちゃんの万物創造やシャルロッテの聖宝創造とは異なり、どちらかと言うと四月一日妹の錬金術に近いユニークスキルだ。
能力の概要は、凡ゆる物を武器化させると言う物。
その本質は、物体の魂に働き掛け、内在信仰を利用してある程度望みに沿った武器を製造する事。
物体を強制的に変化させ、その物体に宿すには余りに大き過ぎる出力を出させる為、創造した武器は壊れやすい消耗品となる所が欠点と言えば欠点だろう。
覚醒処理する前の元の能力は、壊れた武器を直したり、素材を用意して使い慣れた種類の武器を作ったり、又はほぼそのまま武器として使える様な魔物素材等を少し整える程度の力しかなかった。
仮に神代化処理するとしたら、もっと魂の成長を助ける様な構造を付け足し、信仰の具現化をより高次に実現出来る様にするのが良いだろう。
信仰を具現化し易くなれば、火や風等の現象さえも武器化出来る様になるだろうね。
そんなケンヤ君は、着任後直ぐに冒険者としての責務を全うする為、黒霧の補助を受けつつギルドの依頼を全把握。現在のその他冒険者の処理能力と依頼難度、重要性、緊急性を整理した黒霧データベースを参考に各地に分隊を派遣した。
領主やその他の領分は冒さずに出来る依頼化されていない仕事も請け負って貰っているので、案外と余力は無い。
整理後は自らも分隊を率い、極めて緊急性の高い戦場へと向かった。
◇
その武器は、たかが身体強化と硬化が付与された程度の石槍。否、石柱。
ケンヤ君はその身体強化による剛力で石柱を振り下ろし、亀型の魔物の甲羅を叩き割った。
一撃で絶命した亀と石柱には目もくれず、ケンヤ君は既に地面へ手を着いている。
「武具創造」
そう唱えるや地面がごっそりと無くなり、ケンヤ君の手には新たな石柱の柄が握られていた。
先と同じ様にそれを振り下ろし、亀の魔物を粉砕する。
「っんとにもーー!!」
ケンヤ君は怒りの声を上げ、再度石柱を生成した。
「多過ぎんだよーーッ!!」
また1匹、亀の魔物が爆散する。
フォートレストータス LV40
ウォールトータス LV24
ロックトータス LV22
イエロートータス LV23
バイツトータス LV20
コルムタルク LV41
下位個体も入れると、その総数は300を越える。
何を隠そうこの亀軍団。迷宮から溢れ出した所謂スタンピード現象の産物である。
レベル20代の個体は能力強化系の魔法を使うし、40クラスに至っては砲撃やチャージアタックをしてくる為、脅威度としてはざっと町消滅級だ。
これら亀軍団は、迷宮の意思に従い周辺の野生生物を追いつつ、生存に適した平地を目指して山を降っている。
1〜2日以内には砦や港町と王都を繋ぐ街道に到達し、それなりに被害を出していた事だろう。
これらが出現した原因は……まぁ地脈の活性化即ち転移門の起動な訳で、僕と無関係では無い。
発生したのは1日程度前で、ゆっくり進んでいたので無視した形だ。
折角だからヴァルハラにやらせてみようと放置した訳である。
「おるぁッ!」
ケンヤ君は雄叫びと共に石柱を振り下ろし、レベル20代の亀を倒して回る。
一方2体いるレベル40代を抑えているのは、副官に任命されたゴーレム使いの男女。
ヤカルナ先生の教えに則り、素材を買い集めて作った彼等のお手製ゴーレムは……粗が目立つがそんな物だろう。
オブシダンゴーレム シュプリンガー LV29
プラントゴーレム アルボル LV32
黒曜石で出来た小柄なゴーレム、シュプリンガーは、衝撃に弱い為硬化と再生が付与されているがやっぱり衝撃には弱い。
一方攻撃力は高く、斬属性と闇属性に高い適性を持ち、魔法耐性も軒並み高い。
シュプリンガーはその魔法耐性と身のこなしで必死にフォートレストータスの光線を避け、思い出した様にその比較的柔らかい足を斬りつけて時間を稼いでいる。
一方、生木を材料とした大きなゴーレム、アルボルは、植物を成長させる魔法であるグロウ・プラントの出力を上げた物を使い、自らの体で盾や槌を作成した。
コルムタルクなる白い大亀の突撃を盾で受け、続けて重量で抑え込み、槌で大した意味のない攻撃を続けている。
