第6話 信頼故に
第八位階下位
雑魚の殲滅作業を一時取りやめ、外壁沿いに集まる皆。
そう待つ事なく、それらはやってきた。
「ちっ……そう言う事もして来るのね」
「マジか……こりゃあ面倒いぞ」
ザッザッと足音だけが響く。
一部の子が青い顔でそれを見ている一方で、何名かは戦意を滾らせている。
「……多過ぎ」
——現れたのは軍勢。
外壁内のドール達が隊列を組み、最前列の盾持ちに合わせて、ゆっくりと進軍して来ている。
皆はそちらに目がいってる様だが……音の反響から鑑みるに、逆側からも来ているぞ。
十中八九、無貌のアガーラ等の隠しボスユニットには指揮能力があるのだろう。
さぁ、皆はどうするのかな?
そんな気持ちで見ていると、アマネが溜め息を吐いた。
「はぁ……まさかこんな手前で切り札を切らされるなんて」
「……仕方ない」
リナが慰める様に微笑み、その英断を支持する。
2人してチラッと僕の方を見るのは御愛嬌である。ニコリと微笑んで手を振ってあげた。何も考えてナイヨ。
方やはぁっと深く溜め息を吐き、方やニヘッと笑って手を振り返す、そして状況は動き出した。
◇
放たれたのは矢の雨。魔力で形成された無数の矢は一瞬の内に千のドールを貫き、その半分以上を機能停止に追い込む。
ふらりと立ちくらむリナを支え、次の刹那、放たれた1発の矢が大爆発した。
爆音が反響して響き渡り、大きなクレーターが生じる。
被害はざっとドール100。更に500近くが衝撃波で損壊し、付近の全ドールが転倒する。
嘘みたいな光景だが、それをやった当人アマネはリナよりも重傷で倒れ掛けたので、取り敢えず支える。
これで神器ではなくデチューンした武器なのだから、本人達の地力が透けて見えると言う物だ。
瞬間的に演算力を酷使し、魔力もすっからかんの2人は、暫くは戦えない。
身体強化を行使して2人を壁際に連れて行き、休ませる。
そうしてる内に、次の指揮官に内定していたキリサメが殲滅の指示を出し、前衛がドール達に襲い掛かった。
間も無くドール達は殲滅されるだろう。
と言う訳で、僕はキリサメをつんつんする。
「? ツキさん、何かありましたか?」
僕はニコリと微笑んで、反対側を指差した。
「? ……!?」
直ぐに気が付いたキリサメは、少し黙考し、僕を見詰めた。
「……ユキさん」
「ツキだけど」
「そ、そうでした……ツキさん、残敵の殲滅に加わってください。殲滅後直ぐに切り返して迎え撃ちます」
2人の護衛は自分で十分と判断した様だ。
「じゃあ行って来るよ」
「はい、お願いします!」
◇
残り千程度の残敵は、健常な物が数体程度だったのであっさりと殲滅し終わった。
僕等が戻らぬ内から、既に敵影は見えていた様だ。
戻る頃には、その全貌が見えていた。
「ふむ?」
その総数は、先程と同じ程度。僕が首を傾げたのは、その中に一体奇妙なのが混じっていたからだ。
猛獣使いエラン LV?
猛獣のゲッシュ LV?
猛獣使いエランは、他のドールと殆ど同じ姿をしているが、武器が杖なので他と違う事は一眼で分かる。
肝心の猛獣のゲッシュは……人の背丈の倍程はある大きなゴリラ型ドールだった。
レベルは多分30程度だと思うが、単純なパワーや保有魔力量は他と比べてかなり大きめ。
戦闘力と言う点では、レベル45のボスである鎧にも迫るだろう。
敵軍は戦場の惨状に気付いたか、少数を捻り潰す為の密集陣形を変更、およそ2000の兵士を分散配置した。
……どうやら、ボスユニットには視覚の様な器官があるらしい。
対する此方側は、足手纏い2つを背負って戦うのは難しいと判断した。
即ち、防御を固める安全策ではなく、個々の戦力を最大限活用する白兵戦だ。
キリサメは戦場を9つに分割した。
敵の後衛右、左、中央に、中、右、左、中央、前衛の右、左、中央だ。
その内、後衛はおよそ300程度の弓持ち。中800程度は槍と剣、前衛が同じく800程度の大剣と大盾。巨大ゴリラがいるのは右前である。
此方の配置は、先ずボスユニットである猛獣使いエランとその猛獣を倒す為、右前にマガネ、アラン、桜庭姉妹を送り出し、左前にミサキとノアちゃんを出した。
僕は前中を担当し、キリサメがその最終防衛ラインとなる。
……まぁ簡単に要約すると、敵の後衛を倒せる者がキリサメだけになってしまった為、防衛戦だと後衛の処理が追いつかない。
要保護対象がいる状況で防衛を頑張っても、敵にはやたらとパワーがありそうなゴリラがおり、それを真っ向から受け止められそうなのはマガネだけ。他の場所に突っ込まれたら止められないと判断した。
そう考えた結果が、弓兵を無力化ないし利用する為の白兵戦であり、真っ先にボスを潰す布陣である。
僕の役割は、キリサメと共に前中を足止めし、左右の殲滅が終わるのを待つ事。
さぁ、ここが正念場だよ。




