第47話 地下遊戯場の魔王
第八位階下位
カツンカツンと廊下を歩く音。
最後の部屋の前までは、ゆっくり歩かせてあげたいからね。
暗がりから顔を出したのは、6人+α。
長時間に及ぶ戦闘。直前の激戦を経て、彼女等は消耗している。
そんな皆に、僕はニコリと微笑んだ。
「ようこそ、地下遊戯場最深部、幸福の間へ。最初に言っておくけど、僕の魔力は無限じゃないよ」
至福の星珠を摘みつつ、皆を一先ず安心させてあげる。
ニコニコしつつ、至福の星珠を義体の心臓部へ溶け込ませた。
赤金の光を放ち、義体の髪や瞳の色が少し変わる。
「さぁ、始めようか」
先頭を行くシャルロッテは、祈るように手を合わせた。
「主よ、御照覧あれ……!」
うん。見てるよー。
◇
忍び寄る無数の手を逸らし、魔力の流れを乱して同士討ちをさせる。
同時に近接戦闘をするメロットの蹴り、シャルロッテの拳、桃花の刀を肉体の凡ゆる部位で受け流し、衝突させる。
3人が距離を取れば、白雪の槍や氷結光線が降り、遅れてシャルロッテに憑いたアウラが光を放つ。
全てを逸らそうにも、メロットの魔眼が僅かな行動阻害になっている為、ここぞと言う所で妨害されないよう余裕を持って対処する必要に迫られている。
即席にしてはなかなかどうして良い連携だ。
やはり特に優秀なのが3人いればこれくらいは出来るか。
そろそろ本気を出してみよう。
周囲を囲む3人の中から、先ずは正面にいるメロットを沈めに掛かる。
先と同様に3人同時に囲みを狭めて来たので、デコイを置きつつ3方向にデコイを飛ばし、僕自身は隠密、透明化等を行使する基本形だ。
デコイを迎撃しようと剣を飛ばしたメロットへ一息に接近するや、再生阻害の為に僕の生命力を多く練り込んで、首を刈り取り心臓を消し飛ばした。
刹那、カウンターの膝蹴りが胴に直撃し、強化された人形体がベコリと凹む。
ダメージは覚悟の上。来る場所も予測出来た。多少逸らし、最大限ダメージを減衰させたが……結構やられたな。
これで死ぬ程メロットは柔ではないが、これ以上の追撃は厳しいので離脱する。
シャルロッテを回り込む様にデコイを放ち、それと同じ方向へ移動。反対方向へ光の雨が降り注ぐのを見つつ、デコイをシャルロッテへ向かわせる。
おまけに隠密を掛けたデコイをシャルロッテの死角に放ち、ここで分裂。
義体がスライムの様にぐにゃりと変形し、体が分かたれた。
体積はおよそ半分。おまけに見た目もザ・幼女。魔力も大体半分分け、魂は共有にしておいた。
そんな僕等がシャルロッテの左右から同時に襲い掛かる。
「っ!? 神さ——」
シャルロッテは偽物に気付いてそれを放置したものの、左右から来る相手が両方本物とは思わなかった様だ。
二度ほど打ち合うも倍速僕には追い付かず、油断しきりのアウラ共々磨り潰した。
まぁ、事前に手札を全部見せて貰ってるからね。大技から小技、無意識の肉体操作や魔力操作まで全部知ってるからね。仕方ないね。
とは言え僕も無傷じゃない。
アウラによる全方位攻撃を2度程受けたし、的確なフェイント防御とそこそこの抵抗で総合的に見れば大きく削られた形だ。
そして、やはりトドメを刺すには時間が足りない。
桃花が振るってきた刀を一体が避け、もう一体が白雪の氷槍を回避して桃花に迫る。
「ふっ!」
桃花の二刀目、伸びた小太刀の一突きを避け、その振り下ろしを避けた所で、ボコボコタイムです。
タクのそれと違ってメインとサブが決まっている桃花の剣術は、予想しやすい一方崩しにくい堅守の構え。