火を除く各種耐性もあり、防御力や生命力も十分な為、10ものレベル差でもどうにか戦線を維持出来ている。
また、副官達は即席ゴーレムを数体作成し、自らも武器を持ってレベルの低い亀を撃ち減らしている。
勿論スタンピードに対抗しているのは3人だけでは無い。
覚醒処理を施された7人の戦士達も、呪傷の心器もどきを振るったり半獣化したり、雷を使ったり歌と楽器で援護したりと中々に活躍している。
まぁ、基礎戦闘力とユニークスキルが有れば、格下の群れなんてどうとでも出来るだろう。
唯一フォートレストータスの光線とコルムタルクの突進だけは、種族的防御力の観点から危険極まりないが、それはゴーレムが抑えているので問題ない。
暫く後、上位亀とその他を殺し尽くしたケンヤ君達は押さえ付けられているコルムタルクへ攻撃を集中。
ここぞと暴れ狂うそれをどうにか撃破し、フォートレストータスへ挑むも……流石に魔力切れで苦戦した。
2体のゴーレムも体を破損して機能停止。その他の即席ゴーレムは粉砕され、防御力が《お金を掛けていない為》低い副官や負傷者が大事をとって撤退。
致し方なしと、ケンヤ君は大事にとっておいた武器を抜き放った。
それは、そこそこの魔力とそこそこの戦闘経験を掛け、再三にわたって武具創造を使って鍛えあげられた、ケンヤ君メイクの魔装の一つ。
元は蛇の鱗を変化させて作った竜殺斧、蛇ノ目丸。
衝突と同時に先端が突き出す構造をしており、魔石を変質させた蛇の目模様には竜属性の魔力が込められている。
ケンヤ君はストックされている身体強化の腕輪を消費し、フォートレストータスの宝石甲を竜属性により破壊、流石のフォートレストータスも度重なる戦闘とゴーレムにより魔力切れしており、そのまま討伐と相なった。
やっぱり基礎能力が高いと、魔力が切れても強いから良いよね。
人間は脆弱だが、魔物は強力だ。
そんな事を考えつつ、おかわりするかと捕まえておいたレベル50代の鋼亀を両断した。
動きが1番遅いから残しておいても良かったけど、生憎と彼等には鋼亀の為に割く時間はあまり残されていない。
それと言うのも簡単な話……。
——スタンピードが連鎖発生する。
亀のスタンピードは転移門関連だが、これから起こると予測されるスタンピードは……生産核の大量消失による地脈エネルギーの急激な収束が原因だ。
……因みに南部は支配により発生前に終息済み。北部でスタンピードを放置してるのは……これもまたいつも通りの事情である。
尚、街クエストと認定されるクエスト『鈍重進撃』をクリアして貰った亀の盾と一部素材はケンヤ君に下げ渡す方向で黒霧に指示を出した。
最後に僕は、集まって勝利を祝う皆の前に姿を晒し、手を振る。
「お疲れ様。また頑張ってね♪」
ウインクしつつそう言うや、即座に姿を消して次へ向かった。
パッと現れたユキの色違いが、パッと消える。
スタンピード鎮圧分隊は何もいない虚空を見下ろし、暫しの時を得て、リーダーであるケンヤが口を開いた。
「……え? 今……」
なんかいた? と言い掛けた所でようやく理解が追い付き、自分達の主をなんか呼ばわり仕掛けた口を噤ませた。
「……今、ユキさんいませんでした?」
「……最初からいたのか?」
「気付かなかった……」
数人が唖然とする中、一部ユキが消えた虚空に熱い視線を送る者達がいる。
「やっば……生ユキ様見ちゃった、やば……!」
「すげぇ……俺、ユキ様生で見るの初めてなんだけど……すげぇ……」
「色違いだったから生ユキ様では無いのかも……今回のは分裂説と妖精説どっちだろう? 両方?」
何を隠そう彼等は、ユキファンクラブ会員番号4桁代、サウザンドホルダーの紳士淑女達である。
尚、ファンクラブ管理者は黒霧であり、100番代までは(恫喝により)ユキの直属配下達が殆どを占めている。
貢献度や信仰等を計測したカードのランクアップもあり、日夜熾烈なランキング戦が繰り広げられているとか。
またグッズ等も密かに販売され、闇の支配者黒霧の資金源の一つとなっている様だ。




