第25話 砂糖漬けにしてくれる
第八位階下位
さてさて、続けて……日が経った事で、竜寝殿の竜達も少しは落ち着いて来た。
そろそろ個別の運用を考える頃だろう。
とは言えその本分は、遥か天空からルベリオン王国を見守り、外敵が来れば本隊到着まで国を守る事。
仮想敵は天使の軍勢や悪魔、吸血鬼だ。
あまり他所に送る事は出来ない。
防衛戦故に最低でも想定戦力の3倍。被害を一切出さない為には10倍は待機させたい所。
それはまったく杞憂で良いのだ。何事も無いのが最善なのだから。
という訳で、おおよそ熾天使3体分の想定戦力の最低3倍。
シテン、シャクナ、ヴィーナ、ニベル、ガルナ、アルトナ、ガラド、ヴァザグ、ナオ。これくらいの戦力を常駐すれば良いだろう。
それらは部下やその他の戦力で代替可能とし、黒霧に数字的に管理させる。
勿論、それらの背後には熾天使1体分の戦力であるベルツェリーアがいるので、万が一でも大丈夫だと思う。
残りの戦力を、育成等に当てる。
竜寝殿の多くの者は、レベル600前後で限界に到達している、即ち“霊験門を越えていない者”だ。
最近仙気の一歩先の呼び名が真気とやらである事がころっと判明し、更にそれが魂魄表層部を形成する神気に多量混じっていたり、表面付近に存在する進化に使われる高濃度魔力とほぼほぼ同じ物である事が分かった。
つまり、魂魄を操作出来る様になる事で霊験門を突破出来ると言うのは間違いでは無いが、魂魄中層から深層までは操作出来なくとも良い事がはっきりしたのである。
現状竜寝殿の彼等は、成長と進化により体に備わった仙気級の属性操作を半ば本能的に使用しているだけで、仙気をまともには使えていない。
これを改善し、呼吸する様に行使している魔力操作から鍛え直して、仙気をまともに使い熟せる様になって貰い、やがては真気の領域に到達して頂く。
肉体スペックと先達と劣化イコルのお陰でぬくぬく育って来た彼等には、厳しい修行になるだろうが……安心して欲しい。必ずやり遂げられる様になっているから。
既に実績があるので、その点抜かりない。
僕自身も真気を操り、魂の深淵に眠る力を引き出す術を獲得しているので、そう時間を掛ける事なく修行は終わるだろう。
他にも、配下の子達がイベントで頑張ってる間に迷宮狩りを任せてみようとか、お話し次第ではイベントに参加させてみようとか、鱗や角を剥……様々考えている事はあるが、そこら辺は黒霧と皆の応相談である。
一方、マレと竜生九子。
マレは例によって小型化の訓練中であり、マレの支配から解放され、ラニの支配下になったがラニが支配しない竜生九子達は、若干の自我形成が起き始めている。
その成分は、元マレ現ラニ因子9割、消し潰されてしまった元体と魂の持ち主の因子3分、現在の肉体に宿る信仰や性質の因子7分といった所。
ドールやゴーレムと変わらないレベルだが、その調子でしっかりと自我を確立し、ラニの補助人格として頑張って欲しい。
その他、アーチナイト君はイェガ上で待機。英雄達は黒霧指導の元情報共有とちょっとした指導中。
現状出来る処理が全て終わった所で、獣人3人組との会話の時間だ。
◇
現在、僕達の誘導もあってか、ぬいぐるみを離さない幼な子の様にちっこい僕を抱え、朝食を食べさせられている獣人3人組。
その中でも現在最も話が通じるのが、狐僕の尻尾を堪能しているシュクラムなので、先に話を付ける。
「おはようシュクラム。調子はどう?」
ひょこっと現れ問う僕に対し、シュクラムは狐僕手ずからご飯を食べさせられ咀嚼し、少しの間を置いて簡潔に答えた。
「むぐむぐ? ……良い」