それはそうと手数で守りを突破し、捨て身の一撃をくらいつつ手刀でバラバラにした。
桃花は複数の信仰を受けて変質した特殊な精霊だ。
その特異性は精霊帝のそれと近しい。
通常の精霊と違って肉体強度が高く、通常の精霊同様肉体を破壊されても魔力で構成されたそれは直ぐに復活する。
マテリアル的性質とスピリチュアル的性質の両方を兼ね備えた体を持つのである。
精霊は基本的に肉体の維持に演算力を少なからず使用しているし、精霊の操魔力が高いのは人が体を動かすのと同じ事をするのに操魔力が必要だからだ。
桃花は肉体維持の演算が不要であり、肉体の変質が起きるまでに鍛え上げられた精霊の操魔力と、精霊特有の膨大な魔力を持つ、ハイブリッド精霊なのだ。
勿論バラしてもそう易々とは死なないし、バラす為に必要なエネルギーも多い。
今尚アトラ軍団を念動力で相手しているし、いい加減に魔力が尽きそうだ。
魔力吸収をすればそれも解決だが……それだと勝っちゃうからね。なんせ精神力が並外れてるから、魔力無限と似た様な物だ。
僕がやれる事は、精々防御を最低限に相手の急所を突くか、回避しその後戦闘を再展開するエネルギーを削減する為に敢えて致命打にならない形で攻撃を受ける節約戦法だけである。
そんな訳で、次は白雪だ。
分裂僕はアトラの手数を的確に逸らし、同士討ちさせて粉砕しつつ、左右に分かれて白雪に迫る。
一方白雪は慌てて両手を広げ、氷礫や氷槍、光線を放って僕を迎撃しようとする。
取り敢えずそれらを最低限の魔力で受け流してアトラに攻撃しつつ、時たま見せる回避不可の弾幕を受けて少しのダメージを蓄積しながら、白雪に到達した。
「い、今っ!!」
刹那——
——世界が凍り付いた。
白雪を中心に全方位へ向けて、白雪が持つ全魔力を解放して放たれた氷結概念。
そも、白雪は最初から特別な精霊だった。
特殊な信仰を受けて変質した桃花や、信仰そのものになって変質した精霊帝とはまた違う、純粋な氷の概念が実体を持った様な精霊だ。
白雪は本来なら氷の神権の申し子と言うに相応しい、氷神候補なのだ。
2人の僕は完全に凍り付き、動く事は出来ない。
成果発表の折にやった事よりも二回りくらいは強力だ。
では何故成果発表の時に出し惜しんだのか……おそらく、今使える様になったのだろう。
——殺気と共に近付く2人の僕を見て。
泣きそうな顔してたしね。
最後に僕が動かないのを見て、気を緩めたアトラの魔石部分を消し飛ばした。
——指サイズ僕が。
まぁ、こんなところだろう。ニコラの補助があるだけで、単純に計算しても皆の3倍は強い。
蹂躙する様な形に持って行けたのは、偏に知識と魔力統制の賜物である。
……後、空間が誰かの支配領域でなかったと言うのも大きいな。ノーマルなフリーエリアだったから何にも影響されずに戦えた。
《星珠を装備すれば》今や機神級だろうと《一体なら》余裕で蹂躙出来るだろう。
再生を始める皆。にじり寄る手の群れ。もう魔力がないので、それらをじーっと見守っていると、通路から銀の子犬が現れた。
犬と言うか狼だ。懐かしい召喚したばかりの頃と同じ姿をした省エネウルルである。
ウルルはてしてしと歩き、波が引く様に割れる手の群れの間を通って僕に近付くと、目前で停止した。
ふぐふぐと鼻を鳴らして僕の匂いを嗅ぐ。
「ふっ、煮るなり焼くなり好きに——」
言い切る前に、ばくっと噛み付かれた。
そのままウルルは首を振り、僕を軽く上に投げ、大きく口を開いた。
……うそで——
「——ごくっ」
——長靴を履いたウルル、豆ユキを食べる。




