第9話 神獣の御座所
第八位階下位
僕が適切な指導をすれば、剣聖竜・ヴァルトラは一晩で天帝竜に匹敵するレベル限界値を得られるだろう。
凄まじいポテンシャルである。
アレはおそらく、何某かの名のある人の英雄が転生した姿なのだろう。
最初から竜と言う強大な力を持って生を受けたなら、精々刃竜止まりだ。
竜が剣を振るう事に執着する事でしか、剣聖竜は生まれない。
アレ程のレベルとなると、生前はさぞ高名な剣士、尋常ならざる力を持つ剣士だった筈で、そんな人物は時代の何処に生まれようとも必ず名は残る。
書物が遺失したとしても、爺様やセバスチャンの、もしくは1,000年前を生きた強者達の記憶に必ず残っている筈で、僕が知らないのはちとおかしい。
さて、じゃあ名のある剣士って誰だ?
一番強そうなのは、例の五天帝が一人、天剣カルカラ。
性別は男だと聞いているが、どの様な活躍を残したかは知らない。僕の知る限りでは間違いなく死んでいるので、何処かしらに転生している可能性は高い。
あと死んでそうなのは……ナーヤとか? ヴァルハラの東家只人もあり得るな。
捕まえて調べるのが楽しみである。
ニコニコと算盤を叩きながら歩いていると、間もなく最深部に到着した。
竜の巣と言うにはやや広く、飛び回るには狭い白壁の広間。
外と同様に真っ白な筈のその広間には、しかし七色の輝きがあった。
虹晶竜・シャクナ・エリクレア・ベルツェリア LV717MAX
レインボークリスタルドラゴン。
レベルこそヴィーナに劣るものの、総合エネルギー量はヴィーナの5倍近い。
これでもかと装備と費用を注ぎ込んでいるイェガにも匹敵する程だ。
竜の形をした結晶は、アダマンタイトをも凌ぐ硬属性の神気を宿し、鉱物系の竜種としては順当な、硬さ、耐久力に秀でている。
良く澄んだ結晶体は純粋なエネルギーの塊で、澄んでいるとは言え七色入り組み高純度エネルギーに覆われている為、その内部は良く見えない。
しかし、僕の目は確かに捉えていた。
結晶深部にいる——仔竜を。
それを認識すると共に、もう一つ気付いた事がある。
この広間には虹晶竜の他にも無数の結晶があった。
一つは外で見慣れた紫の巨大な結晶。
相変わらず内部が酷く澱んで見通せず、巨大な結晶は外へ向かって生えている。
もう一つは、複数の一抱えもある大きな紫の結晶体。
おそらくその結晶は澱んだ紫の結晶と同じ性質の物だが、此方は澱みの原因となる高純度魔力の錯綜が無い、もしくは少ない為良く見通すことが出来た。
その結晶内部には一つの命があった。
壁際に丁寧に安置された複数の結晶。
幾つも並ぶそれらの中にあった物は——人の子。
見た所新生児。生まれて間もない赤子だ。
大人ならともかく、何故竜の巣窟に人の赤子が? それも結晶に包まれた状態で。
幸にして、中と外を遮断する作りの結晶に包まれている為、その魂は結晶内部に囚われたまま深い眠りについている。
疑問は多分にあるが、この紫の結晶について詳しく知っていそうな奴が目の前にいるので、じっくり調べさせて貰おう。
広間に足を踏み入れた瞬間、虹晶竜がもぞりと動いた。
『……見えざる者、何用を持って我が領域を犯すか』
「……ふむ」
……まさか。なんで見つかった? 剣聖竜は鋭い戦闘センスで気付けた物だと納得が行くが、この結晶竜が僕に気付けるプロセスが分からない。
なんらかの知覚系能力を極めた様な性質も感じないし、それらを隠匿出来る程の知覚遮断系の性質を同時に備えているとも思えない。
そんな事が出来るなら、レベル700そこらで止まる事などありえない。
だとすると、考えられる事は……3つ。
状況を読み、このタイミングで僕が来ると予測した、知識と知能の賜物。
それから派生する、所謂直感による確信から生じた偶然の様な必然。
そして——
『っ!?』
僕が姿を現した事で、竜結晶こそ動かなかったものの、その内部に潜む仔竜が『え? マジ?』と言わんばかりに目を見開いた。
これで予測や直感の線はほぼ無くなった。
となると残るは3つ目——誰かの補助を受けている可能性が高い。
何らかの、もとい瞳神の加護か、或いは——
目を凝らし、辺りを良く見て……気付いた。——もう1匹いる事に。
鏡界竜・シテン・フラトリア LV782MAX
種族は鏡界竜。進化を経てそれそのものになったと言う事か。天帝級の竜だ。
虹晶竜が構えている場所。高エネルギー結晶によって見え辛いその床は、よく見ると鏡になっている。
それが鏡界竜だ。
『……見破られたか』
『ふわっ!?』
僕が気付いた事に気付いた様で、鏡が地面から急速に浮き上がる……そして巨体をひっくり返された虹晶竜。驚愕に目を見開く仔竜が哀れである。
円筒状の鏡はまるで水の様に形を変え、瞬く間に竜の形へと変わる。
今更になって気付く。
この浮遊島全体に、鏡界竜の魔力が満ちていた事に。
鏡の様にあるそれは、不可知天帝竜とはまた違ったタイプの隠密能力を持っている様だった。
強大な鏡の神性。鏡面に映るのは、瞳を蒼く光らせる僕の姿。
刹那、とぷんっと鏡が波打ち、鏡面から僕が現れた。
ユキ LV680
「むむ」
『……む?』
中々の再現度。鏡の神性による高レベルなコピーは、僕の上部からちょっと深い所までを見事に映しとっている。
これと同時に虹晶竜や鏡界竜を相手取るのは中々骨が折れるぞ。
と思っていたが、鏡界竜は首を傾げ、徐に鏡面を揺らして仔竜を2体出した。
此方はコピーではなく、分身や分裂の類いだろう。
飛び出た仔竜は反対の僕を観察し、もう1匹は僕の方に飛んで来た。
『むむむ……』
鏡界竜が唸り、仔竜は僕を観察する様に飛び回る。
ぐるりぐるりと何周かした所で、竜達が止まった。
『……ま』
「?」
『……な』
「?」
鏡界竜は何やら絶句する様に二の句を継げず、沈黙。
その間に鏡の仔竜と反対の僕が鏡界竜の中に戻り、鏡界竜は音もなく座り込んだ。
『……我々に敵対の意思はありません。青藍の救世主よ、どうか矛をお収めください』
「詳しく」
名前といい神性といい、こいつは他と少し異なる。何か色々知ってるぞ。




