第26話 王は何処
第八位階下位
時期的、または治世的に、民による反乱の線は無い。
そんな事が出来る程の憎しみは無い。
貴族による反乱の可能性は?
……ありえない事も無い。最初から転覆を狙う身中の虫がいれば、疲弊している今の王都は狙い目だ。
だが、それが出来るのは実質ルベリオン王国南部の大貴族。ルステリア公のみ。
北部は最低限の街しか機能していないし、平和な治世を敷く当代国主、イスタル・ルベリオンに叛意を持つ様な輩は黒の戦争で我先にと国外逃亡してる。
最も考えられる線は、北部に接している二国、エルダ帝国やシャンディリア教国の介入による革命。その後の傀儡国家までが目に見える。
その場合はそれを手引きした者がいる筈で……人心に通ずると自負する僕的には、悲しいが幾つか心当たりがある。
果たして——
◇
ティアの元に転移し、即座に状況を把握する。
どうやら、ティアの屋敷は何処から沸いたか武装した兵士に囲まれており、その屋敷を巨大化したアイが飲み込んで守っている。
兵士達もツンツン槍とか剣とか松明とかを突き刺しているが、そんな物ではアイになんの痛痒さも感じさせる事は出来ないだろう。
件のティアは、優雅に黒霧が淹れた紅茶を飲んでいる。
今更ながら時刻を確認したが、正午からまだ数十分しか経っていない。
ティアは僕に気付くと、パッと顔を明るくした。
「ユキっ。来てくれたか!」
「そりゃ来るよ。ティアもよく待っててくれたね。黒霧、ご苦労」
この状況を数十分放置したのは痛いが、最悪の事態ではない。
黒霧の端末がいるなら、誰かが死んだ訳では無いだろうし、死んだとしてもどうにかなる筈だ。
「詳しく聞こうか」
話はそれからだ。
◇
まぁ、ありきたりな話だ。
ティアには2人の兄と2人の姉、そして妹がいる。
ルベリオン王国第一王子、ウィズアルト・ルベリオンは、王位継承権第一位だ。
彼は順当に行けば、王になる。
日々努力し、勉強し、国の為に尽くして来た。
順当に行けば……例え英雄の様な妹が居ようとも。
順当に行けば……例え民衆から愛される妹が居ようとも。
ただ一つ。それが覆され得る事実を、彼は知ってしまった。
ティアはそれを知らなかったと主張しているが、知っている者からしてみれば、ティアの様子は怪しいを通り越して確信犯だ。
計画は兼ねてからされていた。
それはあくまでも、万が一の時の対策だ。協力者の意思はともかく、彼にはそれを実行するつもりは無かった。
彼はちゃんとティアの事を愛していた。黒の戦争時も、ティアを戦場に行かせまいと、父と共にあの手この手を尽くしたらしい。
ただ、当たり前に妹よりも国が大事で、彼には王になる以外の選択肢が無かった。
彼の努力を無に帰す、絶対の法が無ければ、彼が凶行に走る事は無かっただろう。
この国には、審判の間と言う場所がある。
そこには、真に王に相応しき者を選定する力がある。
偽りの王を裁き、真なる王を見出す、絶対の力が。
彼がティアを愛していたのは事実だろう。守る為に戦争に行かせなかったのも事実だろう。
だが、ティアなら何かしらの戦功をあげるかもしれないと思ったのも、それで民心がティアに付くだろうと思ったのも、紛う事なき事実だろう。
彼を凶行に走らせた要因は、おそらく3つ。
大賢者デュナークの存在。
無冠の英雄に与えられる誉高き称号、専属従士を持つ者の存在。
そして、最近になって審判の間に何度か出入りしたティア。
例えティアにその気が無くとも、専属従士が賢者と結託してティアを王にしようと企んでいると思われても仕方がない様な状況だった。
少なくとも、自分が王になる道しか考えられないウィズアルトにとっては、そうとしか思えなかっただろう。
敢えて悪く言うなら頭が硬い。良く言うなら真面目——だから利用される。
今屋敷を囲んでいる兵士はウィズアルトの私兵と言う事になっているらしいが、その実体は傭兵であり、その真実は帝国兵だ。本人達が言ってた。
100にも満たない少数精鋭でレベルも10代後半と優秀だが、流石にスライムの中から声を拾って来る者がいるとは思っていなかった様だ。
と言うか、王都が俄に活発だった原因は、マレビトがまともに商品供給出来る様になって商人が増えたとかじゃなかった訳だ。商人に偽装した帝国兵が入って来てただけで。
「状況は理解した」
今後やる事が決まった。
帝国は潰す。審判の間を調べる。必要とあらばお話し合いをする。
方針は決まったが……一つ、僕には決められない事がある。
改めて、ティアと視線を合わせた。
その瞳は揺れず、この状況にあって心に動揺は無い。
「……ティアは今、どうしたい?」
「私は……」
全ては僕の一存でどうとでも出来る。後は当事者であるティアの意志次第だ。
僕の真っ直ぐな問いに、ティアは暫し思考し、困った様に応えた。
「……私は兄に何ら求める所はない。兄が王になれば良いと思う。だが、現状は良くない方向に向かっている」
「つまり、介入して来る相手をどうにかしたいって事かな?」
「そうなれば良いが……仮にそれがどうにかなっても、兄が王になれば付け入る隙は生まれてしまうだろう」
「つまり、介入して来る相手をどうにかしたいって事だね」
「いや、だから…………そうか」
僕の真意に気付いたか、ティアはポンッと手を打った。
そんなティアに、僕はニコリと微笑む。
「それで、ティアは今、どうしたい?」
ティアは迷いなく、僕へ手を伸ばした。
「先ずは兄を止める。ユキ、力を貸してくれ……!」
僕は微笑みながら、その手を握った。
民の為ティアの為ティア一家の為何より僕の為、帝国は潰す。慈悲はない。




