第28話 敵ジャナイ
第八位階下位
門が開かれた。
結界外から既に薄々感じていたが、扉が開放されると同時に強い力が溢れ出したのが分かった。
この膨大なエネルギー量は、以前来た時の比ではない。
なんらかのトリガーが引かれ、高質の魔力が解き放たれたのだろう。
そこは一種の神域だ。
今まで何かしらの存在に気付かなかったのは、神気により隠されていたからだろう。
……僕自身の経験値が少なかったのも要因の一つだが。
溢れかえる神気は、ルベリオン王国が築き、積み上げて来た信仰の証明。
女神像がある事から、女神信仰の神気も多分に含まれている事だろう。
それらも要警戒対象だが、もう一つ。それとは無関係の部分で僕の興味を引く存在がいた。
——天命騎士だ。
全身鎧の13名の騎士の内、12名から全く同じ気配が感じられるのだ。
なんもかんもが気になるが、取り敢えずはレイガスとメレネーアの保護が最優先。
即応力のあるウルルと高い近接戦闘力を持つメロットを2人の側に配置、13名+αの外敵に備えてシャルロッテ。そして空間操作能力を持つエヴァとアトラを女神像近傍に配置した。
最悪の場合の備えは完了。万が一死んでもせめて魂だけは無傷で掠め取る所存だ。
差し当たり神域のシステムを解析しつつ、奇妙な気配の鎧騎士を調べよう。
天命騎士団なるこの怪しい連中は、内12名が全く同じ気配を放ち、1名がそれと少しだけ異なる気配を放っている。
気配と言う物は、肉体を通して感じられる表層魂魄の匂いと言える。
通常ならば肉体がそもそも異なるし、仮に肉体が奇跡的に同じ形をしていても、住んでいる場所や食性、育ちから感じられる気配には差が出て来る。
それが12名、全く同じと言う状況で考えられるのは……12つ子じゃなければホムンクルスである。
と言うか表層魂魄まで一緒となるとほぼ間違いなく作られたばかりの育ちも何も無いホムンクルス一択であった。
まぁ、帝国がホムンクルス生成の技術を保有しているであろう事は想定内だ。
一つ気になるのは、13人目。
12人と同じ様な気配なのに、微かに気配が異なる個体。
考えられるのは、先に作られた個体。もしくは前世の記憶を持つ個体だ。
その真実は——
——……なんか良く分からなかった。
いや、生成された個体なのは間違いない。肉体は至って普通の人型。赤味掛かった短い髪に榛色の瞳を持つ一般的な少女の姿。
肉体や魂魄に特別な才を有している様子は無く、何故その少女を態々生成しているのか分からない程に弱い。
表皮には精霊刻印、体内には特殊な加工が施された魔石の様な魔力結晶、と様々な改造で強化されており、更にアークエクスプロージョンクラスの自爆魔法が仕掛けられている。
それ以外は至って普通の少女の身体だが……一つだけ、普通とは大きな違いがあった。
少女の身体の腰部分に………尻尾の様な器官が付いているのだ。
先端部分にコアらしき物が付いており、そこから腰を通って神経が繋がりそれらが複雑に絡み合って……頭からの命令よりもそっちの命令が優先される様になっている様だ。
その上尻尾の付け根部分に首輪の様な物が付いており、契約魔法の類いで動きを縛られている。
良く見ると、その少女達は水属性の魔力適性が人にしてはやけに高い。
判断材料が少ない為なんとも言えないが……生成方法がホムンクルスの物と異なるのは間違いない。
「ようやく来たか、待ちくたびれたぞ、ティアッ!」
ウィズアルトの苛立った声が広間に響く。
ティアは瞬きの内に状況把握を終えて、広間に踏み込んだ。
僕は解析しつつそれに続き——
「専属従士、貴様は動くなッ」
——止まれと言われたので止まる。
ティアを誑かしたとか思われているのだろう。凄い嫌悪と警戒の視線を感じる。
後皆は怒らなくて良いから、万が一に備えて欲しい。
ティアは真っ直ぐウィズアルトを見据え、刺激しない様静かに言葉を紡ぐ。
「……兄様。その決断に今更何も問う事はありません。父様とメレネーアを解放してください」
「ふん、賢いティアなら分かっているだろう? 今何をすべきなのか」
「……」
ティアはキリッとした表情のまま……動かない。
…………もしかして分かってない、いや僕が関わった所為で思考停止してるのか? 一応助言しておこう。
『王位継承権の放棄だよ』
『いやしかし、それは既に以前……』
『審判の間でやるのが正式な放棄の仕方なんだ』
『そうなのか……』
まぁ、致し方ない。
そもそも審判の間のシステムを、ルベリオン王国の連中は殆ど理解してない様だからね。
ティアは改めて一歩踏み込み、女神像を見上げた。
「……私、エスティア・ルベリオンは王位継承権を放棄する事を此処に宣誓する」
これで、ティアの王位継承権はほぼ無くなったと言って良い。
判断する者がそれを聞いていたのだから。
ただし、それは確実じゃない。
審判の間は、本来正当な王が悪逆であった時の救済措置なのだから。
ウィズアルトもティアもそれに漠然と気付いている様で、決め手に欠ける様子。
「……これで良いでしょう? 早く父様とメレネーアを解放してください」
「……」
澄まし顔でそんな事を言っているが、両者釈然としないまま僅かに時が流れ……徐ろにティアが一歩、横にずれた。
ティアは手で僕を指し示し——
「……兄様、私はこのユキと結婚し王家を出ます!」
——落ち着けっ、皆落ち着けッ! それは味方だ!




