第8話 増えて稼いで
第八位階下位
僕には、色々と処理しなければならないタスクがある。
どうすべきか、僕はとても悩んだ。
その結果、分身する事にした。
使ったのは、理論結晶から読み取った分霊身術と、僕のアバター。
アバターは全部で6体あるが、その内ノースキル僕とレベル1僕は仕舞っておく。今回使ったのは、狐、竜、サキュバス、ドワーフもどきの僕アバターだ。
これに、分霊身術を使って僕の因子を投入。形成された僕の十分の一程度の演算力を持つ分身に、多重思考スキルにより分割された演算装置を付与。
これで、神気を僅かに操れる程度の僕が4体爆誕した。
内3体は3人が満足するまで貸し出す事とし、残りの1体はどうするのかと言うと……実はとっておきの使い道がある。
この分身体は、本質的にはアバターであり、分霊身や多重思考スキルにより分割された意思は僕の副人格の様な物。
つまり、1プレイヤーとしての活動が可能なのだ。
要は、黒霧がやってるのとほぼ似た様な事が出来ると言う事で、僕の代わりにイベントの様子を見に行ってくれる。
と言う訳で、本日2回目のイベントの時間である。
◇
副人格は、新兵ディザイアの運用実験や他数体の直接指導の為、万色のイベント会場へ向かった。
数分と掛からずに戻って来るだろうが、その間に僕はお仕事を進める。
先ず、シスターを捕獲した。否、捕獲された。
「シスターアルメリア。僕が言いたい事は分かるね?」
背後から抱き竦められ、大きな2つの山に埋まる僕は、然ながら山間に建つ石造りの神殿が如き威厳を持って問うた。
シスターは変わらぬ微笑みを湛え、応える。
「ユキさんなら、あの子達の孤独を埋められると、私は信じていましたよ〜?」
「それは何の答えにもなっていない。が、良いよ別に。何か問題があったら先ず僕に報告する様に」
「はい、任せてくださいね♪」
何でこの人はいつも嬉しそうなのかね? 僕にあったからか、納得。
それは置いておいて、僕にはもう一つ聞きたい事がある。
「所でシスター……リブラリアは知ってた、よね?」
「ええ、勿論知っていますよ〜?」
だろうね。何せアシュリアに関わる存在だ。シスターが知らない理由が無い。
「僕に黙っていた理由は?」
「眠っていましたから、もう少し状況が落ち着くまでで良いかと思ったのですが〜」
「まぁ、それもそうだね」
クーデターか代替わりでも起きない限り目覚めない設定だったからね。
起きたのが事故みたいな物だ。仕方ないね。
「他に何か言ってない事は無い?」
「そうですねぇ……シャンディリア教国はご存知ですか?」
「うん。ルベリオン王国北部に隣接する宗教国家だね。聖典教と言う宗教が国を支配しているとかで、その聖遺物である聖典がアシュリアの持っていた物なんでしょ?」
そう問うと、シスターは神妙な面持ちで頷いた。
「はい。そしてその裏には天使が関わっています」
「ふむ」
まぁ、可能性としては考えられた事だ。帝国を潰す際に、嫌な一悶着がある事だろう。
「……シスターは聖典を取り戻したい?」
「可能ならば」
「じゃあそうしよう」
どうせ天使とも教国とも相対する事になるのだ。遅かれ早かれ聖典は僕の手元に来る運命だった。
だから——
「——心配しないで。物のついでだから」
「……ユキさん、必要であれば……私を使ってくださいね?」
「その時は扱き使わせて貰うよ」
「ふふ……覚悟しておきますね♪」
嬉しそうに微笑むシスターに、取り敢えず抱き着いておいた。
……甘えるのが好きなタイプもいれば甘えられるのが好きなタイプもいるんだよね。
◇
シスターとの会話が終わった所で、次のタスク処理だ。
差し当たって現在ティールの町で作業させていたスノーこと雪奈を呼び戻し、王城に再配置した。
仕事は例によってティアの身辺警護だ。
2度同じ様な事にはならないだろうが、必要なのは王都にある程度自由裁量で動ける戦力を置く事だ。
