第18話 灼熱の激戦場
第七位階上位
外敵をある程度駆除し、十分に心をへし折った所で、後の処理を黒霧殿に任せた。
十分な余力があるので浮遊島の内部へと乗り込む。
森を越え、黒に染まる湖を見下ろし、荒野で喚く2人の戦線を心中で応援し、砂と風を操る竜と激戦を繰り広げる2人の様子を少し見て、火山へ到達した。
そこにいたのは、今までの竜達と比較しても明らかに巨大な龍。そしてそれに付き従う想定レベル500を越える複数体の強者。
……此方も相応の戦力を用意せねばなるまい。
敵はそれだけ強大だ。
此方の戦力を把握する。
ウルル殿は……巨大な人工物の方へ行ったか。内部の気が掴めぬ故どうなっているか分からぬが、ウルル殿であれば心配等必要あるまい。
メロットは……後方にいるな。大方必要十分な狩りは終えたと判断して雑兵狩りをしているのだろう。彼女らしい。
サンディアは…………何処へ消えた? あの娘の事は分からぬな。死にはせぬだろうが……。
ネロにドラミール殿、ルクス殿もおらぬ……迷宮に潜ったか?
ミスティ、ニュイゼ、リオン、アルフレア殿は大事をとって撤退。
ペルセポネ、桃花、ツァールム、レイエル、ミュリアの5名は今も尚戦っている。
此方に来れそうなのは、白雪と氷白殿だけ……まぁ、十分である。
同胞が駆け付ける前に終わらせるつもりで行こうか。
◇◆◇
三頭竜は咆哮する。
己の存在を誇示する様に。
岩漿に揺蕩う龍帝、緋蟒竜・ナオ・ユーロンは空を見上げた。
口腔に宿るは灼熱の炎。
放たれたのは牽制の一閃。
紅蓮の閃光は空を貫き、中空で爆発した。
——それは開戦を告げる音。
三頭竜は水を操り、灼熱の大地へ雨を降らせて、ナオ・ユーロンへ接近する。
それを迎撃せんと、地上のあちこちから、ナオ・ユーロンの眷属達が灼熱球を放ち、隙を狙う様に緋蟒竜・ナオ・ユーロンの閃光が弾ける。
三頭竜、ディルヴァは緋蟒竜の攻撃を避け、敢えて雑兵の灼熱球を受けた。
——飛び散る鮮血。
あまりに脆い。何か裏がある。歴戦の猛者たる緋蟒竜がそう思考した刹那、地上で悲鳴があがる。
——眷属達が、何かに襲われている。
そこにいたのは、三頭竜と同じ気を持つ岩漿の龍。
三頭竜は確かにダメージを与えたにも関わらず、次の瞬間には全ての傷が消えて無くなり、何故か魔力が減少していない。
思考が為に意識を外したのは刹那の一瞬。
異様な気配を感じ見渡した空には——
——覆い尽くさんばかりの魔法があった。
斯くして嵐は吹き荒れる。
使い切った蠱毒の息吹の生命貯蔵庫を閉じ、ディルヴァは地上を見下ろす。
魔法の半分は迎撃されたが、多くの竜達にダメージを与えられた。
地上に満ちるディルヴァの魔力は、地上にいる僅かな手勢を強化し、緋蟒竜の眷属へ猛威を振るう。
——だが、まだ足りない。
ディルヴァは太古の鼓動の生命貯蔵庫を開いた。
全ての生命半物質を放出し、もう一つの生命貯蔵庫から日々溜め込んでいた己の血を取り出し混ぜ込む。
現れたのは、数百の竜の軍勢。
竜軍は混乱する地上へ襲撃を仕掛ける。
——これで場は整った。
ディルヴァは愚かではない。
永き時の中で築かれた緋蟒竜の軍勢は強靭。今生まれたばかりの己の軍勢では大きなダメージとなっても滅ぼし尽くす程の力はない。
——故にこれは時間稼ぎ。
ディルヴァが緋蟒竜を倒すまでの。
