第1話 腕を広げて
第八位階下位
差し当たって、会話の邪魔になる連中をまるっと排除した。
「なっ!?」
仲間達が何の予兆も無く消滅し、後退るウィズアルト。それとイスタルとメレネーア、それからティアを念動で引き寄せる。
そも、僕はここまでするつもりは無かったのだ。
当初の予定では、ティアなり何なりルベリオンの王族を中心に添えて、ちょっとだけお話ししてから手助けして行く方向性だったのだ。
それがこの様である。
そう、僕はルベリオン王国の大多数の人々を見捨てるつもりだった。
それはただの選択の結果だ。
未だ地盤は整わず、僕のわがままで無為に集められた500万近い魂は目覚めの時を待っている。
ここに更に数千の赤子まで待機中と来た物だ。
とてもじゃないが、ルベリオン王国の民を守り導く事は出来ない事もないが出来ない。
有り体に言えば、面倒なタスクを背負いたくないと言う、此方も僕の我儘である。
今、僕はルベリオン王国を併合し、その永き歴史に終止符を打ち込んだ。
それが僕の望まざる事であったとしても。背負わされた重荷だったとしても。僕が僕であるが故に起きた悲劇の様な物であり、僕が僕であるが故に起きる喜劇の様な物なのだ。
これは想定外だったか?
否、やがては支配下に下るだろうと思っていた。
誰が王になろうと、僕のやる事は変わらないからだ。
それが早まっただけであり、タスクが爆増して面倒くさいだけである。
ではそれを僕に押し付けた犯人は誰なのか?
直接的な犯人はリブラリアであると言えるだろう。
しかし、リブラリアは己の神域に従い、信仰の通りの結果を導き出したに過ぎない。
犯人はそう、ティアである。
こいつめ、この公正なる審判の間で、僕と結婚すると宣った。
何が起きたか? 簡単だ。
公明正大たる審判のシステムにより、僕はティアの配偶者となって王位継承権が生まれた。
そして、単純なシステムによって天の頂に等しい僕の実績と天元突破する僕の能力と美貌を計上。
その結果、継承権を放棄したティアとメーア、そして逆賊アルトを差し置いて必然的に僕が王になりましたと。
こいつめ、こいつめっ。
引き寄せたティアの頬を引っ張る。
「ゆひ、にゃにお」
「……」
無言で暫しむにむにした後、改めて王族達と向かい合う。
先ずは元王から。
「イスタル」
「はっ」
「現状の行政を維持する様に。改革案や必要資源は僕が供給する」
「お任せあれ」
流石は年の功か、彼我の力量差、戦力差、または地力の差と言う物を良く理解している。
僕に専属従士爵を与えた時と同じ様に、素早く順応して来た。
やはり、一国の王として、国という人の大きな群れが、容易く一個の災禍に滅ぼされ得ると、本当の意味で理解しているのだろう。
彼が不慣れな忠誠を捧げて来たのは、賢く正しい選択だった。
次に、メレネーア。取り敢えず撫でる。
「……」
「ひゃぇぅっ……」
彼女は未熟な小娘だ。
今も、何か悪い事が起きていたと感じている程度だろう。
ウィズアルトとイスタルの采配、もとい愛が、彼女や彼を政務から引き離した結果である。
これからは厳しく教育して行くからね〜。
暫しメーアをよしよしした後、物欲しげなティアを無視してアルトと向かい合う。
彼は事ここに至って己が政争に敗北したのだと察した様で、沙汰を待つ囚人、または神託を待つ信者の様な面持ちだ。
然ながら萎びたきゅうりか枯れ木の幹。溢れんばかりの感情が飽和したか、却って穏やかな表情を浮かべている。
僕は真っ直ぐ彼の瞳を見詰めた。
「質問を許す」
暫しの沈黙。
「……貴方は……一体何者なのですか」
その問いは静かに紡がれ、ただただ憂国の念だけが僕に届く。
「僕はマレビトだよ」
「マレビトとは、一体何なのです」
「異界の民だ」
「異界の民とは皆貴方の様に……」
異常なのかと問う言葉は紡がれる事なく消え、微かに漏れた吐息が、内に孕む恐れを纏って漂う。
「僕は特別。異界でも王みたいな物だし」
「成る程、道理でユキは気品があると思った」
ピトッとティアの唇に人差し指を当てて黙らせる。
今大切な所なんだから水を差さないで欲しいね。
「……この国をどうするのです?」
「良くする」
「っ……」
絶句するアルト。
……誰に良くするとは言ってないが、見た所アルト的には国民とか領地とか軍備とか色々浮かんでる様だ。
僕はコクリと頷いた。
「全てだよ」
「っ!?」
そんなダメ押しに対し、アルトは改めて驚愕する。
「その様な……」
頭の回転が早いアルトにおまけのダメ押し。
「空に浮かんでる町も全部僕のだよ」
「は……? っっ!!???」
よし、おまけで本当にやばい奴だと認識された様だ。
多分、脅威度と言う観点から浮遊都市の軍事的な価値を計算したりとかしたのだろう。
「君が背負おうとした重責は全て僕の物。凡ゆる心配は無用。ただ僕の後を付いて来るが良いさ」
そう言って僕は手を差し伸べる。
アルトが僕の手を取る事はない。何故なら判断材料が無いからね。
だから僕は微笑んで、無理矢理その手を握った。
……万の言葉を尽くすより、たった一度見せるだけで良い。
世界を変えよう。
今日、この日から——
——本気で大陸を平定する。




