第20話 グラシア
第八位階下位
記憶に大した齟齬の無いアルベルト君やタダト君、ナーヤを解放し、応相談の上で魂の融合を行なったり、魔物型や異世界人、その他のしがらみの無い御し易い連中とお話しした。
取り分け興味が有ったのは、まるっと異世界のエランやノーデンス。
記憶を見た以上の事は得られないが、未知なる物の推察は聞いているだけで楽しい。
それに、対話する事は友好度を上げる上で必要不可欠なのだ。決して休憩の探求では無い。
その後、トップ3の一人、アガーラの処理を行なった。
彼は、人道の条理に従い自己を滅して義侠を貫く中庸の執行者なので、僕に叛意を向ける事はまず無い。
そう、僕の支配領域内では僕が理だからである。
そんなアガーラは置いておいて、リターニァだ。
ぱちっと目を覚ました彼女は、僕を見ると暫し黙考して金の粒子をサラサラ発生させた後、一つ大きく頷いた。
その後は、乞われるままに僕の名前と現代の状況、僕の配下の現状を教え、旧代の仲間を悼み、己の力の源が何たるかを知り、未だに慣らし運転中のティアーネの部下として着任させた。
金や銀に関わる者と魔物と精霊は話が早くて良いね。
そして最後が、ナハトロンだ。
◇
ナハトロンは覚醒して直ぐに両手両足をブンブン振って、その勢いのままぴょんっと跳ね起きた。
体を伸ばし、軽く調子を確かめる様に手足を振って、僕の方へと振り返る。
赤い瞳はじっと僕を見据え、同時に周囲の気配を探り状況を確かめている。暫しの間を経て、彼女は口を開いた。
「……どうやら、私は生き延びた様だな」
両手を組み、ふふんと不敵に笑って見せる彼女に取り敢えずの事実を伝えておく。
「一回死んだけどね」
「例え一度地にまみれようと、今私が此処に立っている事だけが真実! そうだろう? 神に等しき者よ!」
「良く心得ている様で、安心したよ」
むふふんとふんぞり返るナハトロン。
やはり、グラシアの悪魔達は有能だ。現状3人目だが、今の時点でハズレはいない。
話によると冥域とやらは高位の悪魔でさえ立ち入らない危険地帯と言う事なので、死を確信したナハトロンが今生きているのは、神に等しい存在に掬い取られたからだと判断したのだろう。
目の前にいるモノは、神ないしそれに準ずる存在であると確信している様子だ。
「因みに君を拾ったのは顔も知らない何処ぞの神。僕はそれを買った立場だ」
「ふむ? ははっ、このナハトロン様を売り払うとは、剛毅なモノよな!」
ふははははっと一頻り笑った後、ナハトロンは鋭い視線を向けて来る。
「それで……私をどう使うつもりだ?」
事によっては牙を剥くぞと言わんばかりのそれに、僕はにっこり微笑む。
「取り敢えず幸せにするよ」
「はぁ?」
死後レベルが下がって総合エネルギー量が減少したナハトロンなど、碌な抵抗も出来まい。
先ずは欠落した記憶の改修だ!
◇
「ふむ、何千年経過したかは定かではないが、グラシアは健在か」
「その様だよ」
「今のグラシアがどうなっているか興味はあるが……」
「魔界よりも先に処理しないといけないタスクがあるからね」
「んむ、分かっている」
言うや、ナハトロンは腕を組んでふんぞり返った。
「任せておけ。このナハトロン様の手に掛かれば、多少の問題なぞ一挙に解決だぞ!」
「そうだね。先ずは海の広さから勉強しようか?」
「ふふん、地上の海がどの程度の広さか、篤と教えて貰おうではないか」
うんうん。しっかり教えて貰おうね。
黒霧に後を任せ、ナハトロンを送り出した。
明日には立派なソルジャーになっている事だろう。
「さて……」
一通り作業を終えた所で、思考に耽る。
王国を貰い受けた結果、現地を盛り立てる為のプランの一環として作られた、現地のお茶っ葉をブレンドした紅茶を飲む。
黒霧によって色々と混ぜ物をされている為、悪くない風味だ。
新しく分かった事は多いが、その中でも取り分け重要なのは3つ。
一つは、シスカの記憶から得られた最悪の情報、オリジナルアトラが野放しにされていると言う事実。
これは現状対処不可能だ。
その空間支配能力と凶暴性から、不可知天帝竜並の脅威度に設定、警戒を強化する以外に出来る事は無い。
二つ目は、レイウォー。正式名称レイド・オブ・ウォーズの存在。
失われたルベリオン帝国1,000年の歴史は、レイウォーの影響を多大に受けている事だろう。
その時代の遺産がどうなっているのかを詳しく調べないと、思わぬ所で足を掬われ……まぁ手に蜘蛛の巣が掛かるくらいの煩わしさは感じそうだ。
そして最後は、ナハトロンから得られた情報。
グラシア家の始祖についてだ。
ルカナやテリーは、一応天賦の才こそあるが当時は未だ若く、上位の権限を持たない為グラシアの祖を詳しく知らされていなかった。
しかしナハトロンは、死ぬ間際には既に霊験門に到達しており、極めて優秀だった為、グラシアの秘奥たる彼の存在と面識があった。
知恵を重んじるグラシア家の始祖、その正体は——
——堕ちた熾天使。ローネリア。
黒に染まる六枚翼の大天使。
リアと名の付く事から、ただの野良天使が堕天して魔界に行って強くなったのではなく、大聖の配下たるアシュリアクラスの熾天使が魔界に行ったのだと考えられる。
天界とどの様な関係があるかは分からないが、熾天使級ともなれば決して無関係ではあるまい。
態々孤立してくれているので、天界に行く前に魔界に行って捕まえてみようと思う。
『黒き金糸雀は空を仰ぐ』 一節分書きました。
ここまでお付き合い頂いた皆様であれば楽しめるかもしれません。
勢い余ってタイムトラベルしましたが錬金術師ユキの執筆に戻ります。




