第42話 キレルカナ戦線
第七位階上位
薄暗い迷路を警戒しながら進む。
サンディアや精霊帝がいるから気を抜いても良い様な気がするけど、想定される敵は洒落にならないくらい強いから油断せず行こう。
そうしなければならないのに……。
「ちょっとサンディアっ、これはピクニックじゃないのよ! ケロ子と蛇子ももっと緊張感持ちなさいよ! 真面目にやってるの私だけじゃない!」
「〜〜♪」
「勿論私も真面目ですよ? 真面目にレイエルを愛しています」
「ひぅ」
怯えてるじゃないの! ……怯えてるのかしら? 種族的に? 蛇と蛙は確かに捕食者と被食者の関係だけど、このレベルまで来るとそんなの関係無い筈。
本能的に怯えてるのだとしてもこれ程動けなくなるなんて事、あるかしら?
元々ケロ子がそう言うのに弱い、ケロ子特有の物である可能性もあるけれど、それにしたってケロ子にそこまでのトラウマがあるって話は聞かない。
第一精神的に病的な程の問題を抱えているのだとしたらユキが放っておく訳がない。
つまり……つまりケロ子は、怯えて動けないふ——
「きゃ!?」
考え事をしていると、突然誰かに突き飛ばされ、地面に転がった。
誰か、と言うか、ケロ子と蛇子は見てたんだからサンディアしかいないわ!
「ちょっと! サンディ……ア……」
怒りながら振り返ると、そこには……千切れたサンディアの腕が落ちていた。
「っ! 敵襲!」
慌てて周囲を見渡すと、赤い残光が暗闇へ消えて行くのが目に入った。
赤獅子、レーベね! 気配を察知出来なかった……くっ、本当に未熟だわっ。
「蛇子! 周囲の警戒を!」
「はい!」
「ケロ子は魔力練ってなさい!」
「け、ケロ!」
幾らサンディアでもレーベと一対一は無理がある。かと言って追いかけても絶対にアルネアに妨害される。
どうしたら……いえ、これはチャンスよ!
今アルネアとレーベは分断されている!
「……ここでアルネアを討つわ!」
「さ、サンディアさんは?」
「あの子なら大丈夫よ。どのみちアルネアを倒さないと追い付けない、助けたいなら目の前の敵を討ちなさい!」
動きを止め、3人で固まって周囲を警戒する。
ここはアルネアの巣の中、何処から来てもおかしくはない。
蛇子が次々と眷属を生成し、ケロ子が魔力を練り上げ、私は周囲の気を探知する。
その時、声が響いた。
「……仙術には通常の手段では察知出来ない様になる隠密術があるの。今の皆じゃ探知不能なのよ?」
「そこ!」
カサリと何かが動いたのを感じ、牽制の魔力弾を放つ。
舞い上がる煙が晴れたその場所には……小さな蜘蛛の死骸が転がっていた。
「うそ……なんで蜘蛛が……」
気配は無かった。アルネアならともかく、その眷属を探知出来なかった? そんな馬鹿な……それじゃあ私達の動きは全部筒抜けって事?
マズい……ユキに鍛えられたからって生命力探知に頼り過ぎてた……そりゃ私達より格上にはそれ以上の技を教えてるわよね。そう言ってもいたのに、また私は慢心して!
「蛇子、いえ、ニュイゼ!」
「は、はい?」
「多分囲まれてるわ。幸い蜘蛛自体はそこまで強くない、貴方の力が頼りなの!」
「わ、分かりました!」
ニュイゼは特に指示を出す必要もなく、既に無数の蛇を周囲に放っている。
先ずは現状の把握から、幾らかいるであろう強い蜘蛛は把握が完了してから。ニュイゼは良く分かってるわね。
問題はアルネア本体が何処にいるか。最悪もう此処にはいない可能性もあるけれど……。
必死に思考を働かせる。そう、考えるのよ。それが私の武器の一つなんだから。
レーベは此処にはいない。レーベならサンディアを1人でやれる筈だから。
もっと言うと1人じゃなければ難しい。よって合流は絶対にさせないつもりに違いない。
誰かが私達の足留めをしないといけない。その役割を担うのがアルネアなのかアルネアが生み出した無数の蜘蛛なのかは分からない。
けれど、そう……もし私達が追撃を気にせず包囲を無理矢理突破しようと考えたら? アルネアが止めるしかない筈。
流石のアルネアでも私たちを止められる程の眷属を生成するには何かしらの媒体が必よ——
「——あ」
やば……媒体ある。媒体あるじゃない!? ドールが!
最初に声を掛けたのも子蜘蛛を見せたのもミスリードのため!? だとしたら此処にはもうアルネアは……それに敵の想定レベルが……。
「……あぁ、もうっ!!」
詰んでるわ! 完全に詰んでる。考える程に理解する。
……隊を分けた時点で、私のチームの全滅は決まってたのね。
誰よ、こんな作戦立てた、の、は……シャルロッテ……って事は……あいつ、私達を捨て駒にしたのね!
魔力が無限だとしても精神力までは無限じゃない。アルネアだって強い眷属を生み出すのには相応の消耗がある。
サンディアを生贄にレーベとアルネアを引き付け、私達の足留めの為に向かわせられた眷属を、私達に倒させる事で間接的にアルネアを消耗させる。それが目的ね。
それを知ると同時にもう一つ理解する。
ぐぬぬ……私がこのチームに入れられたのは私が比較的倒しやすいから。レーベとアルネアがサンディアを分断するついでに私も狩れると判断して此方に来る様に誘導した……つまり私もサンディア同様に吊るされたエサって訳ね……!
「上等じゃない……!」
精霊帝の中でも特に強い2人をこのチームに入れたのは、レイエルとハイネシアとニュイゼ、イテアの4人を使い潰す事で確実に眷属を殲滅出来ると予想したからでしょうね。
つまりシャルロッテの誤算はサンディアが私を助けた事。
それなら、シャルロッテが想定した以上の戦果を私が叩き出せば良い!
頭きたわ! やってやる!
「皆殺しにしてやるわ!!」
とか考えてくれるとありがたいですね。
なんだかんだ言ってサンディア様は仲間思いですし、ルカナント様は高いプライドを持っているが故に自己評価は低めなので。
どうですか、神様。シャルロッテは神様の大切な手駒も分け隔てなくしっかり育成していますよ。
ふふ、また一つ徳を積んでしまいました。これは神様のおみあしを御拭きするのに十分な徳ですよね? ふふふ。




