掌話 海人のバルカローレ 四
第四位階下位
こりゃ良いなぁ。最高だぜ。
召喚したイルカもサメも、かなりのスピードを出して水中を進んで行く。
サメはちょっと痛いもんでイルカに引っ張って貰ってるが、人1人背負っても十分な速度が出ている。
海の迷宮を一気に南下し、やべー海溝は無視。一番安全且つ報酬の美味い南東部に僅か数分で到着した。
そこからの狩りも劇的だ。
襲い掛かって来る彩豊かな魚や海蛇、蟹や海老と戦い、それらを悉く薙ぎ払った。
1人じゃこうは行かないね。1匹やってる間に次が来るから、休んでる暇もない。
その点海での動きが良いイルカとサメはマジメに優秀だ。
一撃で仕留め損なってもトドメを刺して持ってきてくれるし、歯が立たないと分かってる蟹や海老には近付かない。
一番寄って来る魚と蛇を重点的に相手をしてくれるもんで、狩りが驚く程楽になった。
元々小さかったアイテムボックスやマジックポーチがドロップアイテムでパンパンになった所で、カードを見る。
左下の持続時間に視線を移した。
六芒星の魔法陣が描かれた瓶に、青い液体が入った様な形で示されるその持続時間とやらは、見る限りだと……ほぼねぇ。からっけつ。
「やべっ。帰るぞ」
「きゅぃー!」
「しゃ?」
「ダッシュで帰るぞ!」
「きゅ?」
「しゃぁー!」
走るんじゃなくて泳ぐんだよッ!
……しっかし器用だな。
結局ギリギリで間に合わず、数キロくらいの道を泳いで渡り、どうにか死なずに帰還した。
その後の売り捌きタイムでは、やはり強い魔物を倒したからそれなりの金額になった。
得られた15万少々の金で、少し悩んだが10万でマジックポーチを購入。イルカとサメをチャージして、次の狩りに向かった。
ひたすらに海の迷宮だ。
人がいないってのもあるし、獲物が豊富って言うのもある。その獲物が高く売れるってのもある。
今までは移動速度や処理速度の都合で海の迷宮は割に合わなかったが、イルカとサメを得た今……こっちの方が美味いか? いやでも海の迷宮ってヤバいのいるからなぁ……具体的にはクジラだが……。
まぁ、取り敢えず今の所は海の迷宮で様子見だ。
◇
昼飯を食い、狩りをして、夕飯を食った。
何せ獲物が尽きないもんで、東に西に南に、北はちょっと寒すぎるからスルーと7回程度遠征し、130万は稼いだ。
1日も経たずにこれだけ稼げるとは思わなかったが……サメとイルカ様々だな!
これがプレイヤーだけだったらそんなに稼げて無いし、分割しなきゃだから1人頭の取り分はもっと減ってる。
しかも水中という現状独占的な狩場だからの云百万で……暫くは大儲け出来そうだな。
差し当たって、保留していた水中装備の作成を依頼し、更新するのが面倒なので贅沢に100万と少し使って装備を整えた。
水中での視界を良くする為のゴーグルは、なんか魔法で換装してあるだけで目が守られるとか。水のエレメンタルストーンを嵌める穴が付いていて、魔力の補給が出来るらしい。
持続時間は水中の様子にも寄る様だが、大体1時間程度。目標的にはそんだけもちゃぁ十分だろう。
服は、ダイビング用のスーツみたいなのになるかと思っていたが、そこは流石にゲームか水着っぽい物に幾らかの鎧っぽい物が付いたビジュアル重視の装備になった。
ただし機能はちゃんとしていて、耐寒耐暑に対水性能がある様で、水中なのにまるで空飛んでる様な動きやすさだった。
更に、水中での推進力を得られる足輪を作って貰った。両足分でかなり高くついたが、そこは致し方なし、必要経費だ。
多少扱いに難儀するかとも思ったが、そこは天下のVRゲーム。脳波がなんたらとかやってるんだろう物で、自由自在に思った通りの動きが出来た。
サメやイルカの綺麗な装飾が施された足輪は、ゴーグルと同じでエレメンタルストーンを嵌める所があり、持続時間は使用量に寄るとの事。
後は、万が一の水中呼吸魔法が付いた指輪、暗闇を照らす照明の指輪なんかを買い、イルカとサメをレベル7まで上げて、からっけつ。
