掌話 海人のバルカローレ 二
第四位階下位
……つい買ってしまった。
いや、違うな。俺は10万が実質タダになるから買ったのではない。サメとイルカが実質タダになるから買ったのだ。
あと黒髪の超絶美女だったから乗せられた訳でも無い。波を乗りこなすのが海溝漁師の誇りだからである。
乗せられたのでは無く乗ったのだ。
金と美女に溺れた訳では無いのだ。
海溝漁師の誇りに掛けて、俺は断じて溺れない。
飯とあら汁を一緒に掻き込み、お裾分けで来た刺身やら壺焼きやらを食べて、手を合わせる。
「ご馳走様!」
さっさと片付けようと立ち上がると、それに先んじて皿が片される。妹だ。
「ミナモ」
「いいから、うみにぃは黙ってて」
自分は食べてる途中なのに、態々俺のを片付ける為に立ち上がって……。
「……別に気にしなくても良いのに」
「まぁそう言ってやんなよ。カイはゆっくり病人やってなさい」
「うーん」
「なるにぃも黙ってて」
「うーい」
まぁ、俺もアニキに庇われて足ぽっきりやられたら気にするわな。
「ゲーム、やるんだろ? 洗い物はミナがやっとくから、カイはさっさと病人やってななー」
「なるにぃのはやらないからね」
「うぃ。分かっておりますとも。あ、歯磨きしとけよー」
「おぅ、ミナモもサンキューな」
「……ぅん」
さーてと、さっさと歯磨き、トイレも行っとこ。後なんかやる事は……ないか、ゲームやろ!
◇
いつも通りの転移門前広場の宿で目を覚ます。
3日毎の契約であちこち泊まらせて貰ってるが、やっぱり高い宿の方が設備も良い。
カプセルホテルなんかは寝るだけって感じだが、今泊まってる所は広さも然る事ながら意味はあるか分からないがトイレ風呂完備で、持久力強化《微》が付く弁当作ってくれるし、1日だけ効果のあるポーションみたいなのをくれる。
ポーションなんかは自前で作るか少し面倒な薬草採取クエストをやらない限り、大きな団体とかが纏めて買って行って品薄だからありがたい。
……掲示板で見た感じじゃあそのクエストをやると翌日のポーション補充量が多くなるらしいって話だが……アホ程薬草採取して持ってけば品薄回避出来るのか?
ソロとしては大御所さんにそこら辺やって貰いたい所だがね。
それはともかく、狩りだ。
今日も今日とて、一番やり易いリスティアの海鮮通路。
……実際の所、豊漁なのは海の方だが……海には偶にやたらと強いのがいる時があるし、リスティアのエリアが狭い所の方が逃げられても捕まえ易いからな。
まぁ、それはともかくとして、海の方にはフィールド制限もあったし、ボスと思わしき魚も見つけてある。いずれ必ず行くが……今は戦力と装備が足りないから仕方ない。
その戦力強化の為の、リスティアでの狩りだ。
サメとイルカの戦力確認とレベル上げ。それから俺のスキルレベリング。
さぁ今日も気合入れて行くぞ!
◇
昨日までは完全にソロ。しかし今日からは使役する魔物が加わる。
朝早過ぎてほぼ誰もいないリスティアの大広間を抜け、海鮮エリア1に入った。
中央のボス連戦とか木材石材のエリアは人気だが、海鮮エリアは水中戦が主だから人気ないんだよなぁ。
いつも通り無人の浅瀬を渡り、適当に貝やら蟹やらを捕まえてレンタルのマジック・ポーチに突っ込み、中央の浅瀬、水晶周りに来た。
付近の水中を覗き込み……。
「……いた」
エリア1のボス、でかい蟹を見つけた。
この蟹は、海の方でも見かける蟹の強い版で、体も大きい。
4匹いるので、取り敢えず3匹はいつも通り仕留めよう。
服を着たまま水中に飛び込み、モリを構える。
使ったのは、槍術の武技、ストライク。
一息に胴体を貫かれた蟹は、青い血を吐きながら動かなくなった。
硬直が解けるや直ぐに蟹をアイテムボックスに仕舞う。
最小サイズだが蟹4匹は仕舞えるし、かなり金が掛かったが買っておいて良かった。ほんと便利。
水中機動系のスキルのおかげでまだまだ余裕だが、一旦水上に顔を出し、同じ手順で蟹2匹を狩ってアイテムボックスにしまった。
その途中、血の匂いに引かれて姿を現した小さなサメを狩り、ギリギリ入るのでマジック・ポーチに入れる。
……実際このサメがマジで危険で、1匹に手間取ってると最大10匹現れて全身ズタズタにされる。
ぶっちゃけ連携して来ない蟹よりボスらしい連中だ。
レベルとかスキルレベルが上がった今となっちゃ敵じゃないが、水中戦が苦手ならとられる可能性は十分ある。
周囲の安全を確保した所で、一旦水上に上がり、早速2枚のモンスターカードを取り出した。
「さてさて、どんなもんかね?」
召喚と念じると、カードが光を放ち、サメとイルカが現れる。
サイズは……やっぱりベビーと付くだけあって小さい。
ここに出るサメと同じか少し小さいくらいだ。
「……ま、最初はそんなもんさ」
デカ蟹に挑ませられるレベルじゃねぇ。
取り敢えず泳がせておくか? それとも一時送還して——
そこまで思考した所で、背中にドスっと鈍い衝撃を受けた。
「……地味に痛い」
イカだ。突撃イカ。こいつもまた厄介な奴で、モリで突き刺すくらいの猛スピードで突っ込んで来やがる。
取り敢えずぶっ倒すかと潜った所で、見えたのはイカに噛み付くサメとイルカ。
このイカは突っ込んで来る時だけ硬くなるが、それ以外の時は普通にイカで、しかも一回しか硬くなれねぇ上に猛スピードを出せるのも一回。
一撃で仕留められなかったらただのイカになるモンスターだ。
なもんで、ベビーとは言えイルカとサメにはただの餌。
見るも無惨に触腕を食いちぎられ、無事捕食となった。
命令しなくても行動してくれるみたいだし、まぁ雑魚散らしには使えそうだな。




