掌話 海人のバルカローレ 五
第四位階下位
機動力を全開にして横をすり抜け、通り抜け様に硬直の少ない下位の武技、スピアを放って皮膚を抉る。
僅か2秒の硬直を経て、此方を標的と定め襲い掛かって来たボスサメを回避、その頭部にスピアを打ち込んだ所で、ボスサメの尾ビレが俺に直撃した。
「ごぼっ!?」
かなりの衝撃から、ボスサメは最初から尾ビレでの攻撃が狙いだったのだと分かった。
コイツ……学習してやがる。
すり抜ける事を想定していつでも攻撃出来る様にしてたのか。
やっぱりボスキャラ、そこらの野生動物とは格が違う。
僅かに減ったHPを横目に振り向くと、目前にボスサメがいた。
「がっ!!?」
咄嗟に推進器を操作し腕でガードする。
腕に牙を突き立てられ、血が海を赤く彩った。
痛ってぇなこんにゃろ!
牙が突き刺さったまま水中を引き摺られ、もはや硬直がどうのとか言ってる場合じゃない。
即座にストライクを打ち込み、モリがサメの胴体を深々と貫く。
それでもボスサメは、多少怯みこそすれ噛み付くのはやめなかった。
なんちゅう執念だよ!?
万力の様に挟む力が強まっていき、ミシミシと骨が嫌な音を鳴らす。
激痛が電撃の様に走り抜け、赤い視界がチカチカと明滅し出した。
とにかく硬直が終わればストライクを繰り返し、内臓を破壊、頭を破壊して、気付くとボスサメは動きを止めていた。
勝ったのか……?
視界の端で、出血の状態異常によるスリップダメージでHPが危険域に到達した。
少し慌てて、サメの顎を押し開く。
痛みと大量の出血。深々と刺さった牙が抜け、海が真っ赤に染まって行く。
チラリと仲間を見ると、緑サメがピクリとも動かず漂っているのが見えた。
イルカとサメが寄って来て、俺の体を水上に押し上げる。
「さんきゅ」
「きゅ」
「しゃ」
いやー、ありがたいね、水中じゃポーションまともに飲めないし、陸に上がる体力もねぇもんで。
早速アイテムボックスから初級ポーションを取り出し、そのクソ苦い緑の汁を飲み干す。
出血の状態異常が中から小に変わり、HPが真ん中まで回復。
そこから更に2本小瓶を空けて、ようやく完治した。
「いや〜……勝ったなぁ……」
無様だったが勝ちは勝ちだ。
改善点はまだまだある、1番の収穫は、敵をたかがサメと舐めて掛かる油断と慢心が完全に無くなった事だ。
直ぐに挑むのは時期尚早だし、明日は準備期間に当てよう。
「いや〜……強かったぁ……」
じくじくと痛む腕が、確かな勝利の実感を与えてくれる。
先の事を色々と考えつつ、今はゆったりと余韻に浸る事にした。
◇
海鮮通路第5エリアの稼ぎは、およそ20万にもなった。
やはり高めのサメを大量に確保出来るのが大きい。
時給としてはかなり美味い方で、色んな手間を考えるとリスティアを行き来するのはどちらかと言うと美味い。
ネックは徒歩での行き来だが……。
そう思った翌日、速攻で改善されてリスティアの最初の大広間に雑貨屋と買い取り専門受付が現れた。
そんなこんなでリスティアの海鮮通路を塵も残さずアイテム回収、いつもより少ない時間でより多めの稼ぎを得て、鍛錬島の海の迷宮に移った。
そこでも相応の稼ぎを得て、早速色んなアップグレードをした。
先ずやったのは、モリの強化。
ボスサメの素材を使った強化が出来るというので、30万MCでやって貰った。
新たに追加されたのは、投げ槍系の武技でシャークジャベリン。
通常武技のスピアスローやその上位のジャベリンと違って陸では大した威力にならないが、水中ではすんごい強い。
名前も、水突銛と言う水属性の銛だったらしいのが鮫牙銛と言う物に変わった。
予備の方も30万で強化して貰い、魔法系の武技、ヴォルテクスフロウで小さな渦の様な物を射てる銛、渦鳴銛になった。
最たる利点は、武技後の硬直時間が物凄く少ない事だ。
その他、40万でサメとイルカをレベル10に上げ、100万でアイテムボックス《小》を買った。
レベル10になったサメとイルカは、一見して大した変化は無いものの、泳ぐ速さとか耐久力とかが少し上がった様に思う。
武器のアップグレードと比べると劣る様にも思えるが、満遍なく強化されているのなら特に言う事も無い。
実感は中々湧かないだろうが、お金を掛けるだけの価値はある筈だ。
アイテムボックスの方は、微が大体一石程度、お風呂一杯分くらいの質量だったのに対し、実に10倍。
湯船から風呂場程度まで増加した。
これにより戻るロスタイムが減って、稼ぎが更に多くなる。
……反面、海の迷宮ではおおよそ1時間くらいじゃアイテムボックスがいっぱいにならないので、稼ぎを目的にするならモンスターカードの持続時間増加を依頼しないといけない。
現状の目標にそぐわないので、とりあえず持続時間は弄らない。
これで当面はアップグレードしなくても良いだろう。
今後金を掛けるのは、イルカとサメとマジックポーチやマジックバックの類いに、消耗品と……家と食事くらい。
明日の昼には新規プレイヤーが入って来る。
人が混む前に、主を狩っちまおうか。




