第12話 曇りのち、雪眠る
第七位階上位
あちこちで天地を砕く様な激闘が繰り広げられている。
雷の竜と風の竜はサンディアの壮絶な血操術と剣術に防戦一方。
白雪と氷白は氷と水の鳥竜を追い詰め、溶岩を操る竜へネロが牙を向き、爪を突き立てる。
次々と敵の援軍が来る中、同胞達は常に優勢だ。
その中にあって、ミスティは劣勢だった。
やはり雲を操る竜と霧の化身、それも敵の竜は格上とあっては、劣勢は免れ得ない。
それでも主がミスティとこの竜を戦わせたのは、即ちその竜を越え強くなれと仰せである事に他ならない。
であれば我のやるべき事はただ一つ。
——ミスティが精魂尽き果てるまで戦わせ続ける。
ミスティの雲と雲竜の雲が空域を展開し、その狭間で凄まじい主導権の奪い合いが起きている。
その一方で、雲竜が雲で竜爪や顎門を形成、ミスティの雲を散らす様に攻撃が降り注ぐ。
ミスティはそれに対抗し、次々と質の劣る牙や爪を生成して竜の攻撃を防ぎ、砕く。
ミスティも敵の竜も、幻覚系、幻想系の能力の持ち主だ。
ミスティの霧は幻覚と現実を織り交ぜ敵を翻弄する。竜の雲も同じ理が働いているのが見て取れる。
雲の結界は幻想の理により、内部の気配をほぼ完璧に遮断していた。
もはや無意味と悟ってかその雲は晴れつつあるが。
ミスティが幻覚を看破し幻覚をぶつけ、竜が実像を看破し実像をぶつける。
雲の生成、幻覚の看破、真実の創造、魔力総量、全てにおいてミスティが劣っている。
補助するのは雲の生成と魔力の供給、侵食の妨害と援護のみ。
例えミスティが敗れようとも、十分な経験となる事だろう。
暫しの観察を得て、ふとある事に気付いた。
竜の気配と末端の雲の気配、そして離れ雲の気配。
あまりに同化していて分かり辛いが、2種類の魔力を感じる。
そうと認識しながら見ると、雲の動きに2つ以上の意思の存在を感じた。
これは……まさか、雲の精霊か……? いや、しかし主や黒霧からそれらしき情報は届いていない。となれば……何らかの武具か?
武具であるならありえない事はない。
意思持つ武具と生者の違いは意思を完全に閉ざす事が出来るか否かだと聞いている。
だが、奴が何かしらの武装をしている様にも見えぬ。
主様がする様に目を凝らし、より良く竜の深淵を覗き込む。
もっと深く、より緻密に、魂という複雑なエネルギー構造体を看破する。
——……見つけた。
混じり合い、完全に同化している魂魄の真奥。
複数伸びて絡まり合うスキルの大樹が、2つの根源に根ざしている事を。
……そうか、奴は……二重魂魄型の魂を持っているのか。
ミスティだけで勝てぬのも道理。
奴の真奥にはミスティの根源とほぼ同一の存在がおり、奴に力を与えている。
細部は違えど、まるで鏡写しの様な性質。ミスティには兄妹がいたのか?
なんにせよ、敵がより強大であるならもう少し手を貸すとしよう。
ちょうど良く相性の良い者も送られて来た。黒霧殿の目論見通りと言う事だろう。
『……レイエル』
「ケロ!? な、なにケロ?」
『ミスティ……共闘』
「わ、わかったケロ」
ふむ……何やらレイエルが怯えている様に見えるが……まぁ良い、我は邪魔者の排除に注力するとしようか。
◇◆◇
アルフが火の竜帝を討ち、サンディアが風と雷の竜を落とした。
ネロも巨大亀を倒したし、雲の竜との激闘は終盤です。
そろそろ私も本気を出すとしましょう。
「シアチ、行きますよ」
『是。氷神装を展開する』
白雪が舞い、変幻自在の刃は複数の板と槍に変形した。
攻防一体の武装だ。
氷縛壁は時に攻撃を防ぎ、時に進路を妨害し、必要とあらば刃となって敵を斬る。
凍結杭は細かい操作で敵の弱点を撃ち、攻撃の起点となる。
迸る吹雪が周囲の水泡を凍てつかせ、氷結のブレスを弾き返した。
「スカジ、行くわよ!」
『はい! 氷神装、展開!』
白雪も氷神装を纏った。
あちこちから飛来する様々な攻撃も意味をなさなさい。
今、この場は私達の独壇場。
精霊である私達が何度も気絶する様な過酷な訓練を経て身に付けた仙気は、竜の爪撃を容易く弾き、操魔力は竜属性の残滓を分解して私達の力とする。
牽制の氷結光はその他の竜達を一息に凍てつかせ、氷の刃は竜の強固な鱗を容易く貫き切り裂いた。
白雪を狙って放たれた氷のブレス。私ならば多少手間取るそれも、白雪にとっては攻撃ですらない。
浴びると同時に吸収し、倍の氷礫が氷鵬竜を襲う。
体勢を崩し後退しようとするそれへ追撃する。
「凍りつきなさい」
『是、凍氷封印を発動する』
氷縛壁が退路を妨害し、動きの鈍る氷鵬竜を取り囲む。
——放たれたのは氷の鎖。
鎖は氷鵬竜に纏わりつき、縛り上げる。
『ぐっ……精霊よっ、何故私達を襲うのです!?』
いよいよ抵抗出来なくなった様ですね。ご愁傷様です。
ユキに目を付けられたのが運の尽きでしたね。
私は哀れな竜、近い未来の同胞に苦笑いを浮かべる。
「直ぐに分かりますよ」
氷縛壁を多重に展開し、竜にしては小柄な氷鵬竜を、形成した正十二面体の結界に閉じ込める。
二十の頂点には凍結杭が埋め込み、結界内に練り上げた氷結神気を送り込む。
「今はそう……ただゆっくりとお眠りなさい」
『馬鹿な……私が、こお、る……? ……あ、ぁ、に……む…………』
今際の際に思うのが妹の事ですか。敵ながら天晴れ、味方となり肩を並べるのが楽しみですね。




