第16話 地下墓地
第四位階上位
墓地へ到着した。
浄化の結界と降り注ぐ陽光のおかげで、不浄の気配が全く感じられないこの場所は、地下に地獄が広がっているとはとても思えない。
聖気や生気、光の魔力を地下に流し込む事が出来れば、放置していても問題無いのだが……。
聖気を発生させる魔法陣は知っているので、長期間の魔法発動に耐えうる材料を使用しなければならない。
清浄なる武器の封印に使われていた金属板なら、長期間の負荷に耐えられるのは間違い無い。
これを流用して聖気を発生させる装置を作り、地下墓地の内部に設置すれば相応の効果が見込めるだろう。
皆がやってくるまで時間もあるので、その間に作ってしまおう。
インベントリから金属板を三つ全て取り出すと、先ずは写真を撮る。
かなり複雑な魔法陣で、何処にどの様な効力があるのか殆どわからない。
「むむ?」
構わず錬成を使うと、少し変形させるのにも想定以上の魔力消費を強いられた。
やはり、長期の負荷に耐えられるだけあって、物としての質はかなり高い。
魔結晶を作るのにも相当な魔力が必要だったので、これらは実質、今の錬金術のレベルでは手に余る代物なのだろう。
魔水晶から魔力を補充しつつ、力技で変形させて行く。
描いたのは魔力吸収と聖気発生の魔法陣。
自動で周囲から魔力を吸収し、一定以上の魔力が貯まると聖気発生に切り替わる様に作ってある。
金属板の上に魔石などの、魔力が多く含まれる物体を置けば、それから優先的に魔力を吸い取る仕様だ。
作った魔法陣を設置していると、墓地に人が入って来る音が聞こえた。
足音から全員が揃っている事がわかる。
金属板の錬成に少々時間を使い過ぎたらしい。
白雪には浮いて皆を呼ぶ様にお願いして、僕はザイエが吹き飛ばした入り口の修復作業に入る。
聖気が地下に注ぎ込まれる様に元の姿とは全く異なる形状に錬成し終えた所で、皆が到着した。
「ユキ……ここは?」
「ここが地下墓地の入り口だよ。さぁ、行こうか?」
特に傷を負った様子の無い皆を迎え、地下へと歩みを進める。
今回はお試しと言う事で、一階の殲滅を進める手筈になっている。
それぞれに灯り石を持たせ、複雑な地下墓地を進み、地図を共有化して一階層を攻略する。
幸いな事に、地図スキルは階層毎にページが分かれているので、間違って下の階に進む事もない。
墓地の中は閉鎖空間になっていて、瘴気と腐臭に溢れていた。
暗闇と相まって悍ましさが倍増している。
「それじゃあ皆、暗がりには気を付けて、常に地図を見ておく事。行こうか」
各パーティー毎に分岐路で分かれて行く。
外とは違って鬱屈とした閉鎖空間なので、地上の戦いで青ざめていたメンバーが心配ではあるが、まぁ、苦手は克服しなきゃね。
地下墓地内部で出てきたアンデットは地上の物に比べるとレベルがほんの僅かに高めで。
瘴気が満ちる地下空間なので、戦闘力もレベル以上だ。
これで手に入る物が死体と爪程の大きさのクズ魔石なのだから、ここを攻略しようとするプレイヤーは碌に居ないだろう。
一層では特に上位のアンデットは出て来ないので、のんびりと進める。
暗闇に乗じて襲い来るアンデットも耳を生やせば事前に分かる、氷魔法で氷漬けにして砕けば処理もお手軽だ。
タクの期待するお宝は、墓荒らしをする以前からわかっていた事だが、金属性の物は錆びているし、それ以外は朽ちて使い物にならない。
墓の様子や中に入れられた副葬品からも分かるが、地上付近の墓は平民や権力の低い人物の墓らしい。
深く深くへ進んでいけば、より副葬品も良い物になって行く事だろう。
実際、爺様とザイエの三人で潜った時に、壊れた墓から宝石の様な物や何やら綺麗な光り物が見えたので、間違い無い。
誰が咎めるという訳でも無い、全て浄化した暁には資産として回収してしまおう。
しばらく進んでいると遠くに明かりが見えた。
と言うか、夜目と狼人の目で分かるが、外である。
近付いて行くと、それが何なのかわかった。まぁ、わかっていたが。
遥か真下から地上まで繋がるその大穴は、腐竜王が這い出て来る際に開けた代物だ。
墓地からも見えていたが、一体何が起きたらこうなる、と言いたくなる様な絶景である。
所々から黒っぽい霧の様な物が下へ落ちて行っているが、これは墓地から溢れた瘴気が地下に落ちて溜まっているのだろう。
道理でアンデットの数が少ない訳だ。
この分だと、速やかに攻略しないと最下層で強いアンデットが発生し兼ねない。非常に不味い事態とも言える。
対策を練らなければなるまい。
◇
「……もしもし、セバスさん、聞こえるかな?」
『おや? ……これはこれは、ユキ様ではありませんか。どうか致しましたか?』
「ちょっと急用でね、実は——」
かくかくしかじかとセバスさんに説明する、攻略を頼めればして欲しいが、まぁ注意を促すだけでも十分である。
僕としては、多少強い魔物が発生しても、古の不死賢王の時より酷くはならないだろうと考えている。
なので、最悪の場合でも、僕の保有する戦力でどうとでもなる事案だ。
『——わかりました、我々も協力させて頂きます』
「助かるよ、でも危険を冒す必要は無いからね? 上澄み部分を払ってくれれば後は僕が如何にかするよ」
『承りました、それでは最下級のヴァンパイアを派遣しましょう』
「うん、ありがとう」
『勿体なきお言葉です』
セバスさんの協力を取り付けた。
フェイリュア・ヴァンパイアなら上層部分は安心して任せられるだろう。
三日後のパーティーが終わった後に、アンデット組や、地下水路で駆除を行っている新参組を派遣すれば事足りるだろう。
その後しばらくの探索を続け、時刻が昼に差し掛かる前に、探索を切り上げる旨を書いたメールを全員に送った。




