第1話 静かで騒がしい朝
第八位階下位
皆に諸々のアイテムや装備の分配を行なって、23日目の夜を終わりとした。
明けて翌日。
なんやかんや昨日では片付かなかった細かい仕事の進捗確認や最終確認をしたり、ちょっとした私用を処理したり、じゃれつく分家の者達主に3名をちぎっては投げちぎっては投げ、あれやこれやをうんぬんかんぬんで朝食を摂った。
朝から大変だったが、連中もアナザーを直ぐにやりたい様だったので事なきを得た。
本日の予定は……午前、竜狩り。午後、未定。
キビキビ行こう。
◇
《【クランクエスト】『大いなるクランマスター』をクリアしました》
《【クランクエスト】『偉大なるクランマスター』をクリアしました》
クランの参加プレイヤー数が100と1,000を越えた事で、クエストを2つクリアした。
報酬は、まぁまぁ多い旗と指輪、幹部の指輪、CPが1人頭10ずつの合計11,000P。MCが1,100万。
おこづかい的臨時収入である。
第二陣はゲーム開始から24時間経ってないのに良くやるね。
稼ぎは、第一陣から少しと遺跡の方のプレイヤーから極僅か。
現状は支援の為に資産を投入している状態であり、特に浮遊都市では迷宮も魔物も武器もアイテムも僕が用意しているので、プレイヤーが溜め込んだ分が僕の赤字である。
まぁ、そこら辺は後で採算が取れる予定なので問題はない。
配下の子達も、丸一日の休養日と一晩の休憩を経て、コンディションは完璧だ。
王都周辺には特警戒対象である悪魔、天使、吸血鬼の影はない。
敵情がわからない以上、周囲の警戒をするしかないのが残念な所だが……最大限の警戒をする事でそれを補おう。
黒霧は命大事に索敵、防衛特化の編成で付近の町に配備。
特にインヴェルノは戦場予定地に最も近い場所なので、黒霧層を厚くしておく。
ザイエクラスが10匹も20匹もいた場合、流れ弾だけで王都一帯が消滅するからね。海辺の水際で全部堰き止めて貰う。
浮遊都市には機神をも越えんとする精霊帝と使徒、及び傭兵軍団が控えている。
授業を経て敵なしとなった我が配下達は今尚迷宮へ潜り、敵を駆逐してレベルを上げている。
一応念には念を入れて、保護者枠であるレーベ、アルネア、セバスチャン、白羅を王都周辺に待機。補助として優秀なベルベル、スペードの王、ハートの王を付けておく。
それに加えて……残念ながら一番信用できるシャルロッテとアトラ、エヴァを緊急防衛戦力として配置しておく。
これで万が一悪魔、天使、吸血鬼の軍勢がトリプルブッキングしても僕が戻るまで持たせる事が出来る……と良いな。
連れて行くメンバーは、ウルル、メロット、サンディア、ネロ、ミルちゃん、レイエル、ニュイゼ、ディルヴァ、ミュリア、アルフ君、ルクス君、白雪、氷白、リオン、桃花、ルム、ミスティ、ペルセポネ一行。
ここに、爺様とザイエを加えた……その気になれば大陸を滅ぼし下級ならば神をも殺す軍勢で行く。
……まぁ、神をも殺すと言ってもあくまでエネルギー総量の話であり、神級ともなれば幾らでもやりようがあるので実際には殺せないだろうが。
それじゃあ爺様とザイエを迎えに行こうか。
◇
マレビトが増えたからかはたまたなんか浮いてるからか、心なしか活気が増した様な気もする王都の通りを密やかにすり抜け、相変わらず人気の無い図書館前に到着した。
中は……随分と様変わりしていた。
先ず、無数にあった本が半分以上なくなっている。
古い希少な本が多いから、マジックバックか何かにしまったんだろう。
本棚がこれでもかと並んでいた室内には机や椅子が増え、ランプのゴーレムがキョロリンと此方を見ている。
