第48話 桜ヶ丘樹林攻城戦
第八位階下位
ウルルに捕食された翌日。
午前中は昨日の疲れを癒すべくゆっくり休んで貰う。
そして午後は、樹精に連なる者達をボスに、桜の丘を中心とする大樹林を舞台とした攻城戦を始める。
……ちゃんと休んでるか見回りするぞ。
◇◆◇
呆気なく、あっさりとやられた。
距離はあったが分断された訳ではない。
方々から手を伸ばし、翻弄されながらもその操魔力と演算力を抑えているつもりだった。
ただ、そう……違っただけ。私達とユキの認識が。
分断されていないと思っていた。距離が少し離れていた。
——ユキにはそれだけで良かった。
ちゃぷんと音を立て、命露の溶かされた水が手の内から零れ落ちる。
滴る水は同胞の命だ。
3方向に分かたれた影。その中のどれが本物か、気配を手繰り寄せた次の瞬間には、メロットの首が落ち、体が吹き飛んでいた。
あのメロットを一瞬で無力化する膨大な気の瞬間練成。それを全て隠蔽する気殺。
そしてその後のシャルロッテとアウラのペアを封殺する凄まじい武技と魔力操作。
——全てにおいて規格外。
これが神の領域に至らんとする者の力。
——私達が辿り着かなければならない極致。
ザバリと神癒槽から出る。
『?』
「ふふ、貴方達はまだ入っていなさい」
此方に注目した配下達や付いて来ようとするミスティを留め、魔力を纏って水気を払う。
精神を治癒する神水との事ですが、思っていた以上に治癒が早いですね。
これなら直ぐにでも修行を再開出来そうですね。
◇◆◇
勝って兜の緒を締めようとする連中をお風呂に叩き込んで周り、どうにか皆を休憩させる事に成功した。
皆も緊急時やそれに準ずる状態の時はちゃんと言う事聞いてくれるんだけどね、こう言う時は平気で無茶したりイタズラしたりして来るから……足りないのは僕の本気度なのかな?
現時点での皆の活躍度は、抜きん出ているのが白羅と対等に渡り合ったウルル。次点で……パフィ子とイェガにルカナ、ミルちゃん、白雪辺り。その次が、市民の保護に奔走し、黒霧の逆襲を撃退し続けたアルフ君、ルクス君、他シャルロッテ等。と言った所。
まぁ、幾らかの変動はあるだろうが、ウルルは爆破からも生き延びて僕を殺したから首位独走もあり得る。
過酷な攻城戦を用意するからどうなるかは分からないが……ウルル、シャルロッテ、エヴァ、アトラ。メロットはやる気次第で、ディルヴァ、アルフ君、精霊帝、イェガ、クリカ、この辺りが上位に入るだろうね。
さて、そんな過酷な午後の桜ヶ丘樹林攻城戦、1回目を踏まえた上で用意した戦力と制限を再確認しよう。
制限は、多岐に渡る。
森を攻略すると言う都合上の空中禁止。エヴァの武装制限。ミルちゃんの魔典制限。イェガは主砲禁止。精霊帝は鍵禁止等だ。
要はルールを守りつつ蓄財を消耗せずに敵を撃破出来る地力と経験を付けて欲しいと言う事である。
イベントに関して言えば……魔力の消耗量を見る限りだと、あれはおそらく理法典と同様に仮想世界なので兵器を幾ら注ぎ込んでも大丈夫だろうが、それとこれとは話が別だ。
用意した戦力は、昨日の4人と大体同じ程度。
樹精三姉妹、アルナン、ルメール、桃花を筆頭に、獣型からリゼリコルンと森仙狼、英雄から名もなきトレントさんを用意。
それらの指揮官が、地母神の神格を持つイテアである。
一応黒霧麾下のドール兵団もいるし、今回は僕がいない代わりに最初から魔力補給がされる仕様で、更に樹精と相性の良いアルカディアの装備を用意したので、難易度に大きな差はない筈だ。
皆が頑張ってる間に、僕は僕で他の用事をこなして行こう。
◇
青空の下、イベント会場を攻略する皆を見守った後、傭兵として活動する予定のヴァルハラの面々を見て回り、最後にうーたん達ちびっ子と戯れて戻ってきた。
あれやこれやしている内に、攻城戦は半ばまで進行している。
攻撃側は、数と質を巧みに使い、樹木に覆われた地上を侵略していた。
今回は各個撃破されない様に、一定の距離を保って侵攻している様だ。
桜ヶ丘樹林は前回と比べて面積が広大なので、戦力を固めていると探索しきれないからだろう。
保護した非戦闘員は、パフィ子、クリカ軍団、イェガ軍団の三重防壁により守られ、環境はともかく安全は確保されている。
保護者4名は義体と言う重い制限を受けているが、流石と言うべきか他の子達と同じかそれ以上の活躍を見せていた。
一方防衛側は、無尽蔵の魔力を使い、祈祷の獣面を用いてドールを森贄に改造。
それらが倒される度に、神樹の怒りに高濃度攻勢魔力が供給されている。
もう数時間は経っているが……現時点で既にシャレにならない密度のエネルギーが腕甲に満ちている。
流石は機神の神器と言ったところ……総合エネルギー量では超強化状態のアルカディアに匹敵している。
これ以上貯めさせたら……僕ですら梃子摺る緊急事態になりかねないぞ?
……もしかして皆は森贄を見抜けてない? ……いや、そうか、敢えて敵を強化しているのか。倒した時の報酬が美味しくなるかもしれないから。
やる事が僕と同じ。
◇
その後、攻略側の侵攻は順調に進み、樹精三姉妹と獣達を打ち倒し、最深部へと到達した。
最深部、桜の丘で待ち受けていたのは、桜ならぬ桃の精霊、桃花。
アルカディアの面、腕甲、鎧を身に纏い、イテア、ルメール、アルナンの3人を制御装置にした、超強化桃花。
彼女はフィジカルに物を言わせて先ず真っ先に白羅を、それもたった一太刀で始末すると、迎え撃つレーベの拳を両断、蹴りを蹴りで粉砕し、拳でもってレーベを消し飛ばした。
更に攻勢は続き、闇の領域を展開したセバスチャンを樹腕と樹槍を乱立させる事で広大な領域毎飲み込んだ。
生命力を濃密に宿した樹液で血と闇の霧を封じ、セバスチャンを樹木で覆い尽くすと、そのまま圧殺した。
誘い込む為に入念に準備されたアルネアの巣は、イテアの神権を行使した大地操作でアルネア毎地の底に沈み、イェガやパフィ子達も同じ末路を辿った。
すーぱーパフィ子パワーで市民の保護は完璧にこなした様だが、裂けた大地の底は蜘蛛の巣とかキノコとかイェガとかでいっぱいになっている。
大量の樹木が蓋となっているので、そう簡単には脱出出来ないだろう。
世界改編とでも言うべき天変地異は続き、大地は割れ砕け、樹木が乱立する。
蔓が伸び、毒の花粉が舞って、酸の雨が降る。
——そこは植物の楽園だった。
程なくして演算力の低下による暴走が始まり、桜ヶ丘樹林を覆い尽くして飲み込む様に木々が絡まって渦を巻き、一本の大樹が出来た。
——桃の大樹だ。
生存者は数十名。
植物配下達は続行不能。
斯くして、桜ヶ丘樹林攻城戦はボス達の自滅により終結した。
尚、配下達の肉体を食い尽くして実った色取り取りの桃は、スタッフが美味しく頂きましたとさ。




