第28話 知恵、天を穿つ
第八位階下位
おおー。ワンダフルでアメージング。
ザイエが自力で神気操作を行なって見せた。
流石は賢者。数百年戦い続けただけある。
神気を滾らせ迫り来る蜃。迎え撃たんと前に出た僕を追い越し、ザイエは拳を振るった。
ただ破壊のみに特化したザイエの拳と、強者特有の何かに特化しないフィジカルブーストの衝突はしかし、拮抗した。
蜃がそれだけ敵を喰らい続けて来た証明だ。
そこにあったのは……単純なエネルギーの差、即ち人と竜の差であり、神気操作の経験値の差であり、そしてただのレベル差であった。
しかし、それは長く続かない。
——閃光が駆け抜けた。
一筋の光。星の墜落にも等しい彗星の一矢。
棚引き振り撒かれる残滓には、確かな神気の気配があった。
先に連発した事で大きく消耗していた筈なのに、エルミェージュはザイエを見て神気に覚醒したのだ。
……と言うか皆、多分神気操作自体は出来るんだよね。ただそれを実際にやった経験がないだけで、やり方さえ分かれば後は容易い。
伊達や酔狂で賢者をやっている訳ではないのだ。
賢者の3人はひたすらに魔導を極めんとしているし、聖賢を名乗るエルミェージュも弓一本でひたすらその真理を追究していたのだから。
放たれた彗星は蜃の龍角を穿ち、その頭蓋を撃ち貫いて直進、長い体を何度か貫通し、椒図の結界に阻まれ爆散した。
僅かに蜃の体が傾ぎ、その機を逃さずザイエは蜃の頭部を押さえ付ける様に殴り付け、地面に叩きつける。
追撃はエイジュ。
地面を揺らしながら落下した蜃へ杖を振るい、神気宿す植物魔法を行使、武器の魂はそれに応え、急激に成長して蜃を縛り上げた。
ミシミシと歪な音が鳴り、蜃の白鱗が砕け散る。
——悲鳴の様な咆哮が響いた。
蜃は更に幻想を行使し、己の力を一気に跳ね上がらせる。
エイジュは更に神気を引き出し、割れ千切れる木々を強化する。
ザイエは動けない蜃の頭部を破壊せんと拳を振るい、申し訳程度に神気を宿したエルミェージュの矢が蜃の鱗を貫く。
満を辞して、爺様は動いた。
爺様は金の神の本を託され、その研究をしていた。
深く、深く深淵を覗き、その力の構造、性質、秘奥を詳らかにせんとして来た。
だからだろう。爺様は他よりも一段と高質の神気を引き出して見せた。
構築されたのは、ただの球体。
しかしてそれは神代の壁にすら傷を付け兼ねない暴力の塊。
飛来するそれを流石に不味いと見てか、蜃は必死に拘束から逃れようと暴れ狂う。
迷宮化した大地を砕き、神気纏う木々を粉砕し、塞がれた口端からブレスを零す。
しかし、賢者達も負けてはいない。
木々は砕かれる毎に覆い潰す様に伸び、ザイエの拳がブレスを阻害する。
斯くして魔球は着弾し、鱗は砕け、血肉を抉り、蜃の頭部は爆散した。
蜃は頭が消し飛んだ程度で死ぬ程柔では無いが、敵対神気を排除するのには相応の消耗がある。
体をビクビクと痙攣させた蜃は、暫くして動かなくなった。
ガクッと倒れ込みそうになったエルミェージュをエイジュが支え……切れずに2人とも倒れ、ザイエがどかりと座り込む。爺様は杖を支えに座り込んだ。
「はぁぁーー……勝ったぁ……!」
「……ぶい」
「……エル、わざと乗ってませんか?」
「はぁ、ふぅ……流石に疲れたね……」
「お疲れ様」
神気まみれの体を捨て、魂だけで動き出そうとした蜃をキュッと締め、暴れようとするそれを何度かはたき回して黙らせてから体に戻し、皆を労った。
彼等は死んだ経験が無いからか、そこら辺少し詰めが甘い。
自分と同格やそれ以上との戦闘経験もそうないだろう。
あったとしても、おそらくは賢神グリエルとの試合くらいだ。
最近だとその賢神グリエルの死霊と戦った奴で、それ以外は……竜寝殿の竜とちょっと戦ったりした程度かな?
まぁ、死んだら終わりなのだから仕方ない。
彼等はまるで眠っていた種が芽吹く様に、これからどんどん強くなっていくだろうね。
さて、と。
「ウルルアターック!」
僕がウルルを投げ、ウルルが僕の手を蹴って、彗星に数倍する閃光となったウルルが椒図の結界を紙の様に粉砕、勢いそのままウルルパンチが椒図を叩き潰した。
綺麗な竜鱗で覆われた無傷の二枚貝はものの見事に砕け散り、中身が辺りに飛び散った。
コロコロと転がり出て来たのは、とても立派な青白い竜真珠。
大きさは勿論の事、何より色合いが素晴らしい。
一目で僕が気に入った事に気付いたウルルは、直ぐに真珠を咥えて戻ってきた。
「よしよーし」
「わふぅ」
ふむふむ、魔石や竜玉に匹敵する高品質な代物だが、主な使い方は単純な魔力タンクか。
蜃と似通った気を持つ事から、蜃の進化前は椒図だったのだろうが……魔石と亜竜玉に加えてこの魔力タンクを持っていた事も飛躍の要因なのだろう。
やはり、魔力を大量に保持し、それを自在に操れる事が、そのまま演算力の増大や単純なレベル上げの効率向上に繋がり、より早く次の領域に進めると言う事か。
ともあれ、これでオリ白蛇君の最後の砦も失われた。
後はオリ白蛇君を残すのみ。
チロチロと頬を舐める白蛇君を撫で、僕は微笑む。
さぁ、一千年だ。
緑の瞳の開眼者。遥かな悠久の時の果て。
君は何処まで強くなった?
「……俺、疲れてんのかなぁ?」
「…………私は寝ている……?」
「……えーと、今何が……?」
「……流石ユキだね」




