第8話 最高の食材
第四位階上位
最上階に着くと、早速改変された上に破壊された魔法陣の解析と修復を始めた。
壊れている所は剣が突き刺さっていた所だけなので、修復には錬金術の錬成で事足りた。
修復した魔法陣を解析すると、地脈から魔力を吸い上げる難解な術式、結界を張る場所の指定、魔力を供給するライン。
結界の方は、基本の物理結界に加え、魔法や魔力の流れを防ぐ魔法結界、認識を阻害する幻想結界、更に、周囲の不浄を集める闇魔術まで施されていた。
変えられた部分はもはや原型がわからないレベルだったので、錬成で全て潰して知っている結界に書き換えた。
魔法陣は一応画像で保存し、魔法ファイルに入れておいた。
知っている結界とは地下墓地の最奥部にあった、弓の結界と接続されていた結界の魔法陣だ。
あれは既に意味をなさない物になっていたが、不浄を中へ入れない効果と、浄化する効果が重ねられた強力な対不浄結界だった。
敵は言うなれば、それすらも乗り越える程の強力な不浄だったと言う事だ。
錬成で画像通りの魔法陣を描き、うまく接続させた。
起動には転移門と同じ様に呼び水となる魔力が必要なので、以前来た時に取っておいた塔の地下にあった一抱えもある魔結晶をセット、起動した。
魔法陣が光り輝き、地脈から魔力を吸い上げる。
夕陽に照らされる墓地を見ると暫く後に瘴気が徐々に薄くなって行くのが見えた。成功だ。
一応、最後の記念に塔の上から写真を撮っておいた。タイトルは『逢魔が時に沈む街』、記念ファイルに投入しておく。
◇
階段を降りるとセバスさんがいた場所に一人のメイドが立っていた。
発散される魔力の気配から、セバスさんとほぼ同格の人物と見て間違いないだろう。
そんなメイドの横には、僕の身長より大きな壺が置かれている。
僕よりほんの少し身長が高い。青っぽい髪を肩口で切り揃えたメイドさんは、セバスさんと同じ赤い瞳を眠たそうに細めた目で僕を見詰めると——跪いた。
この礼には見覚えがある。かなり古い絵本で描かれていた、騎士が王に捧げる最大の忠義の証だ。
絵本ではそれについて詳しく触れる事は無かったが、見た通りなので間違いない。
「じゅるり……」
「え?」
「貴女がユキ様ですね、お話しはセバスチャンより聞いています」
「あ、ああ、そう」
何か今、涎を啜る様な音が聞こえたんだけど……。
「ユキ様、失礼ですが説得材料としてこの壺一杯に血を分けて頂きたく」
「いや無理」
完全に殺しに掛かっているメイドさんの要求を突っぱねる。
あの壺を一杯にするには、明らかに僕5人以上から血を絞り取る必要があるだろう。正しく雑巾を絞る様に。
「そんな殺生な、この壺一杯だけで良いんです!」
「いや、物理的に無理があるよ」
「……それではこっちの壺一杯ではどうでしょうか?」
そう言ってメイドさんが取り出したのは、大きな壺の半分くらいの壺。
それでも十分大きい。
「いや、死んじゃうから」
「じゅるり……で、ではこの壺で如何でしょうか? これ以上は私も譲れません」
メイドさんが取り出したのは更に半分程の小さな壺、それでも僕の頭くらいの大きさはある。
譲れないとか、どう考えても殺しに掛かって来ている。眠そうな目が血走ってるし。
「……無理だから」
「…………では、仕方ありません……ユキ様から直接徴収するしかありませんね……ふ、ふふふ、大丈夫、痛いのは最初だけです、直ぐに気持ち良くなって来まふぎゃ!?」
やばい事を言いながら血走った目で近付いて来たメイドさんは、唐突にその影から突き出された鋭いアッパーを受けて宙に舞った。
メイドさんの形をした影が地面から立ち上がり、倒れて動かなくなったそれを引きずって館の前に行くと、僕に一礼してメイドさん共々消えた。
「……一体なんだったんだろうね」
「……ワウ」
ずっと無言だった白雪は、血のくだりからずっと僕に密着している。
どうやらバレない様に少しずつ僕のオドを吸収している様だが……そんなに僕は美味しいのだろうか?
◇
熊くん達を送還させ、ウルルに乗って移動する。
夜戦に備えてそろそろ皆とログアウトした方が良いので、全員にメールもしておくのも忘れない。
時間だけ見ると随分と早い様に思うがアンデットを相手にしているのだ。
タクとアランはともかく、セイトや女子組は夕食に備えて早めに切り上げた方が良いだろう。
遺跡の入り口に着いたが、まだ皆は来ていない。
熊達を召喚し、のんびり待つ事にした。




