閑話 研究者達のクリプト・シーク
ユキも寝静まる夜の事。
場所はオムニメイガスに建設された秘密の研究施設。
黒霧指導の元作られたそれは、彼らの主人さえも知らぬ正に極秘施設である。
極秘の癖して資材の流れやら施設規模やらがやたらとデカいが、寛大にして偉大なる主人には隠し事してるから来ないで! と言ってあるので問題は無い。
それもこれも全て、黒霧への信頼の証であり、配下達の自立を微笑ましく見守る親心である。
そんな秘密の研究所では、寝る間がいらない研究者達により日々討論と実験検証が進められていた。
合成獣研究部長バーチス・アルディは休憩所でコーヒーを嗜みつつ、同胞にいつも通り意見を求めた。
「……最強の魔獣とは、どんな物だと思うかね?」
また始まったよ。と多くの者が思うかもしれない何十度目かの問いに、しかし研究バカ達は真面目に返答する。
ヤカルナ・プリエール曰く。
「当然、精霊種でしょう。信仰を宿す精霊帝の武威を見ましたか? あれほど柔軟性に富み、高い出力を発揮出来る物はそうそう有りません」
ねぇ、と同意を求める様に、精霊と同じ精神生命体である悪魔種の青年、テリオヌス・グラシアを見る。
「そうですな……精霊も捨て難いですが、やはり最強と言うならばゴーレムだと言えるでしょう。イェガ殿やアルフレア殿を見れば一目瞭然。持続力、耐久力何を取っても我等がエヴァ・ハルモニアに敵う者はありませんな」
何を隠そうテリオヌスことテリー、無機生命体の研究部長である。
瑣末な研究や基礎研究でこそ皆で協力しており、趣味で料理など嗜んでいるが、本業は無機生命体と魔術を組み合わせるゴーレムやその兵装をこそ研究している。
黒霧と共に日夜神血の実験検証をしており、エヴァ・ハルモニアの武装作成に一役買っているのであった。
精霊と傀儡。頂点と言うべき種族を上げる2人をあっけらかんと笑い飛ばす小さな影。
「はっ、ゴーレムだの精霊だの言ってるけどね、私から言わせて貰えば程度が低いわよ」
そう、極秘研究所のうら若き所長、ルカナント・グラシアである。
所長の権力を使い、魂の進化論研究を一人占めして悦に浸る傲慢なる若所長に、情報の開示と罷免を求める声は跡を絶たない。
しかしシャルロッテと黒霧の采配である為その声は心の声である。
「じゃあエヴァや精霊帝がユキに勝てる訳? 勝てないでしょ? つまりね、一番重要なのは魂の質なのよ」
やれやれと言いたげに肩を竦める若き所長に、微笑ましい気持ち半分とじゃあ情報開示しろよ半分で見るテリーとヤカルナ。
極論に迫る所長に対し、しかし話の提案者、バーチスは焦らない。
密かににやけながら、その条件を提示した。
「では、それらが霊身以下ならどうでしょう?」
「むむ」
「霊身以下ですか」
「それは生体限界越えれない場合と言う事ですかな?」
そうとなれば話は別。
そも、主人曰く、霊身まではどうとでもなる。しかし生体限界を超えて天身に至るのは誰でも出来る事ではないとの事。
言ってしまえば、生体限界は平均的限界という事だ。
その壁をどうとでもなると言い切るのは主人と一部の者くらいで、突出した個を用いない場合となると状況はまったく違う物となる。
そうなると、さて……。
「……ゴーレムですね」
「……ゴーレムか」
「……ゴーレムね」
皆が同じ結論に至る。
それと言うのも当然で、ゴーレムであれば組み立て方次第で大きな力を発揮し得るからだ。
そんな皆を前に、バーチスは我が意を得たりと笑った。
「これを見てもそう言えるかな?」
そう言って提示されたのは、ある1匹の魔物のデータだった。
「ふむ……」
「これは……」
「……ちょっと待ちなさいよ」
その資料を見て、ルカナは待ったを掛ける。
「何か異論でも?」
「異論でも? 異論しかないわよ! これとゴーレム、何が違うって言うのか詳しく説明して貰いたいわね」
そう言って突き返された資料に記されていたのは、クリカの配下、龍身巨人・オルケニウス。
龍の死体を用いたフレッシュゴーレムであった。
「まぁ落ち着け。注目すべきはここだ」
示されたのは、龍身巨人に複数ある龍玉。
「…………成る程、竜属性……低級でも強い信仰による高質の魔力。つまり竜が最強って言いたいのね? んんー、納得せざるを得ないわ……」
低レベルで肉体や魂を構築すると考えると、竜玉や竜素材はどうしても頭一つ抜きん出る。
つまりこの男が言いたいのは、低コストでハイリターンを齎す物は何か? と言う問いだったのだ。研究バカはコミュニケーションが取れない。
バーチスは自前のアイテムボックスから幾つかの資料を出して見せる。
「……獣身種統率計画、防衛戦略提案書?」
ああコレかと頷くヤカルナ。興味深いと覗き込むテリー。書類を持ってワナワナと震えるルカナ。
そしてルカナは吠えた。
「ちょっと! 私コレ聞いてないんだけどっ!! どう言う事よ黒霧!」
『言ってませんので』
「っ゛っ゛ーー!! むかつくぅぅーーっっ!!」
『低次の分野ですから所長の手を煩わせるまでもありません』
「むむむむ…………そう言う事にしといてあげるわ……」
こうして研究者達の夜は更けて行く。
刻一刻と、黒霧の手札を増やしながら。
「と言う訳で私はこの獅子竜を提案する」
「いえ、ここはエレメンタルやゴーストの性質を利用したゴーストドラゴンを作るべきでしょう。コストパフォーマンスを考えてください」
「いやいや、竜素材を用いる事が前提であればゴーレムが良いだろう。単体のコストは高くなるが出力は大幅に上がる」
「いや、ゴーレムはメンテナンスを必要とするだろう? ゴーストやエレメンタルは製造コストは安く済むが維持は高い筈だ。ここは自己管理の出来る合成獣が適切ではないか?」
「待て、それを言ったら合成獣も食料や大量の水等を必要とするだろうし、マテリアル依存の生命体故に休む場所が必要となるのではないか? であれば——」
白熱する論議の中、イマイチ納得の行っていなかったルカナがポツリ。
「……全部纏めれば良いじゃない、私関係ないけ——」
「「「それだ《です》!」」」
斯くして、竜装兵計画は始まった。
「竜素材が大量に必要になるが……ユキ様に掛け合うか?」
「そうしましょう。研究段階でも十分な数が必要ですからね」
「出来れば全身が欲しい所だが——」
それから暫く後、竜寝殿は落とされる。