その点、雪奈は申し分ない戦力である。
黒霧は利便性が高過ぎてつい使い過ぎてしまうので、念の為の戦力だ。
続いて、イベント報酬の確認。
2時間程前から今に至るまで忙しく、ようやく確認が出来る。
黒霧の報告によると、一定値以上の商品は所持EPがそれを買える量にならないと表示されない仕様だとか、個数制限のある物があるとか、新しい情報が幾つか散見される。
先ずは消耗品から見てみよう。
増えたのは、魔法符と魔法石の類いに、纏め買いでお得なポーション類。
それから、魔導鎧用のマナクリスタル。幾つかの下位魔法や武技の理論結晶。
大した事は無い物だった。
装備品は、鈴守系とでも言うべき物に新たにカスタム要素が追加されていた。3段階用意されており、最大でレベル150程度までの強化が施せる様になっている。
それに加えて、何かしらの効果がある鈴を最大3つまで付け足す事が可能で、それらの鈴を付けた状態の総合戦力はレベル250にも届く。
……ただし相応のEPが掛かる。
単純計算ざっと1000万。上位色チケットはクリア報酬50万EPに討伐数やアイテムで幾らか加算出来るので、それを周回していれば、イベント期間中に2個間に合うかどうかと言った所の様だ。
良く出来てる。上位色チケットは、プレイヤーが数を揃えて消耗品を贅沢に使えば行けるレベルとの事なので、実に良く出来てる。
それから、例によってボスからドロップする鎧系のアイテム。
性能に対して若干値段が高めだが、まぁそんな物だろう。
色金属。属性金属。精霊金属。大精霊金属。と来て神霊金属まであるが、そのレベルの品物になると値段も億は下らない代物である。
また、神霊金属の鎧は各部位毎30個までの購入制限が掛けられている。
取り敢えずコレを買えるだけ買う事を当面の目標にしてみよう。
また、それ以外の装備品として、奇妙な名前と説明の武器が幾つかある。
杖系は、ステーキなステッキとおかしなステッキ。
食べ物を生成するタイプの魔法杖で、単純な魔法補助効果は精々レベル50に通じる程度。
名前と能力はアレだが……現時点のプレイヤー達には十分お宝である。
値段は300万EPと高額。
後は、剣で……エクスカリバール。剣……? 簡潔に言って聖属性を持つ鈍器だ。
伝説の剣と説明されているが……まぁレベル80くらいまでは行けるので、一般的な認識としては強力な魔剣と言う事になるだろう。
次に槍が……群具煮琉。と言う名のデカいおでん串らしき物。
振ると具材がすっぽ抜けて敵へ攻撃しに行くらしい。伝説の槍らしい。何だコレは。
どれも謎の物体としか言えない。気が向いたら買おう。
謎物体は置いておいて、次はスキル結晶。最低100万EPからの商品だ。
売られているのは12種。指揮、統率、連携、解体、目利き、地図、時計、画像、掲示板、オークション、依頼表、戦闘表。と、主に機能拡張系のスキルだった。
未取得の物だけ買っておこうか。
その次が、今回のイベントの目玉商品と思わしきアイテム、『英雄の擬魂』である。
これは、英雄の器を使う事で虹色英雄クラスの英雄を生成出来るアイテムだ。
値段は最低でも3000万EPを必要とし、全てに10個までの購入制限が付いている。
肝心の買える物と言うのが……徘徊ボスとして出て来る英雄級の面々だ。
一番高いのは、予想通り、アガーラとリターニァとナハトロン。驚異の1億EP。
一番安いのは猛獣のゲッシュ。3000万EP。種類は猿、狼、熊、鷲、牛、猊、虎。とあり、それぞれ10個ずつ購入可能だ。
……タク達でさえレベル60になった所なので、普通のプレイヤーは稼げて3000万EPが良い所。
コレ、売る気無いよね? 神霊金属の鎧の時も思ったけど。売る気無いよね?
……と思ったのも束の間。何でもEPは受け渡し出来る仕様との事だった。
複数プレイヤーが協力して稼げるなら、この値段も納得である。




