第19話 笑う門出
第八位階下位
その後の予定を決めながら、のんびり休憩タイムだ。
黒霧が全て管理している為紙媒体に何かを残す必要はないが、紙の方が見やすいと言う者達もいるので、色んな内容をサラサラと念写していく。
『現時点でクラン参加者3万名を越しており、このまま行くと今日中にも4万を超えるかと思われます』
「情報が出回るのが早いね。掲示板とかで拡散されてるのかな」
『掲示板スキルを取得すればある程度動向を掴めるかと思われます』
「分かった。買っていいよ」
プレイヤー達からの情報収集は目下そこそこの重要事項だからね。
聞き耳盗み見だけで得られない情報もあるし、そこら辺は致し方ない。
必要な投資だ。
竜素材の大量注文? これ何に使うの? 僕も竜素材欲しいんだけど。
報告書、もとい嘆願書を見る限りだと、レベル150以下の竜、龍、または亜竜、亜龍の素材を求むと言う事なので、それくらいなら良いだろう。
亜竜や亜龍素材なら、竜寝殿の迷宮狩りや掃除をした際に文字通り掃いて捨てる程集まっているからね。許可っと。
『各商店での売り上げは好調。下位相当のアイテム類はほぼ完売の勢いです。水筒は安価且つ携行性能の高い小型が売れ筋で、利便性の高い水生成の機構が施された魔道具の水筒は殆ど売れていません』
「まぁ、値段も値段だしね。買ったのは多分コウキ達の一団でしょう?」
『後は私の主人の親戚と目される人物の一行と、極一部の高位プレイヤーです』
だろうね。それにクランに参加すれば数枠とは言えインベントリの機能も使える様になるからね。
傾向として先行組の方が、クランに参加している率が高いのは、それだけアイテムの持ち運びがストレスだったって言うのもあるだろう。
それから、ガチャも既にそこそこの回数引かれており、中には色鋼の武具を手にした幸運者もいる。
まぁ、色鋼程度だったら直ぐに通じなくなるので、自然と己を鍛え始めるだろう。
魔物召喚板の売れ行きもすこぶる好調だ。
此方は、言ってしまえばノーリスクで大したデメリットもなく補助人格を獲得出来る様な物なので、売れるのは当然だ。
一応極低確率で迷宮からも得られる様に設定している為、10万人もいるから既に何度かドロップしている。
魔力のチャージにレベルアップ料金にと、儲けが堅い良い商売です。
それと、進化をさせてる者も幾らか出て来ている様だ。情報が少し出回り始めているらしい。
『プレイヤーによる訓練場の使用率は0%。教練場は10%に満たず、傭兵の雇用率も1%を下回ります』
「教練場は1%でもあれば十分だ。情報が広まれば直ぐに足りなくなる。傭兵は……寧ろもう使ってる人がいる事に驚きだよ」
クランならともかく傭兵は特におすすめしてないし、目敏いのがいるのか運が良かったか。まぁ巡り合わせだろう。
傭兵業は儲けと言うよりも停滞防止の策なので、細々とやって行こう。
その他、商店や食事処、宿屋。全て順調である……そこしか買う場所ないからね。
奉仕産業だと思っていた迷宮業はと言うと……神の加護により、拡散する体からそこそこな量のDPを確保しており、思っていたより出費は少ない。
まぁ、そもそものそれらほぼ全てが奉仕産業なので、結局の所僕は常に赤字なのだが。
明確な収入は、神の加護による体の拡散と、クエスト報酬に追加される僅かなお金と物資、それから……主催者報酬のちょっとしたお金と物資。
それで赤字を賄えている訳ではないが、神が作った神の迷宮で稼がせて貰っているので全く問題ない。
神からしてみれば、下請けが素材の加工をしてくれてる様な物だろう。
迷宮や浮遊都市、プレイヤー側はこれで良いとして、後は竜寝殿だが、現在ミシュカとその他の竜達があれやこれやと細かい話をしている。
間も無くそれらの話も終わるだろうし、イベント戦が終わった後にミシュカを回収しよう。
◇
数時間分の休憩とも言える様な白のイベント会場から帰還した。
敵は全体的に白く、光属性を纏っていた以外に特別な事はない。
