第7話 霧雨円舞
第八位階下位
皆は、作戦通り、闘気法による全力の攻撃を行なった。
僕は操気により体を的確に強化した省エネ戦法で敵をバッタバッタと斬り殺しながら、皆の活躍を見守った。
ミサキとノアちゃんは、ノアちゃんが若干控えめだったものの、ミサキが豪快に大剣をぶんまわし、次々と敵を屠る。
マガネ達の方は、戦闘経験の多い子達が多かったので、ゴリラもエランもあっさり沈んだ。
接敵するや、エランはゴリラに強化魔法を使い、ゴリラの戦闘力を底上げした。
そのまま一直線に進むマガネと衝突し、ゴリラが押し負けた。
……マガネは細かい操作が苦手なんだよね。
転がったゴリラに、アランは斧を振り下ろし、頭部から胸部にかけてを破壊、致命打を与えた。
コアがある部分を予測して打ったのだろう。ドールやゴーレムは頭か心臓部にコアがある事が多いからね。
しかし心臓部はやや左なのを見落としていたか、図体がデカいゴリラ型のコアは僅かに欠けるだけで済んだ。
ただし、そこはリカバリーの早いアラン。拳に闘気を纏い、ゴリラがアクションを起こす前にコアを殴って粉砕した。
そうこうやってる所に群がってくるドール達も、桜庭姉妹が暴風の様に暴れ回り、初級のコスパが良い弾丸系魔法を乱射、敵を牽制しつつ薙ぎ払う。
彼等の唯一の誤算は……弓兵がヒョロ矢を撃ちまくって来た事だ。
そも、その可能性はキリサメも考慮していた。
ドールなら或いは、味方に当たるのも無視して矢を射って来るだろうと。
想定外なのは、弓兵の矢が絶妙にひょろひょろだった点だ。
人の皮膚を貫きはする。ドールに刺さりはする。だがそこまで。
関節部に刺さりでもしない限りドール達はなんの痛痒さも感じず武器を振るい、一方人間達は皮膚を裂かれれば血が飛び散り、刺さったまま放置すれば傷が広がる。
いやらしい位に絶妙な距離と威力だった。
僕も矢を避けながら敵を切り倒す為、殲滅スピードが上がらず。それをキリサメが補う事で辛うじて進軍速度を和らげている。
アランやマガネ達は若干の支障はありつつも問題なく活動出来ているが、ノアちゃんは回避出来ないので防性闘気を纏い必死に鎚を振るい、ミサキは防性闘気と攻性闘気を纏って暴れ回る為ガス欠待った無し。
まぁ、負けは無い。懸念点はあるが、負ける道理では無い。
寧ろ、最も敵の数が多い中庭を制圧すると言う事は、即ち勝利と言っても過言では無い。
若干2名力尽きそうだが、この規模の軍勢を倒さんとするのだから、致し方ない犠牲だ。
◇
キンッと魔弾が弾ける音がした。
ミサキとノアちゃんの方からだ。
そうと思った次の瞬間には、僅かに進軍しているドールの集団の中から、高速の何かがキリサメに突進した。
——アガーラだ。
やっぱりそこから来たかと納得しつつ見ていると、アガーラはキリサメの追撃をジグザグに走りながら回避し、直撃弾は剣で弾いて一息に接近した。
アガーラは正面からの薙ぎ払いを大きく下がって回避。正確に胴の中心を狙って放たれた弾丸は、僅かに側面を削るに留まった。
奇怪な動作で放たれたのは、頭を上下に真っ二つにする横凪。
キリサメは大きく首を後ろへ逸らしてそれを回避し、その勢いを使って縦に一回転。
闘気を宿した蹴りが、それを予期していたらしいアガーラの闘気宿す拳と衝突した。
押し負けたのはアガーラ。と言うよりも、蹴られる勢いを利用して引いたと言うのが正しいか。
フリーな手から放たれた弾丸を回避……しようとして失敗、肩に弾丸が突き刺さった。
火属性を込められた弾丸である。火は爆発する様に一気に燃え上がり、アガーラを焼くかと思われたが……そこは流石の経験豊富なボス級ユニット、一瞬の迷いもなく自分の肩を斬り落とし、即座にキリサメへ襲い掛かる。
銃を間近で観察してその仕様を見抜いたか、そこからは凄まじい体捌きによる一撃必殺の応酬だった。
キリサメの弾丸は火を宿し、胴体に当たればアウト、片腕に当たってもアウト、足に当たってもアウト。
一方アガーラの剣も、何処かを切り落とされて一瞬でも怯めば、ドール特有の奇怪な動きによる連撃を捌き切れず、やがて敗北。
