第2話 賢人達の絆
第八位階下位
まったく、爺様とザイエには困った物である。
並の賢老の10倍じゃ効かない人生経験がある癖に男の子なんだから。
「そう思うよねー? 禅鬼」
「ちっ、やっぱり気付いてたか……そう言う所がザイエの良い所だろ」
正体を見破られたと気付いても、慌てず騒がず冷静に返して来た禅鬼を離す。
軽やかに着地した禅鬼はすぐさま光を放ち、肉体を本来の形に戻した。
現れたのは長い黒髪に薄い体の美少女。つり目が文句を言いたげに此方を見ているが、その前に服を着ようか?
「服ないの?」
「あるぞ」
「じゃあ着たら?」
「別に良いだろ……着てようが着てまいが同じだ同じ!」
「ザイエとかは着てるし、服を着るのは人としての礼儀の一つだよ」
そそくさと赤の拳法着を着込んだ禅鬼……なんか尽くザイエに反応するな。
別に悪い事企んでるって訳じゃなさそうだけど……。
「……白羅が探してたよ?」
「……あたしがいなくたって桃花の修行くらい出来るだろ」
ぷいっとそっぽを向いてそう言う禅鬼。
まぁ確かに僕もそう思う。桃花の育成なら白羅1人いれば十分だったろうね。
「だいたい最初にいなくなったのは空華のばかだからな? あたしはそれを探してたんだよっ」
「ザイエの家に住み着いてたんじゃないの?」
「……そうだけどよ」
またも明後日の方を見る禅鬼。
レベル700クラスともなると、寝床なんてどこでも暮らしていけるだろうし……となると人に執着したと言う事になる訳だが……。
「と言うかなんで正体を隠してたのかな?」
「そりゃお前……急に猿が人になったら……色々嫌だろ……」
猿で遭遇してそのまま猿の姿を維持していたらしい。
……聞いてたのと全然性格が違うな。もっと大雑把でアホだと聞いてたのに、なんか……繊細でネガティブ? 性格変わった?
……いやまぁ、予想は付くが。
「……ザイエなら気にしないと思うけどね」
「そ、そうかっ?」
食い気味な反応。やはりそう言う事か。
僕は一つ大きく頷いた。
「……つまり、猿のフリして覗きを——」
「——の、覗いてねぇわっ!」
うーん、ザイエも隅におけないな。これ程の強者を虜にするなんて。
まぁそう言った事情は当人等の問題だ。今重要なのは……。
「こっちの事情はどこまで知ってる?」
張り詰めた気配を放ちそう問うと、禅鬼は眉間にシワを寄せ暫し考えた後、困った様に首を傾げた。
「……ザイエが引っ越しするって言うから」
ダメだコイツ、恋愛に脳をやられている。きっと初恋だったのだろう。
僕は内心をおくびにも出さず、にこりと微笑んだ。
「……覆禍ヶ時は僕が協力する。ザイエは僕の手下。これから竜帝狩り。禅鬼はお留守番」
「なっ、ザイエがお前の手下……?」
この恋愛脳めっ。まず真っ先に拾う言葉がそれかっ。
訝し気に僕を上から下まで見て来る禅鬼は放って置いて、話を進める。
「悪いけど上の城で待っててくれないかな? 詳しい話は後でするよ」
「お前を倒せばザイエはあたしの物……?」
「後で相手してあげるから上で待っててね?」
面倒くさいのでさっさと城へ転送した。
騒ぎを起こされたら面倒なので余剰黒霧で接待しておく。
次はエルフ居住区の深部、エイジュ達の家。
◇
「——は分かりました。私とエルも行きましょう」
「え?」
突然の決定にぎょっとした顔のエルミェージュ。
それでも普段エイジュに付いて回る辺り、姉妹仲は良好の様である。
「しかし、エイジュとエルミェージュは今やエルフの希望。そう簡単にこの場を離れるのは良くないんじゃないかな?」
「簡単だと言うのなら直ぐに終わらせれば良いだけの事。それにユキの事ですから、竜を狩るだけでは飽き足らずその群れを全て従えようとするでしょう? ルテールの民達も竜が近くにいればただそれ等を恐るだけとは行かない筈です」
「……それはエイがスパルタなだけ」
エルミェージュの呟きは部屋の隅の暗がりに溶けて消えた。有り体に言ってガン無視である。
「何より、そこにあの子の遺した物があるのなら、我々が行かない理由は無い。そうでしょう? ……ザイエ」
エイジュは少し考えた後、爺様ではなくザイエに問いを振った。
漢ザイエ、そこまで言われたら納得せざるを得ない。
「……そうだな。俺達全員で行くべきだった。すまん、エイジュ、エルミェージュ」
3対1《2対1対1》では流石の爺様も反論する気は起きない様で、仕方ないと仄かな笑みを浮かべた。
すっとエルミェージュが手をあげる。
「……ここに行くと言ってない者が1人」
「行かないのですか?」
「……行くけど」
行くしか無い雰囲気で問う辺り、天然にして純粋な悪意、と言うか作為を感じる。
意思が纏まった様なので、パンっと柏手を打つ。
気配を絶って話を盗み聞きしていた僕に、4人の驚愕の視線が集まった。
「それじゃあ、話が纏まった所で……早速向かおうか」
——天空のクレイドルへ。
僕に限っては細けぇこたぁ気にしねぇな爺様が微笑み頷いたのを見届けて、僕は窓から覗く積乱雲を見上げた。
「ど、どうやってやったんだ? お、俺にも出来るぞ絶対、確実に、おそらく……」
「……気付かなかった……いつからそこに……」
「……まさか、あの竜の力を……?」
エイジュだけ確信に迫ってるぞ。




