第7話 闇と血の種族
第四位階上位
「ふむ、吸血鬼狩りの方々では無さそうですな」
階段を登りきった先には、一人の男が立っていた。
前に十字騎士巨像が居たと思われる台座の上には、小さくて立派な御屋敷が建っている。
僕の身長よりちょっと大きいくらいだ。
……ドールハウスかな?
それ以外にこの階層に不自然な物は無い。
その男、改めて見てみると、中々良い感じのダンディーなおじさまであった。
白髪にお髭、ピシッと着込んだ執事服。
完璧な執事がそこに居た。
「見目麗しい御嬢様方、こんな場所に何の用ですかな?」
「ちょっと上の階に用事があってね、そちらこそこんな所に何の用かな?」
一応会話が出来る様なので話しをしておく、争わなくても良いならそれに越した事は無い。
「実は我々、とあるお方から逃亡中の身でしてな……失礼ですがお怪我などは?」
「いや、してないけど……あれは君のお友達かい? 普通にぶち殺してしまったのだが……」
「いえ、構いませんよ。幾らでも作れます故」
「そう」
どうやら、配下を生産出来るタイプの魔物らしい。
次いで、僕は屋敷に目を向ける。
「ところで……その屋敷の中に幾つか強い気配を感じるのだけど……」
「あぁ、御心配には及びません、我ら穏健派は襲われでもしない限り人へ危害を加える事はありませんので」
「そういうことでは無くて……」
「ふむ? ではどの様な御用件でしょうか?」
穏健派がいる、と言う事は過激派もいると言う事だろう、そして何より——
「これだけの戦力があって尚、逃げなければならないのかい?」
——重要なのはそれである。
感じられる魔力の気配からこの小さな屋敷の中には、執事のおじさまと同格が一人、格上が一人、格下が数十名程だ。
この規模は今の僕の戦力を越えている。
カルキノスとノーライフを同時発動させて漸く勝負になるレベルだろう。
執事さんは僕の質問に少し驚いた様な所作を見せた。
「……えぇ、情けない話ですが……我々だけではあれらに勝てませぬ故、隙をついて逃げ出すので精一杯、とても戦いにはなりませぬな」
「そう、か」
戦いにならないと言うよりは、隙をついて逃げる事が出来るレベルだと考えるべきだろう。
どのみち大戦力である事は間違いない。
「ところで話は変わるけど、僕の配下にならない?」
もちろん考え無しに言っている訳では無い、味方になれば万々歳で、戦いを望まないなら僕の拠点に住んで貰えば良い。
「ふむ……貴方はマレビト殿ですかな?」
執事さんは僕の言葉を聞いて、しばらく僕を見つめると、唐突にそう聞いて来た。
どの様な判断基準があるのか非常に気になるが、今は会話を進めよう。
「世間一般からはそう言われているよ」
「そうでしたか」
執事さんは、まるで孫を見るような目で僕を見た。
その姿は嬉しそうで……しかしどこか悲しげで……。
「……申し訳ありませんが、私の独断で行動出来る範囲を逸脱してしまいます故……皆が貴女様の元へ行くと決めた時は此方から伺わせて頂きます」
「そっか、期待しておくよ」
何やら好々爺な笑顔でそう言う執事のおじさま。
期待して待っているとしよう。
「ところで、見た所貴女様はテイマーかサモナーの御様子、配下に蝙蝠などいらっしゃいますかな?」
さぁ行こうかなっと足を踏み出そうとした所で、執事さんからストップをかけられた。
「うん、いるよ? 今は連れて無いけど……」
「ではこれを」
そう言って執事さんは、どこからとも無く赤い液体が入った小瓶を取り出した。
受け取って良く見ると、瓶の蓋は紙製だが、簡単な封印がかけられている様だ。
「これは?」
「それはヴァンパイアの血、配下の蝙蝠に飲ませれば我々と同じ進化の道へ進めるでしょう」
どうやら進化用アイテムらしい。
そして、やはり執事のおじさまはヴァンパイアなのか。
「ありがたく頂いておくよ、これを飲ませればおじ様みたいに強そうなヴァンパイアになるのかな?」
「おじ様などと、どうぞ私の事はセバスチャンとお呼びください」
そう言うとセバスチャンは優雅に一礼して見せた。
蝙蝠種についての説明もしてもらった。
何でも、通常は蝙蝠種がヴァンパイアに進化するには、相当な時間と研鑽による独自進化か、ヴァンパイアの力を受けてヴァンパイアに変質するか、のどちらからしい。
しかし、マレビトがいるとそうでも無いらしく、ヴァンパイア種の血とマレビトの恩恵とやらがあれば容易くヴァンパイアに進化出来るのだとか。
蝙蝠種の中でヴァンパイアに進化出来る主な種は、操血種、操影種、隠密種、闇種、の四種類。
蝙蝠はベースの状態から闇種に分類され、特殊な属性進化をしない限りはこの四種に分類されるらしい。
勿論例外は存在し、氷属性を操るヴァンパイアや、炎属性を操るヴァンパイアもいるらしい。
過去に存在した一例としては、雷属性を操るヴァンパイアが、生け贄という野蛮な風習がある村を消し飛ばした事があるのだとか。
いやぁ、あの時は私も若かった。
とか言って笑っていたが、一例って……まぁ、そう言う事もあるのだろう。
僕の使役する蝙蝠種はハイブラッディーバット、操血種に分類される。
これにヴァンパイアの血を飲ませれば、操血能力に秀でたヴァンパイアに進化出来るらしい。
それらの話を聞いた後、最後に血を分けて貰えないか、と言われたので、快く応える事にした。
「ではこの小瓶一杯に分けて頂ければ」
「うん……どうやって?」
小瓶と言っても親指程の大きさがある、これに血を入れるとなるとそれなりに深い傷をつけなければなるまい。
すると、セバスさんは指先に少しだけ傷をつける様に言った。
不思議に思いつつも、ナイフを抜いて指に浅い傷をつけ、小瓶の上にさし向ける。
「それでは失礼します」
「にゅわ!?」
セバスさんが僕の指の上に手を持ってくると、何やら不可思議な感覚が訪れ、指先の小さな傷から血がポタポタと溢れて来たでは無いか。
「セバスさんって、雷のヴァンパイアじゃ無いの?」
「ヴァンパイアであれば操血と操影は誰にでも使えますからな。攻撃に転用出来る様になるには時間が掛かりますが、これくらいの事なら誰にでも可能です」
「そーうなんだー」
微妙に気持ち良い様な気持ち悪い様な不思議な感覚が少々続き、小瓶が満たされた。
すると、またもやどこからとも無く取り出された紙を貼り、封印が施される。
「ところで、その血は何に使うのかな?」
「説得材料に使わせて頂きます」
至極当然な疑問を投げ掛けると、セバスさんはそう答えた。
何でも僕の血は凄く美味しそうに見えるらしい。
これを飲ませれば、全てを捨ててでも僕の下僕に成りたいと言い出すヴァンパイアもいるかもしれない一品なのだとか。
僕の血は違法ドラックか何かか。
何とも言えない恥ずかしさもあったが思えば白雪にオドを吸われるのと殆ど同じ事なので、うん、気にならないね。
「それじゃあこれで、失礼するよ」
「はい、それでは私は早速皆の説得に移らせて頂きます」
「うん、期待しておく」
セバスさんは僕等が階段を登って行くのを見届けて、屋敷の前で唐突に消えた。
謎だ。




