第8話 白亜の街
第八位階下位
中央にある巨大な城。
聳え立つ白い巨壁。
あちこちから結晶が生えているが、一見して傷一つない。結晶が生えてから作られたのか、それとも作り直されたのかは分からない。
また、その壁は気配を遮断する様な術が施されている様で、ここまで近付いて尚強い気配がどこにいるのか判然としない。
出入口は一つ。
門は大きく開かれ、何者をも拒む物はない。
空いていると言う事は入って良いと言う事だ。
出入口の真ん中を塞ぐ様に立つ結晶纏う竜をスルーし、僕は慎ましやかに門の端を通過する。
嘘。ちょっとだけ観察する。
冥刃竜・クーラート・メタリオン・ベルツェリア LV612MAX
種族はエルダーヴェノムブレイドドラゴン。
結晶竜の一種だろう。両腕と翼に鋭利に尖った結晶が付いており、全身に斬属性を纏っている。
結晶はあちこちに生える結晶同様に毒属性を持ち、同レベルの竜種と比較して頭抜けた魔力保持量を誇る。
鉱物系の竜種にしては珍しい軽装でスマートな姿形をしており、それが戦闘力に特化した怪物である事を如実に表していた。
レベル限界は低いが、実戦闘力では僕の配下の中でも上位の者達に匹敵するだろう。
勿論、修行した後の皆の。だ。
尋常ではない達人の気を感じるが……防衛向きではないよね?
大剣の様な先端のどでかい尻尾を弄りつつ、気付きもしない冥刃竜を見て、モギッとしても気付かないじゃないか? と言う気持ちをぐっと堪えて城内部へ向かった。
城の中は……街だった。
竜サイズの巨大な街だ。
白磁の壁が一面に広がる不気味な街。
禍々しい淀んだ紫の結晶があちこちから生え、より一層不気味さを増している。
竜用に整備されているその街には、しかし誰も住んでいない。
ゴーストタウンと言うに相応しい物悲しさが漂っている。
そんな街中の吹き抜けの空を飛行し、此方へ向かって来ている影が2つ。
方や宝花竜ファラフィア。そしてもう1体は——
大地竜・ヴィーナ・エングラハ・ベルツェリア LV728MAX
かつての邪神との戦いで肩を並べたヴィーナだ。これで僕が知っている強者は出揃った事になる。
種族はエンシェントアースドラゴン。
暫しひぃひぃ言いながら翼を羽ばたかせる宝花竜に速度を合わせていたが、一言二言声を掛けると直ぐに速度を上げた。
『クラー、貴女も来なさい!』
『はっ!』
『ガルナが討たれた様です、貴女も覚悟を決めなさい!』
『なっ!? ガルナ様がっ!?』
慌てて飛び立つ冥刃竜と共にヴィーナは戦場へと向かい、その後を宝花竜が息も絶え絶え追い掛ける。
見た感じ情報伝達は単なる気配察知のみの様だし、宝花竜がここまで伝えに来たのは、中からだと外の様子が上手く掴めないからだろう。
冥刃竜がそれらを伝えなかった事、湖や砂漠の竜達が伝えに来なかった事は、おそらくは竜としての慢心か。
個々が強者故に戦場へ向かう事で竜達が優勢になり、幾らか援軍が来る事は分かっているから誰も情報伝達をしようとしない。
強者故の自負は間違いではないが、更なる強者への警戒を怠るのは致命的なミスである。
その点ファラフィアはファインプレーだった。
2匹の竜を前線に引き摺り出したのだから。
これで戦場は更に盛り上がる事だろう。
城の中に控えている竜はあと2匹。
どちらも竜帝級の竜で、期待は大きい。
……一つ疑問なのは、それらがこの島の存続を揺るがす程の襲撃を受けて尚、何故ここに控えているのかと言う点。
守るべき子もなく、住む者もない街の中心で、その周辺には特に何かある様な気配もない。
……まぁ、竜の貴種とか、魔術的に価値のない大切な物を守っているとか、幾つかのパターンは考えられるけどね。
それ以上の事は実際に行ってみないと分からない。
そうこう考えてる内に、中心部近くを守っていると思わしき竜の所に到着した。
剣聖竜・ヴァルトラ・メタリオン・ベルツェリア LV687MAX
種族はそのものずばりソードマスタードラゴン。
名前から見て冥刃竜の親類だが……。
ふむ。と心の中で呟く。
この剣聖竜……強いぞ。
間違いない。その隙の無い立居振る舞いから汲み取れる技量は……ザイエの拳闘術に匹敵する。
技量に限って言えば、僕の配下の中ではザイエがトップ。次点で白羅の剣術と言った所。つまり単純な剣の技量だけ見れば白羅を凌いでいる事になる。
剣聖竜は全身が剣だ。
四肢には20の剣と4の大剣を備え、背には無数の刃が折り重なった様な翼を持つ。
鼻先に生える剣は他より一段と強い力があり、頭部から後ろへ生える双角はそれに次ぐ。3番目は最も大きな尾の大剣だ。
仮に刃竜を竜の剣士とするなら、剣竜は正に剣の竜。
刃竜は竜種特有の力技に頼る身体形状をしていたが、剣竜は剣術のみにひたすら特化させて来た様な形状をしている。
更に凄まじいのは、その肉体全てに力が行き渡っている点。
全身に備える28と翼分の剣全てが、最低でも無霊の神霊金属製武具に匹敵する力を持っているのだ。
……一本くらいモギッと出来るとしたら、さて……尻尾かなぁ? 竜の尾剣と言うのは他の部位と違って独特の信仰を有している様で、若干強くなりやすい傾向があるんだよね。
故に竜種や蛇なんかは尾に剣の様な物が付いているパターンがままあって、尾剣と言うのは信仰の力を受けているから加工に際して余地が大きい。
そんな事を考えながら尾剣をさわさわしていると、不意に剣聖竜が振り返って尾を見た。
……おっと? 気付かれた?
剣聖竜は尻尾を上げて、白い街の天井から満遍なく降り注ぐ優しい光に尾を翳した。
まさかね、気付く筈がない。何せレベルは680代でストップしている。
実力やエネルギーが竜帝級とは言え、地力は一段劣る筈。僕の気配遮断は竜帝級の一段上、天帝竜級の力を模倣し、更に改良した不可知の隠密術だ。
……若干欲望に眩んでいた様な気もするが、それでも気付いたのだとすれば天帝竜とも多少渡り合える力が既に竜帝ですらないこの竜に宿っていると言う事になる。
それはつまり、たかが天帝竜級が下級とは言え神に手傷を負わせられるレベル、と同義である。
果たして、剣聖竜・ヴァルトラは密やかに言葉を紡いだ。
『何かいるな……?』
——刹那、周囲を薙ぎ払う様に振るわれた尾大剣の一閃を、高跳びの要領で回避。
敢えて放たれた迸る斬属性の嵐を華麗に吸収分解、模倣してタイムラグ無しに放つ事で偽装工作。
すちゃっと着地した僕は、そのままこそこそモードに速やかに現場を離脱、奥に高速移動を開始した。
『……気のせい、か?』
逃げるが勝ち。