どちらか一方に助けが来れば話は別だが、例によって足手纏い2人は歯噛みしながらそれを見守り、アランとマガネは邪魔な弓兵を討つ為戦場の奥。桜庭姉妹は敵の流れを堰き止める為激戦中で、ノアちゃんとミサキも同じ様な物。
唯一助けに行ける僕は助ける気がない。
つまり、キリサメとアガーラの一騎討ちだ。
これを突破されれば、足手纏い2人が殺され、次にノアちゃん達が狙われてやられ、大得物であるアランとマガネに手傷を負わせる。
結果的に5人がやられ、2人が負傷する大惨事である。
僕はドールをバッタバッタと薙ぎ倒し、時に少し休憩しながらキリサメを見守った。
キリサメは、イベントインベントリに銃をもう一丁持っている筈だが……アガーラと言う強敵を前にメニューを思考操作する余裕がない様子。
初期装備のナイフを持ち、それを主に防御に使って戦っていた。
噴き上がる闘気と闘気が衝突し、放たれる弾丸を避け時に弾き、振り下ろされる斬撃を弾いてカウンターを合わせる。
いつしか、キリサメの口端が持ち上がり始め、戦闘は更に激化していく。
……僕が思うに、キリサメならナイフが無くても剣を無手で払う事が出来る筈で、ナイフを持った手が防御にしか使われないから戦闘が長引いているのだと思う。
実際、アガーラが警戒しているのは、殺傷力のある銃と、体勢を崩しに掛かる蹴撃のみ。
果たして——
数度目に及ぶ衝突からの距離が離れた仕切り直し。
先までなら、弾丸を警戒するアガーラが即座に切りかかる所だが、そこでキリサメが動いた。
一瞬、爆発させる様にして魔力を全身から放出。それと同時に円舞の様に一回転。
その一瞬の動作の中で、2発の弾丸が放たれた。
初弾は足狙い。飛んで回避。
次弾は腰狙い。振り下ろし。
2発の弾丸を対処したアガーラのコアを正確に狙って、3発目、ナイフが飛来した。
アガーラはそれを切り上げで弾く。
そんなアガーラの腕に、キリサメの回し蹴りは直撃した。
過剰な闘気がオーラとなって噴き上がり、爆発的な威力を宿した回し蹴りは、アガーラの腕を粉々に粉砕、弾き飛ばされた剣は外壁の上の方に突き刺さった。
キリサメが地面に着地する頃には、追加で放たれた3発の弾丸がアガーラの足、腰、胴に着弾、大きく炎上した。
勝負あった……と油断したか、キリサメの胸部にアガーラの蹴りが直撃、キリサメは軽く吹き飛ばされ尻餅を付いた。
アガーラは自分が炎上するのも構わず、地面を蹴って回転しつつ宙を舞い、十分な闘気と遠心力を纏わせ、更に自分の重量まで乗せた回転蹴りを放った。
キリサメは咄嗟に弾丸を放ってアガーラの無防備なコアを粉砕、しかし一度放たれた蹴りも纏わせられた闘気も止まらない。
腕に魔力を集め、防御するキリサメに回転蹴りが直撃、ゴキリッと嫌な音を立ててキリサメの腕はへし折れ、勢いそのままに側頭部を打ち、首が折れたんじゃないかと言う勢いで吹っ飛んだ。
ドールは地面に落下して動かなくなり、キリサメも地面に転がって動かなくなり、そして勝者はいなくなったのであった。
いやはや、中々良い戦いだったのではないだろうか?
魔力を放つ事によってアガーラの魔力感知を妨害し、回転する事で体と服の裾で手元を隠し、強襲的弾丸で緊急回避を余儀なくさせ、秘密裏に貯めた闘気を全て銃ではなく足に纏わせた。
惜しむらくは油断した事か。ドールやゴーレムはコアを破壊しないとダメだとあれほど講義したのに。
しかし、アガーラが相手ではそれも仕方ないと言えた。
何せ、このアガーラと言う奴は、妙に人間らしい戦い方をしていたから。
緊急回避的動作こそドールのそれだったが、思考や技能が人のそれ。
純粋にドールの動きなら、弾を必死に避ける事はせず、寧ろ当たりつつ回避も防御も出来ない相手を斬り殺すぐらいの事はする物だ。
最後の一瞬の為のミスリードと判断するべきか、もしくはアガーラと言う存在が元は人間でドールの戦い方に慣れていなかったと判断するべきかは微妙な所である。
差し当たって、頭から血を流して気絶しているキリサメに魔力操作による念力で下級ポーションを飲ませて叩き起こし、残敵の掃討を開始した。