万が一力及ばなかったとしても、竜軍が狩られ尽くす前に白雪と氷白がやって来る。
2人がやられる前に、桃花とツァールムがやって来る。
最初の2人が来るまで時間を稼げれば良い。
——三頭竜は咆哮する。
標的へその六邪眼を向けながら。
◇
灼熱の大地に冷たい風が吹く。
降り注ぐ魔術、迸る赤き閃光、舞い踊る竜と龍の群れ。
2人の援軍が冷気を放ち、環境の侵食を始めた。
一方竜帝達の戦場は激しさを増していた。
放たれるのは万象焼き払う閃光、大気を揺らす爆炎、雨霰と飛び交う火槍。
対するは演算力を行使した緻密な回避、操魔による誘導、誘爆、そして反撃。
天凛持つ主に鍛え上げられた技量を遺憾なく発揮し、三頭竜は膨大な魔力に対抗していた。
遠距離戦だけでは分が悪いと判断したナオ・ユーロンはついに重い腰を上げる。
長い体を撓ならせ、溶岩を撒き散らし、その鋭利な尾を振るう。
変わらぬ砲火の中迫る巨大な尾。
ディルヴァはそれを回避するも、緋蟒竜の追撃は止まらない。
当たれば大ダメージ必至の一撃が、風を切り自由自在に振るわれる。
衝撃波が地上を駆け抜け、溶岩が島中へ飛び散る。
緋蟒竜の猛威をディルヴァは巧みに避けるも、竜帝の猛撃を遂に避け切れず、爆炎や閃光を掠めて血を撒き散らした。
このままではディルヴァの生命貯蔵庫が空になるか緋蟒竜の魔力が尽きるかの泥試合。
それまでに同胞が援軍に現れ、緋蟒竜と言う強敵は無意義に死を迎えるだろう。
ディルヴァは選択した——
——己が手で緋蟒竜を仕留める事を。
刹那、尾撃がディルヴァを捕らえた。
爆散する様に血が飛び散り、ディルヴァは高速で地面へ墜落。
勢いそのまま進路を変え、微かに油断する緋蟒竜へ瞬く間に接近、その頭部へ掴み掛かった。
緋蟒竜は全身が武器。
牙や角は勿論の事、口腔からはブレス、瞳は邪眼、鱗は強固であり長大な体は筋肉の塊。
その重要部位は、最も強固な頭部近傍に集中していた。
ディルヴァに接近を許した緋蟒竜は、咄嗟に竜属性を牙に宿す。
灼熱の炎を吐きながらその牙を突き立てんと顎門を開いた。
ディルヴァはそれを真正面から浴び、敢えて口腔へ飛び込む。
灼熱の炎に焼かれながら、噛み砕かんとする緋蟒竜の顎門を支え……左右の首が動き出す。
——それは発生して間もない頃、彼等の神によって与えられた大いなる力。
緋蟒竜と比べれば小さな顎門が開かれる。
口腔に宿るは練り上げられた神気。
『ディラン、ディラナが神権を行使しました。只今より風化と爆発の神権は使用不可となります』
緋蟒竜は察知した。先程までとは比べ物にならない脅威が、己の口内に生じた事を。
『……ユーロンの首長、ナオが願う。神獣よ、照覧あれ……!』
膨れ上がる気、しかして未だ足りず。
緋蟒竜は死を予見しながらも、口腔へ神気を集中させ——
『頽廃世界!』
『崩壊世界!』
『……緋滅爆練砲……!』
——そしてブレスは放たれた。
激しい衝突。漏れ出るエネルギーの奔流。
緋蟒竜は死を察し、己へ捧げられた凡ゆる信仰を掻き集め、あまりに絶大なそれへ抗う。
しかし、拮抗は長くは続かない。
『ディルヴァが神権を行使しました。只今より闇の神権は使用不可となります』
斯くて——終の火は放たれる。
『『終末世界!!』』
爆発する光の中、ディルヴァは思った。
——そんな技名が付いていたのか。と。




