第29話 北に降りる
第八位階下位
その後、服を作ったり一人一人に各属性魔力の操作訓練を施したり休憩したりとあれこれやって、正午を回った。
昼食やら仕事やらその他の些事を片付け、再度ログイン。
イベントやら何やらを十分回して行けるだけの地力が整ったので、暫し味方は放置して、北方の様子を見に行く事とする。
◇
北方は薄曇り。
西から仄かに吹く風が草原を駆け抜け、雲間から覗く光が広い草原を斑らに照らす。
そんな平和そのものに見える北方は、しかしよく見ると迷宮産の人を襲うモンスターが跋扈し、それを倒した冒険者《帝国兵》や傭兵《帝国兵》が村や町で厚遇されている。
狙いは分かる。
クーデター成功後、北方を実効支配。もしくは時間を掛けて侵食しようと言う魂胆であろう。
もしクーデターが成功していたら、アルト君は実質帝国に頭が上がらない王となっていた筈で、仮にそれら全てを反故にしようとしても……頭数はともかく質で圧倒的に勝る帝国軍が北部の至る所に潜んでいる為どうにもならなかっただろう。
それらはアルト君がどの様な対応をしても対処できる様に布陣されていた。
その念の入れようと言ったらしっかりした物で……ティールやラグートには、10代後半のハイレベルな小隊が紛れ込んでいた。
これは、王国南部への情報伝達を阻止する為であろう。
クーデター後に王国軍の御旗を立て、トンネルや船の使用を禁止すれば良いだけなので、封鎖は極簡単な話だ。
……帝国側からしてみれば、アルト君が密約を反故にする方がやり易い。
そして事実そうなる様に状況を操ろうとしていた節がある。
少なくとも、ティアを毒殺しようとしたのは間違いなく帝国側の独断であり、それに対してアルト君が激怒するであろう事は想定内だった筈だ。
事によっては隠す事なくひけらかしていたかもしれない。
今の時点で僕を除いた場合、優位に立っているのは帝国なのだから。
……その一方で、帝国は王国南部を警戒している様にも見える。
何と言ってもレベル10後半と言えば、王国からしてみれば精鋭も良い所。それが50人ずつティールとラグートに配置されていると言うのは、余程南部に情報を伝えさせたくないからだろう。
複数の不確定要素がある中作戦を実行に移したのは、それらがマレビト関連の物で王国の権力中枢には大して関係ない事が分かっていたり、アルト君が強行したからだろうが、その上で南部の封鎖にこれだけの戦力を投入すると言う事は、帝国は南部に明確な脅威が存在すると認識しているからに他なるまい。
全ては推測の域を出ないが、仮に情報が漏れたとしたら、ルステリア公は確実に動く。
取れるルートは海か洞窟のみ。
例によって国民を逃す為大きな船は無く、実際に行軍出来るのは洞窟ルートだけで、そこは既に帝国が抑えている為、自然の要害によってそこから進軍すれば致命的損害を受ける事は明白。
となると……帝国が警戒しているのは、それらに足止めされる様な並の脅威ではない。
迷宮があるが故に精強なルステリアの騎士団を、容易く退けるに足る地の利と兵力を有して尚警戒する物とは……?
……おそらくだが、帝国はルステリア公爵が迷宮主と繋がりがある事を知っている。
と言うか、帝国の真の狙いはダンジョンマスターの始末、もしくはそれを手中に収める事なのではないだろうか?
そんな訳で、既にほぼ安全圏である南部、その調査及び支配は時間が掛かる為半ば放置とし、差し当たり北部の支配を優先する事とする。
現状一定の支配を得ている為緊急性は低く、僕がでしゃばる程ではないので、やる事と言えばただの様子見だがね。
◇
ヴァルハラの一部の者達は、浮遊島の方で活動実績を作ると言うお仕事がある為、北方にかかりきりにはなれない。
そんな中での北方戦線のリーダー選考は、若干の時間を要した。
ヴァルハラのトップメンバーは皆役職持ちかそのパーティーメンバーで、現在余ってるリーダー経験のある者が少ないのだ。
勿論、ユウイチ等のトップメンバーは助っ人として参戦するが、その場に常駐するリーダーはどうしても必要だ。
ただし、最悪黒霧がいれば回るので、この機会を育成にも使う事とした。
そもそも、支配を急ぐ理由は主に3つ。
プレイヤーの進行速度を上回り整備を進める事と、我が国の民をちゃんと支配する事、そして盗賊や帝国等の敵対的人間を始末する事だ。
その点、1つ目は十分なアドバンテージを得ているし、同様の理由で3つ目も暫くは大丈夫。帝国が動くにも時間はある。
そして2つ目は最初から急ぐ気が無い。仮に早く動けば助かった人がいたとしても、それには目を瞑る。
僕には全てを救う力は無いのだから。
そんな訳で、北部に派遣されたヴァルハラの若人達は、只今実戦と言う名のリーダー研修をしているのである。
一方我等が研究者達はと言うと、例の船に乗り竜装兵なるゴーレムの様な物の研究開発を行なっていた。
一見して竜素材を大量に使ったゴーレムであり、その内部にはコアの様な物が2つ入っている。活動はそれらのコアに依存している様に見えるが、その実それら全てをコントロールしているのは霊体だ。
霊化粉粒体を亜竜の鱗や魔石を砕いて配合した特別な粉に使用して生み出したゴーストドラゴンである。
ゴーレムの体やコアに見えるそれは魔導鎧の類いであり、竜素材を使っている為高い出力を誇っている。
見た目は小型の竜であり、口腔の砲や爪が主な攻撃手段だ。
中々どうして悪くない代物である。
惜しむらくは作成された魔導核が演算補助装置では無くただのリモコンである所と、各部材が別々の亜竜素材を使っている為生じる適合率の低下をもう少し改善すべきなのと、戦闘力の向上には勿論装備の性能を上げるのが良いのは間違いないがゴーストドラゴンの強化もした方が良い所と……まぁ挙げて行けばキリが無いからここまでとしておく。
勿論出力以外にも良い所はある。
帝国の天命騎士は、魔石と言う未知を金属板と言う既知で補い利用しようとしたが、此方はゴーストドラゴン自体に同属性の魔石が投入されている為元より適合率が高く、自力での操作が可能となっている。
魔石と言う物は種どころか個体によって構造が様々である為、その性能の全てを使い切れてはいないが、使えていればやがて全てを使える様になるだろう。
武装も汎用性に特化しており、付け替えや調節が可能。
装備はゴーストドラゴンの精神体を保護する防護膜を展開する物や機動力を上げる物が基本で、生存力の向上を行いつつ集団で外敵に対処する仕様となっている。
と言う訳で、僕は急遽白衣と眼鏡で変装したツキになり、ヴァルハラと竜装兵が蔓延る北方の地に降りたってみた。




