第6話 夢の旅人
第八位階下位
ちっこい身長のレリアがバッサバッサと大きなシーツを振り回すその目の前に降り立った。勿論気配を最小に抑えてだ。
姿は隠していない為、目前に突然現れた僕を見て、レリアはシーツをぎゅっと抱きしめた。
「おわっ!? びっくりした……心臓に悪いっすよ!」
「それはこっちのセリフだよ」
幻術で音を乱しつつ、何事? と首を傾げるレリアに問う。
「あの3人は何処から来たの?」
「3人……あぁ、ギルドに依頼したっしょ? それっす」
何でもない様に言うレリアに対し、僕は空を仰ぎ見た。
ギルドの依頼、本気だったのか……。
確かに、そこら辺はレリアの自由裁量と言う事にしていた。
「……シスターは何か言ってた?」
「あぁ、なんか知り合いだったみたいっすよ?」
……それも確かに、あり得る。そしてレリアもシスターの知り合いだから採用に至ったのだろうと言う事も想像がつく。
唯一の問題……いや、シスターにはそこら辺の報告義務を課していないし、なんだったら気付いてると思ってる可能性もある。故に問題はなかった。
懸念はそう、何故彼女等は気配を絶っていたのか、だ。
僕がいる事に気付いていて気配を絶つと言う事は、僕に気付かれない様にしていたと言う事。その上でシスターに接触すると言う事は、僕に関する事で何かを頼りに行ったと言う事。
とにかく、一度ちゃんと話をしに行かなければならないだろう。
「取り敢えず3人と話してくる。場合によっては連れてくからね?」
「えー!? 初めての部下なのに、そんなのって無いっすよー!」
「次はもっと普通なのを雇ってよ」
「普通じゃないんすかー? 確かに凄い美人ばっかりっすけど」
ある意味引きが良いよ、レリアは。
ぶーたれるレリアを置いて、屋敷の方へ一歩踏み出、した所で少し振り向く。
「あーそうだ。レリア、僕この国の国王になったから、必要だったら国名義で募集掛けて良いよ。給金も上げとくね」
「……はい?」
さて、さっさと話を付けに行こうか。
◇
屋敷に入ると、1人目が直ぐにやって来た。
身長は僕の1.2倍はあるか、爆発する様に広がった白い癖っ毛に、大分成長した茶色の巻角。
ただし、瞳を意識して良く見てみると、その髪は虹色を纏い、角は虹の結晶になっている。
眠そうな瞳は僕を捉えると大きく開かれ——
「——ママ……!」
「ママ違う」
え、なに、どう言う事? しゅーたんが何かした? 侵食した?
「……そうだった」
そこまで言うと、羊人の姿をした女性は居住まいを正し——
「——シュクラムのママになってください」
——宣った。
シュクラム LV802MAX
「ならないけど」
「ありがとうございます」
「ならないけど」
「末長くよろしくお願いします」
極めて優秀だ。
レベルもさる事ながら、何より夢の神性を扱う力があまりに強大。
言ってる事も寝言みたいな辺り本当に夢の旅人である。
「……言っておくけれど、しゅーたんだって僕の娘ではないからね」
「……」
何も言わず、しょんぼりとするオリしゅーたん。
気配を隠していた割に、どうやら特に害意はない様だ。
「僕から隠れて活動していた理由は?」
「……本当にママがママなのか確認した。ママだった」
「ママじゃないけどね」
頑なだなこの子も。1,000年以上生きる神仙の類いとは思えない。やはり夢の旅人か。
レベルが高く、長い時を生きた割に僕に対する意思は真っ直ぐな思慕の念。
普通なら禅鬼の様に驕りとも言える感情が見え隠れする物だが、まるで嵐の中拠り所を見つけた小鳥の様に縋って来る。
もっと深くを見ないと分からないが、力が力だ。此方も慎重にならざるを得ない。
だが、最も弱い術式で本に登録すればそこら辺も解決だ。
何せ、いつでも抵抗できる術で魂を差し出す様に問うのだから。
……まぁ、別に、良いけどね。
しょんぼりしている大人シュクラムを、取り敢えず抱き締めた。
「っ……」
僕が抱き上げれられる程だった幼いしゅーたんと比べて、随分と大きくなった背中を撫で、癖っ毛でふわふわな頭も撫でる。
「ママではないが……もし君が僕を愛するなら、僕はそれ以上に君を愛するよ」
僕は僕の直感を信じる。
1,000年生きたからって、愛がなくても生きていける訳じゃない筈だ。
僕はママにはなれないけれど、その代わりにはなれるから。
大人しゅーたんは一瞬パチクリと目を瞬かせ、その瞳をキラリと輝かせた後、眠そうな顔をふにゃっと歪めて微笑んだ。
「……これがママのつんでれ芸」
……しゅーたんにツンデレを教え込んだ輩がいる様だな。
《《【世界クエスト】『聖獣の第8試練:未の試練』を『匿名』がクリアしました》》
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