武器のアプグレもしたいし、アイテムボックス《小》のスキル結晶も欲しい。釣果的にマジックポーチの追加もあった方が良いだろうし……まだまだ金が足りん。
そんな訳で、早速今まで保留していた、海鮮通路第5エリアに挑むとしよう。
◇
津波の如く群がる白い牙。
それらは今までの様に容易く皮膚を突き破る様な事は無い。
防具の効果が良いからだろう多分。
多少の痛みもなんのその。
水深2メートルも無いそこで、雑魚サメに噛まれるのもお構いなしに、とにかくモリを正確に刺して、1匹1匹確実に仕留めて行く。
津波の如くなんて言ったが、奴等は奴等自身の胴体が邪魔をする為、連携して正確に噛み付くと言うのは出来ない。
数は夥しいと言える程だが、驚異度はそう高くない。
流石にサメとイルカを出すのは危険と言うか犬死だからしないが、敵の数を減らせば召喚して少しでも戦力になって貰う。
海鮮通路第5エリアのボスは、1匹の巨大サメ。その取り巻きとして無数のサメが泳いでいるが、巨大サメは浅瀬に入って来ない。ここで取り巻きを駆除するのが賢い戦い方ってもんだ。
暫しの時間を掛け、雑魚サメを殲滅した。
後は、ボスとその周りから離れない黄と緑の大サメのみ。
取り敢えず減ったHPをポーションで回復。作戦を練る。
作戦なる高尚な言葉を使ったが、実際の所これから取れる行動は3種類だ。
一つは、2匹の取り巻きを2匹に任せ、俺がボスをやる方法。ただしどちらか片方でも負けたら一気に劣勢。
二つめ、2匹にボスを任せ、雑魚2匹を俺が一気に仕留める方法。ただし取り巻き2匹が此方に向かってくれないと意味が無い。
そして最後は、最初の一撃で被弾覚悟で武技を叩き込み1匹を撃破。サメとイルカに残りの2匹から守って貰い、続けてもう1匹と一撃必殺して行く方法。
正直言って、サメとイルカは実力的に劣る様にしか見えないから、賭けに見える後者が唯一堅実な方法と言う……まぁ、じわじわ戦って被弾しながら3対1になるよりかはずっとマシだわな。
……目標撃破の為にも、イルカとサメはせめてレベル10くらいには上げておきたい所だな。
「よし、行くか」
「きゅー!」
「しゃー!」
◇
推進力を全開にして、一息にサメへと接近。武技を放って黄サメを一撃の元仕留めた。
スキルレベルに寄るらしいが、今の俺の硬直時間は4秒程度。1人で狩りするんじゃ致命的な時間だが、今は頼もしい仲間がいる。
此方へ牙を向いたボスサメに、サメが体当たりをかます。緑サメにはイルカが同様に突き込んだ。
此方側の2体はおそらく格下であるとは言え、障害物になるのは確か。
増してや敵にとっては俺もサメもイルカも外敵な訳で、即座に障害を屠るべく、サメ達は牙を向いた。
そこへ、硬直が終わった俺は再度推進力を操り、イルカを狙う緑サメへ同じ様に武技を放つ。
黄サメは此方を向いたから頭をズバッと貫いたが、緑サメは横っ腹。一撃で即死には至らず、暴れるそれへイルカが襲い掛かる。
モリを引き抜いてる暇はないので、予備のモリを取り出してボスサメへ振り向くと……サメが噛み付かれた所だった。
「ぶふぉ……ごぼっ《送還》!」
おまけで水中呼吸!
やべぇなおい。たった5秒くらいで首根っこ抑えられるとか、流石はボスキャラって事か。
大きさもレベルも格下である以上劣勢だとは思っていたが、一瞬で食い付かれる程だとは思っていなかった。認識が甘かった訳だ。
ぎしりぎしりと咀嚼するかの様にボスサメは口を動かし、辺りに舞った血を吸っている。
この隙にサメを再召喚。ダメージで召喚可能時間がそこそこ減ったが、イルカとサメで協力して手負いの緑サメを倒して貰う。
「さぁて……行くぜ」
水中で、此方に攻撃的なサメと相対する。
それがどれ程の緊張を齎らすかを肌で感じながら、モリを構えた。
コレを突破出来たら、アレも倒せるだろうよ。
冷や汗を海に滲ませ、ぎらつく牙に怯む心を叱咤して、推進機を起動した。