ワサワサと足元を駆けた黒い影は、シャドーワーカーと言う影の小人だ、危うく消し飛ばす所だった。
中央には謎の噴水があり、天井からは輪っかや球体が吊るされて、花壇には綺麗な花が咲いている。
良く見渡すと、精霊達が密やかに僕を伺っていた。爺様の配下だろう。
奥で逆立ち指立てをしていたザイエに声を掛け——
「むむっ」
——ようとした所で、それを認識した。
ザイエの足裏に妙な仔猿が座っていた。
ぱっと見ただけだとただの仔猿だが……注意深く気配を探ってみると、その魂魄に強大な力を保有しているのが分かる。
神気操作の訓練をしたお陰か、僕の魂魄の性能が全体的に向上している様だ。修行前だったら気付くのにもう少し時間が掛かっただろう。
「……ザイエ、おはよう」
「おう、ユキ。こっちは準備出来てるぞ」
「その様だね」
仔猿がザイエの肩に移動し、ザイエはヒョイっと跳んで着地する。
じーっと此方を見詰める仔猿と視線を合わせる。
「ああ、こいつはな、最近山に出る様になったんだが、付いてきちまってな」
「ふーん?」
「こいつが結構強くてなー。まぁ空には連れてかねぇから心配いらないぞ」
寧ろ置いてく方が心配だけどね。そんな事を思いつつ、鑑定。
禅鬼 LV701
ほうほう……。
「かくほー!」
「ききっ!?」
「うわっ!?」
その一手、正に神速。
閃いた腕が仔猿を捕獲し、抱える様にして身動きを封じる。
よもや禅鬼がザイエの家に住み着いていたとは。
聞いた話によるとザイエの住処はルベリオン王国南西部の山岳地帯と言う事なので、もしかしたら空華もルベリオン王国南部にいるかもしれない。
仔猿こと禅鬼は特に藻掻くと言う事もなく、素直に捕獲されている。
「……急にどうした?」
「この——」
「——ききっ!!」
「猿は——」
「——きーっ! きーっ!」
僕が説明しようと口を開けば、遮る様に禅鬼が大声を上げる。
どうやら僕が正体を知っていると分かった上で、その正体をザイエに隠しておきたい様である。なんでぇ?
まぁとりあえず素直に捕まっているので良しとしておこう。
「これ貰うね」
「え? いや、まぁ、それは……まぁユキなら良いか」
「ききっ!?」
何やらショックを受けた様子の仔猿は放っておいて……。
「……ちょっと諸事情で先に現場付近に向かっておくね」
「あ、あぁ、分かった」
「爺様にも……」
そこまで言った所で、奥の部屋から爺様が出て来た。
今回は本気モードなのか、老人の姿では無い。
「やぁ、爺様」
「ユキ、おはよう」
にこりと微笑む爺様からは、凪いだ水面の様に揺るぎない意志を感じる。
それはそうと早急に禅鬼と話を付けておきたいので、話を進めさせて貰う。
「準備は万端?」
「うん。いつでも行けるよ」
「エイジュ達にはちゃんと話した?」
「「……」」
おい。ザイエはともかく爺様まで僕から視線を外すな。
「……僕の因縁にエイジュ達まで巻き込めない」
「俺の因縁でもある。勝手に1人で背負おうとするなよ?」
「勝手に置いていこうとするのもどうかと思うけどね」
「「……」」
「話だけでも通してね? でないと僕だけで終わらせるよ?」
「……その脅し方はどうなんだよ……」
「……まったく、ユキには敵わないね」
さて、それっぽく誘導して時間を取れたので、禅鬼と話をしに行こう。
「それじゃあ僕はちょこっとだけ調べ物してくるから、2人はエイジュ達にちゃんと話して来る事。いいね?」
「うん」
「仕方ねぇか……」
2人が頷いたのを見てから、インヴェルノ崖下の未解放隠し港に転移した。




