第4話 知恵を拓く
第八位階下位
ルリーニャとレイーニャが道の補修に向かった所で、お爺ちゃんと向かい合う。
むぐむぐしながら片眉を上げる彼の対面にちょこんと座り——
「それで、僕が銀の巫女だけど、ルヘーテはなんて言ってた?」
——言い放つ。
「むごっ!!?」
驚愕の後、ポロリと口から干し切り身を落としたラガーナ。
「お、おぉぉ……! なんと、何と言う……!」
よたよたと揺れるラガーナに僕から歩み寄り、神気を発しながらしっかりと視線を合わせる。
「ルヘーテは、君に何を託した?」
「おおぉぉぉ……」
暫しの間を経て、ラガーナは言葉を紡いだ。
「……なんじゃったかの?」
「……開くか?」
「まてまて、落ち着くのじゃ。短気は損気じゃて巫女様よ、今思い出すから待っていてくだされ」
なーんじゃったかの〜? などと言って落ちた切り身を拾い、DHAを補給するラガーナ。
まぁ、霊験門を超えていない身で1,000年を生きたのだから十分頑張ったと思う。
「なんじゃったかの〜? むぐむぐ」
「……」
まぁ、良いや。
当初の目的は達成された。港町に潜む強き者がラガーナで、特に敵意がない事が分かっただけ十分である。
「桃の精霊……戸棚……夢想魔術……うーむ、昼飯は食ったしの……」
顎髭をむぉっしむぉししながらぶつぶつ言ってるラガーナは置いておいて、黒霧に指示をだし、貧民とスパイの調査を行う。
一方覗き見たルリーニャとレイーニャの方は、飛躍したレイーニャの技量にルリーニャが目を丸くすると言う至って普通の様子だった。
まさかルリーニャも、その嵐の日にレイーニャが一回死んでるとは思いもしないだろう。
事前に支配済みのギルドの方も見たが、特に問題なく回っている。
素行に多少の問題がある冒険者もいたが、ちゃんと矯正済みである。
そもそもそこら辺は、ほぼ誰でもなれる何でも屋と言う職業故の愛嬌みたいなもんだ。
次に見たのは、領主の様子。
王都の玄関口を任されるだけあり、ここの領主はルベリオン海軍の元帥を代々勤める者だったそうだが、早期に行われた領民を逃す政策で船団の護衛として海に出て……それっきりらしい。
よって、今この地を治めているのはその将軍の息子と永きに渡って仕えている代官の家な訳だが……まぁ、特に問題はない。
何しろ人が少なければそれ関連の問題も少なく、現状起きている事と言えば、町全体や街道等の老朽化。狩る者や警備する者が少ない故の獣害。若干の食料不足や栄養不足。それらに伴う病気や怪我を治す医者、薬師の不足。
簡潔に言えば、物資の不足と労働力の不足だ。どうとでもなるね。
街中のあれやこれやに町近傍の様子等を見ていると、ぶつぶつ言っていたラガーナがぽふっと手を打った。
「獅子……そうじゃ、獅子じゃった!」
「獅子がどうしたの?」
「そう、ししし……」
記憶が芋づる式に出てきた様で、そこからは早かった。
「……獅子の心臓に剣は眠る。奈落は極北にあり。空には万の輝きが来る日を持つ。神代に通ずる銀の巫女であればこの意味が分かると聞いたが、分かるかの?」
「ふむ……」
一見して詩の様なそれに、これぞと分かる単語は無い。少し考えてみようか。
先ず、獅子の心臓に剣は眠る。だが……何も獅子の心臓に剣が突き刺さってるとか言う訳じゃないだろう。
態々それを残したからには、剣を手に入れろと言う事に相違なく、獅子の心臓はその剣がある場所を指していると考えられる。
では、それはどこか? 3択だ。
場所か、者か、もう一つか。
場所であるならば、ルヘーテがいたとされる地だろう。だが、それをわざわざ迂遠な表現で伝える意味はあまり感じられない。
ただし、神代に通ずる事が条件であるならば、そこに神権に関わる常人には理解できない何かがあると考えられる。
者の場合は、ルヘーテの配下の1人、金獅子レグルスであると言えるだろう。
ただし、それを敢えて獅子の心臓と評するのは腑に落ちないし、そもそも正確な居場所が不明である。
また、剣は眠ると言う表現も気に掛かる。態々擬人化したと言う事は、剣はイコール武器の剣では無く、生き物なのではないだろうか?
