掌話 海人のバルカローレ 一
第四位階下位
「……痛たた」
血の滲む膝を摩りながら、薄暗い道を歩む。
初級ポーションは飲んだが、完治とは至っていない。
一応深い傷は殆ど塞がっているが、浅い傷や治り切っていない所から血が溢れている。
ポーションで傷こそ治っても、痛みは後を引いており、庇う様にひょこひょこと歩いている。
目的地はもう直ぐ。後少しの辛抱だ。そう言い聞かせて痛みから意識を逸らしていると、間も無く結晶の大広間に着いた。
青い光に安心してしまうのは、条件反射的な物だ。
自動回復効果によって、痛みが少しずつ引き、傷が治って行くのを感じる。
「ふぅ……」
一先ず安心だ。
改めて辺りを見回すと、珍しい事に、人が1人もいなかった。
普段はプレイヤーやらNPCやらがいるもんだが……まぁ、大剣士が掲示板でなんか言ってたみたいだし、NPCに関してはそう言う時もあるだろう。
「ん?」
それに気付いたのは、少しでも効果が高まらないかと結晶側に近付いた時だった。
地上に繋がる階段横に……見慣れない光がある。
——扉だ。
「……新しい要素? でも何でこのタイミングで」
大剣士が迷宮攻略がどうので人を集めてたから……何かクリアしたのか?
まぁ、なんでも良いか。取り敢えず見に行こう。
窓の付いた木製の両扉に手を掛け、押し開いた。
そこは……やけに近未来的な店だった。
天井から降る白い灯りが店内を明るく照らし、並んだショーケースやスポットライトの様な光源が高級感を出している。
そこに売っていた物は……。
「……カード……?」
ガラスのショーケースに並べられたそれは、魔物の絵が描かれたカードだった。
ケースの下の方には、品名と値札が付いている。
「魔物召喚板……テイマー系のアイテムか? 値段は、1、10、100……3万……? まぁまぁするな……」
買えない事も無いが、幾つか買うとここ暫くの稼ぎが飛ぶな。
良く見ると、カードは壁の棚に飾られている物が主で、大きなガラスのショーケースに入っている物は極少数……と言うか、何かの説明用に並べられている様だ。
「……えぇっと?」
右上の丸いマークがその魔物の属性? ただの丸は無属性と。左上のマークが……魂の有無? どう言う意味だ?
真ん中の絵が召喚される魔物で、右下はその魔物のレベル、左下は持続時間? なんのこっちゃ。
その他のショーケースには、再使用の為の魔力補充方法や魔物のレベルを上げる方法、進化させる方法、魂を付け加える方法とかが説明されていた。
まぁ、大体分かった。
要するに、何度も使える時間制限付きの助っ人って事だな。
分かんないのは……。
「……魂の追加ってのはいったい……?」
「ご質問ですか?」
「っ!?」
ばっと振り返った先には、黒髪の美女。
……いなかった筈……いや、いたか……? ……おかしい、確かにいたのに人として認識出来てなかった……?
「ご質問でしょうか?」
「あ、あぁ……失礼した。そうだな……この魂の追加って言うのはどう言う事なのか……」
カウンターの先にいるので店員だろう。それにしても美人だ……これはNPCだろうな。
ヒントでも貰えればと思って聞いたその問いに、しかし黒髪美人のNPCは分かりやすく答えてくれた。
「魂の追加とは。大まかに言えば記憶装置の追加です。本来魔物召喚板で生成された魔物は消滅時にリセットされますが、それを行う事によって次に生成された時も以前と同一の個体が生成される様になります」
「……借りるか買うかみたいなもんか」
通りで高い訳だ。まぁ倍額程度だが。
しかしただ記憶するだけだと無意味にも思えるが……。
「また、名前を付ける事が可能になる他、スキルレベルが上がる様になります」
「そりゃ重要だな」
スキル育つんだったら大事も大事だ。倍額どころの騒ぎじゃない。
……ただまぁ……記憶装置があってもスキルレベルが上がっても……言う事聞かないとかじゃあ意味が無い訳だが……。
「……指示は出来るのか?」
「基本の機能として命令は遵守します。種によって多少のブレはありますが、人並の記憶力と理解力があると言って良いでしょう。出来る事はその種の肉体によって変わり、具体的には鳥に飛べと言えば飛びますが、魚に飛べと言っても飛べません」
「ほぅ……?」
……って事はだ。言う事聞かない召喚術やテイム出来ない従魔術の完全上位互換って事だろ?
……いや、あっちは使役時間に制限は無いか……死んだら終わりだがな。
チラリと陳列棚を見る。そこには、犬や猫の陸上型から虫や植物、スライムや精霊? 的なのに加えて、魚やらもあった。
特に気になるのは、サメとイルカのモンスターカードだ。
だが……高い。両方とも5万もする。一番低いのがスライムで1万だから、それだけ使えるって事でもあるんだろうが……魂の追加をすると20万……MCだと少し足りない。
「……王国貨幣の両替も可能ですが」
「あ、あぁ……」
でもそれって手数料取られるからなぁ……。
「因みにですがお客様は開店1人目のお客様なので、ご購入頂ければ此方のカードホルスターをプレゼント致します」
そう言って何処からともなく出されたのは、ベルト付きの小さなバック。
「このカードホルスターは、モンスターカードを50枚まで、エレメンタルストーンを各種500個まで保持可能で、通常は10万MCで販売しております」
「両替お願いして良いですか? こっちのサメとイルカ、カードのアップグレードで魂追加で」




