掌話 海人のバルカローレ 六
第四位階下位
「……うみにぃ。船乗っちゃダメだからね?」
「そうだぞーカイ。幾ら何日も海に出れて無いからって、その足で早まっちゃいかん」
「いや出ないんだが」
朝、昨日の後夜祭で余った食材のお裾分けを食べていると、ミナモとアニキにそんな事を言われた。
否定しても訝しげな2人にブブブブンと首を振るう。
「ありゃ? じゃあなんでそんなに気合い入ってんだい?」
「それ」
「え? そんな分かりやすい?」
こくこくと頷く2人。
何か癖でもあるのかと居住まいを正しつつ、嘘偽りなく話す。
「ふーん……そんなに面白いんだ」
「いやー、カイがハマるんならホンモノだなぁ。予約しといて良かったぜぃ」
ゲームの海で主と戦う。そう掻い摘んで話すと、直ぐに納得してくれた。
さてさて……しっかり準備して挑むかね。
◇
軽く慣らし戦闘をして、各補給を行なった。
ポーションはOK。足輪やモンスターカード、ゴーグルに水中呼吸の補充もOK。
資金も尽きたし、やれる事はもう無い。
後は主に挑むのみ。
「……」
ざんざざんと白波が踊る。
地平は抜ける様に青く、水面は宝石の様に煌めいていた。
絶好のボス戦日和だ。
既に目標の出没地点は割ってある。
港町とも近い岩場から海へ入った。
海と言う物はやはりどこも似て非なる物で、東海溝と同じ様に澄んだこの海は、しかしとても穏やかだ。
装備のおかげかスキルのおかげか、現実とは比べ物にならない速度で海を泳ぎ、直ぐに目的地へ到着した。
見えて来たのは、周辺と比べてかなり深い窪み地帯。
長い時間を掛けて海流で削り取られたと見えるそこは、硬い岩が露出し、その陰に張り付く様にして海藻や小さな甲殻類、貝類が生息している様だ。
しかし、それらを捕食する大型の魚類は見られない。
楽園と言うには彩りに欠ける、荒野の様なその場所に、それはいた。
大きくしなやかな肉体。ぎょろりと辺りを睥睨する目。粘着く殺意を纏う牙。
——巨大なサメ。
ヌシは此方に気付くや、直ぐに突進して来た。
——飢えている。
前回もそうだった。此方に気付くや、ヌシは一直線に向かって来て、此方を喰らわんと牙を向いた。
前はやられちまったが、今回は頼もしい味方と武器がある。
そう易々と喰われてはやらねぇぞッ。
敵が此方に接近する前に、直ぐにイルカとサメを召喚した。
2体は左右に散会し、ヌシが少し迷った隙に水中呼吸を使用。
狙いを変えず突っ込んで来たヌシへ、銛を構えた。
「シャークジャベリン!」
水中で投じた銛が青いオーラを噴出し、サメとなってヌシに襲い掛かる。
正面衝突するかと思われたそれはしかし、武技のサメがひらりと身を躱して叩き付ける様に牙を突き立てた事で裏切られた。
……正直舐めてた。いや舐めてたと言うか想像の埒外だった。そこまで自由に動くのか。
武技のサメはヌシの表皮を食いちぎって消滅。いつの間にか銛は深々と突き刺さっていた。
怯んだヌシへイルカとサメが迫り、噛み付くなり体当たりするなりしている中、俺は予備の銛を取り出す。
推進機をフルに使って一気に近付くと、勢いそのまま銛を突き出す。
「ヴォルテクスフロウ!」
ヌシの腹部に突き刺さると同時に水流が発生し、青いオーラが渦を巻いて、まるでドリルの様にヌシの腹を抉る。
引き抜くまでも無く抜けた銛を持ち、即座に距離を取る。
刹那、ヌシが仄かな光を放ち、ヌシに噛み付いていたサメが叩き落とされた。
「っぶな」
弾き飛ばされたサメを放置して、ヌシは光を纏ったまま此方へ突撃して来る。
牙を剥くそれを、推進機を駆使して大きく回避。ヴォルテクスフロウを叩き込んだ。
ゴリゴリっと首付近が削れ、ヌシが激しくのたうつ。
念の為距離を取った。
前回は裸でもここまで動けなかったが、今やホーミングミサイルみたいに突っ込んで来るヌシを避けられる。
これなら行け……。
「……あー」
此方へ振り返ったヌシは、謎のオーラを光らせて、体の傷を塞いで行く。
大海魔何某の時もそうだったが……やっぱりボスクラスってのはそう言う超回復をしてくるんだよな。
「……無理か……?」
弱気が出る。
だが、その超回復も完全では無い事を、大剣士の一団が証明してた。
なんでも、敵にもMPみたいなのがあって、超回復にはそれを消費しているとか。
つまり、敵は無限じゃない。
少しの弱気は捩じ伏せて、ヌシと向かい合う。
再度の突撃。
接近するそれに、先程と同じように推進機を使った回避。
銛を打ち込まず、更に大きく回避した。
次の瞬間、ヌシの体が強めの光を放って大きくうねり、叩き付ける様に尾が振われた。
もし攻撃してたら、当たってシャレにならない大ダメージになってたな。
海鮮通路での経験が生きた形だ。
だが、無闇と避け続けるだけじゃあ勝てない。
推進機の魔力が切れたら、または水中呼吸が切れたら、どちらにせよまともな戦闘にはならない。
補充の為の青石は確保してあるが、それを変える隙は与えてくれないだろう。
それに、すれ違い様に攻撃しても大したダメージにはならない。
武技を使おうにも、外した際の魔力切れや硬直が怖い。
まぁ、なんだかんだ考えるが、元からノーリスクじゃない事は分かってた。
リスクとリターンを天秤に掛けて、賭けに出る時はすっぱり行く。
これが昔ながらの海溝漁よ!
それと……考える事も無駄じゃない、妙案が浮かんだからな。
此方に向き直り牙を剥くヌシ。
その腹に深々と突き刺さる銛が、陽光を反射してキラリと光った。