だとしたら、レグルスを獅子の心臓とした時、レグルスは同時に剣でもある訳で、若干の違和感がある。
剣が生き物では無かったとしたら、眠ると言う表現を使うからには、インテリジェンスウェポンの類いである可能性も考えられる。
……ただ、獅子の心臓に剣は眠る。と神代に通ずる者。それから、神代に通ずる上で、それ以外の固有名詞を知らない筈であると言う大前提。これらを含めて一番スッキリする解答は……3番目だ。
獅子の心臓は獅子の神域を指し、そこにルヘーテが剣と称する何者かが眠っている。
そうだとしたら、ルヘーテが何故獅子の魔物ばかりを配下にしていたのかも見えてくる。
ルヘーテの軍勢の中で、一番変えが効かない存在と言えば、金の神性を保有する金獅子レグルスだ。
そして、神代に通ずる銀の巫女へ、強い力を持つ何かを確実に渡すには……2択だ。
直接渡すか、それが叶わなければ、その相手以外には取れない場所に置いておく。
勿論後者しかなく、そしてそれを実現するには、神域に至らなくてはならない。
ルヘーテは、自分に何かあった時に備えて、獅子の神域へ道を繋ぐ為、獅子の神性に縁のある魔物ばかりを集めて鍛えたのだと考えられる。
これがおそらく正解だろう。
では、獅子の神域に行くにはどうすれば良いのか?
この場合の神域は、蜃やペルセポネが使ったアレとは似て非なる。
アレは自前で持っている力を使って神域を展開したり、ホンモノを少し引き寄せた程度だが……今求められているのは、神気の集積場だ。
即ち、夢の神域の様な場所である。
この場合は、獅子の神域だ。
……しかし困った。
そこに辿り着く、もとい引き寄せるのは、この僕を持ってしても一筋縄では行かない。
幾らかの神気を操って独自の神域を作る事は出来るが、ホンモノに辿り着くと言う事は、ホンモノを内包すると言う事にも等しい訳で、要は現神では無く文字通りの獅子の神が必要になってくる。
これは僕にはちと難しい。
何故なら僕は獅子じゃなく、獅子神格を受け止め切れる器ではないからだ。
適性の相違。これを実現するには相応の時間を必要とし、僕は暫し獅子耳と尻尾を生やして人々の前に立つ必要に迫られるだろう。
やぶさかにないが時間が掛かり、またその他の神性に対する柔軟性が僅かに低下するだろう事を考えると、それは少々悪手だ。
では、どうするのか?
簡単だ。その道はルヘーテが示した。
即ち、強き獅子の魔物を集め、数で神域を呼び寄せる。
必要なのは、神霊への第一歩を歩み始めた霊験門を越えし者。
レベル600代なら……ざっと12体は欲しい所だ。
それに加え、確実性を考慮するなら僕の配下以外の超越者を駆除する必要があるだろう。
具体的には、生きていると目されるレグルスと、レーベの父であるアルギバエだ。
勿論、僕の配下の超越者であるならば駆除する必要はない。分かるね? ……2人に遭遇したらこれを決めゼリフにしよう。
差し当たって現状の獅子型配下は、レーベ。リオン。
合成獣の内4匹は、完全な獅子神性とはいかない為、レベル700くらいは欲しい。
専らあと6匹か、もしくはレベルを上げれば良いだろう。
……何気にバーチスが作ったと思われる合成獣に獅子が多かったのは、バーチスがルヘーテに憧れてたりとかがあったのかもしれない。
まぁ、人の身で神の足元に迫った怪物が使役していた神獣の様な存在となったら、確かに僕も欲しい。宜なるかな。