青の時との違いは、隠し本棚や金庫から手に入る物が多少変わっていたり、猛獣のゲッシュが獅子と大狼から熊と牛になっていたくらいだ。
僕は皆が片付けた戦場をぼりぼり消し崩し、土と石塊と草と攻城兵器でEPを稼がせて貰った。
草や地中の配置も都度変わる様で、今回は球体状のフィールド制限ギリギリに鉱脈があり、ちょびっとだけ金属が手に入ったのは、多分ラッキーだったのだろう。
チケットのランクが上がると、この球体状のフィールド制限がどんどん広がって行き、空高くから地中深くまで行ける様になるのだと思われる。
今回活躍したのは、今度こそはと奮起していたナツナとシハル。
熊も牛も鈴平の2人には慣れた物で、猛獣使いエランの補助魔法で強化された2体を槍杖と体捌きで打ち倒し、2体のゲッシュとエランを沈めた。
一方クンも、セロにリベンジする機会に恵まれ、それを至近爆撃で自分諸共吹き飛ばしたりしながら打ち倒した。
シロは走り回って敵を膾斬りにしながらアガーラを探していたが、件のアガーラはアマネの爆撃で致命打を受け、リナの狙撃でトドメを刺された。
2人はアガーラを倒した事に気付いていなかっただろう。
僕的一番の見所は、ユリちゃんが投槍で死霊のゼンを一撃死させた所だ。
その後1人になったゼムは周囲の死霊を呼び覚まし、しかし演算力の不足でゴーストを使役する様な事しか出来ず、大した波乱も起きぬまま終わった。
それより上のチケットは、明日以降どうにか用意出来るだろう。楽しみである。
そんなこんなでイベントも終わり、後のチケットは皆だけで行って貰う事として、いよいよ賢者達の再開の時間となった。
◇
竜寝殿からミシュカを攫い、地上に向かう。
目的地は、賢者達を休ませているインヴェルノの城だ。
僕は念動力でスィーっと移動しているが、ミシュカは半竜化して翼を生やし、一生懸命に羽ばたいている。
……竜はさ、羽じゃなくて魂で飛んでるんだよね。翼は飛行の属性概念を現出させる器官であり、他にも負担軽減と軌道修正、それから緊急時は防御壁の役割を担ったりするが、必死に羽ばたかせる為の物ではない。
「むぅーー!」
僕は、体を強張らせ頑張っているミシュカの背後に回り込むと、その翼をがしっと掴んだ。
「ぅぁひゃぁっ!?」
「そのまま飛びなー」
「ぁぅ」
類稀な才を持つミシュカは、地上に着く頃にはまともに飛べる様になった。
城の東側。海を見渡せる広いバルコニーに降り立つ。
ミシュカは、数百年前と比べたらすっかり変わった街側を見下ろし、次に塔の辺りに視線を向けた。
少しの間、ミシュカは遥か遠く、もう届かない場所を見る様にしていたが、それを振り切る様に東を向いた。
そこにあるのは、どこまでも広がる青い海だ。
「……海は……昔と、何も変わらないですね」
そう言うや、ミシュカは寂しげに塔の中腹辺りへ視線を戻す。
瞳がうるりんと輝き、手がキュッと——握られる前に僕が滑り込む。
ぐいっと視線に割り込み、目と目を合わせた。
「……ぁぅ」
「ミシュカ。ちゃんと見て」
逸そうとするミシュカに更に近付き、瞳に力を込めると、ミシュカの瞳も共鳴して光を纏った。
「ミシュカ。失くした物を数えるより、今ある物を数えなさい」
「……うん……でも、でもね……忘れられないよ……!」
助けを求める様に、ミシュカは強く手を握る。
現実を拒む様に、瞳は強く閉じられた。
堪えきれない悲しみを吐露する姿は、まるで血を吐いている様だった。
僕は言葉を紡ぐ。
「忘れなくて良いさ」
開かれた翡翠の瞳は、濡れて宝石の様に輝く。
僕はより深くを覗き込む様に瞳を共振させ、片手は握ったままミシュカを抱き寄せた。
「忘れなくて良い。今ある物は、彼が残してくれた物だから」
「っ……!! ……お父さんが、残してくれた……」
ポロリと雫が溢れ、頬を伝う。
少し強く手を握ると、直ぐにミシュカから離れた。
無意識か、ミシュカはぎゅっと強く握り返して来る。
「さぁ、皆が待ってる」
僕はニコッと微笑む。
ミシュカは雫を頬に滴らせながら少し目を瞑り、そしてニパッと微笑んだ。