そんなシュクラムに対し、獣成分を含んで異形の美を体現する狐僕は仄かにはにかみ、その頬を撫でた。
「恥ずかしがってるんだよ」
「へぇ……大人になったんだねぇ」
「まだ子供でも良いと思うがね」
僕達の会話に朱の差した頬を隠す様に、シュクラムは狐僕の尻尾に顔を埋める。
そんな照れる程甘やかされたのか。取り敢えず、狐僕と同期する。
彼女の名誉の為にその詳細は心の奥にしまっておく。
改めて、シュクラムと向かい合った。
「……直ぐで申し訳ないが、シュクラム。君達の今までを聞かせて貰うよ」
「……ん、何でも言う」
「会話は不要だ。昨晩と同じ様に、僕に心を委ねるだけで良いんだよ」
「…………ん」
狐僕がシュクラムをベットに誘い、添い寝する様に抱き着く。
僕は膝を貸し、シュクラムの頭を撫でた。
さてさて、1,000年の歴史を見せてもらおうじゃないか。
◇
極簡単な話だ。
シュクラムとアルティアは集落が近く、悪魔との戦闘の際……捨て置かれた。
あのウルラナが支配していた国だ。集落や部族と言った括りで分かれていても、決して原始人ではなくある程度の文化文明があり、ウルラナの常識こそが法。即ち一定のモラルがあった。
大人達は、一見して異常な2人を殺す事も追放する事も出来ず、餓死させる事も忌避した。
その結果、緊急時だから忘れた。誰かが連れて行くだろうと思った。そんなちゃちな言い訳をして、逃げ出した。
そのまま悪魔に殺されると思われた2人はしかし、突如吹き荒れた桃色の旋風に捕まり、森へと逃げ出す事が出来た。
そう、唯一の肉親を目の前で殺され、第二の人格を形成したメレリラだ。
ソレに名前は無く、僕の知るモノとも異なるが、便宜上レリミラとしておく。
レリミラは、2人の心の支柱となりこれを育て、また一方で心を閉ざしたメレリラを説得し、情報を共有して、数年掛けてどうにか立ち直らせた。
勿論1人で全てを賄える訳も無く、2人が寝ている間に何度も偵察を重ね、どうやら悪魔が敗北したらしいと知るや、社会の利用を始めた。
迫害されていた2人に配慮した上で、森暮らしを基本としてだ。
それから、発展の遅れている獣人の国から叛逆がなされて改善が進む人間社会に入ったり、冒険者としてあちこちを旅し、細かい迷宮を潰したりして力を蓄えた。
成長してからはレリミラに協力して社会進出するも、皆美人だから悪い人間や亜人に度々襲われ、人間不信になったりもした。
それらの結果、極力社会に関わらずに生きて行く力を得て、長い時を生きたが故にしっかりと常識を持ち、ただひたすらに安住の地を求めて、ベルツ大陸や獣人大陸、鬼の国等を彷徨い……遂にパピーなしゅーたんを発見した。
放棄されたボロ舟を改修し、時に大海魔と戦いながらバタ足で海を渡って、ベルツ大陸到着時に死にかけのカイト氏を救助。
その後直ぐに僕を調べる為に正体を隠し、王都へ潜入、僕と関わりがあるとされる屋敷が使用人を募集してたので入ってみたと言う顛末だ。
1,000年単位の人間不信と孤独を埋めるのは、1日そこらでは足りないだろう。
暫くは分身僕を貸し出す事とする。
続けて、うつ伏せで竜僕のお腹に顔を埋めていたアルティアを軽くトレースし、情報の補完を行なった。
シュクラムと比べてより人や亜人と言う物に詳しく、心の機微に聡い苦労人な記憶であり、人の平均的値を良く心得ている。
恐れ、嫌っているからこそより知ろうとした。と言う面もあるだろうが、彼女等は何より安息を求めるが故に、それぞれのアプローチをして来たのだろう。
アルティアは知る事に幸せを感じるタイプなので、当面はじっくり竜僕とお話しして頂こう。
最後、メレリラとの対話だ。




