第37話 地下遊戯場の戦い
第七位階上位
たかがレベル300如何程の物か。そう思っていた時期が俺にもあった。
「……もうルムだけで三千はやったのです」
「……うそ。ほんとはせんにひゃくはちじゅうななたい」
「……誤差のです」
「どう聞いても大差さね」
「お前よりは上なのです」
「ぬぐっ」
ちみっとした連中のやりとりを聞きつつ、そんな事を思う。
いやほんと、我等が王は何を考えておいでなのか。総数ではもう既に10万は倒してる筈だ。
今も、護送中の市民ドールを狙って度々襲撃を受けている。
連中は小隊規模で襲い掛かって来る。
その連携は尋常ではなく巧みで、自己を犠牲にする戦法、他者を顧みない戦法、時に自爆し、時に味方毎焼き払って此方にダメージを通して来る。
その上、恐ろしいのはそれだけではない。
前衛は気を張っていなければ一撃では仕留められず、後衛は千変万化する戦場の先を見抜いて魔法を配置する。
単純な肉体性能では足元に迫り、練度は並大抵では無く、捨て身の連携は確実に此方を消耗させて来る。
ちびっこ達が文句を言うのも仕方ないだろう。
……しかしうちには見栄っ張りがいる。
『はっ、なっさけねぇの! オレ様なんてこの倍は余裕だけどな』
レティだ。そして——
『そうですね、この5倍でも行けるのでは?』
何気にセラも煽って来る。
——いやいやおい!
『すまん! 悪気はないんだ、許してやってくれ!』
今にも口を開きそうな3人を制する様に声を上げ、ついでに剣を鞘毎指で弾く。
「む……まぁいいのです」
「……まぁ、あんたが言うならいいさね」
『……ふんっ』
『ご、ごめんなさい、私また何か悪い事を……』
不満気ながらも一応口を噤んでくれた2人と、拗ねたレティ、分からないながらも謝るセラ。
だが一安心とは行かない。
「……ぎもん。わからないこと、なぜあやまる?」
『そ、それは……その……』
「……あるふらむ、しつけはちゃんとして」
『そ、そこまで言う事無いだ——』
『——すまんかった。気を付ける』
レティを遮り、謝罪する。
クラウは幼い見た目に反して厳しく鋭い。一本筋の通った真っ直ぐな奴だ。
往々にして正しく冷静で、また気遣いも出来る為、慕う者も多い。
今回も、敢えて厳しい言い方をする事で、2人の矛を収めさせただけで無く、レティとセラにもはっきりと問題がある事を認識させた。
本当に頼りになる奴だ。俺も教育に関して頼ってばかりじゃなく、しっかり意識していかねぇとな。
通路を少し先行する。殿はルクスだから後顧の憂いは無い。
傍受されない様気を付けて、2人と念話を行う。
『……まぁ大した事じゃねぇしそれもセラやレティの持ち味だとは思うがな……月並みだが、大事なのは相手の気持ちになって考える事だな』
『……オレ様余裕だったし』
『あいつらも口では疲れただの何だの言ってるが、5倍でも10倍でもやろうとすれば行けるだろうよ』
『……そんなの知らないもん』
『これから知っていけば良いさ』
いや、こう言うゆっくり行こうぜ的な方針が良くないのか?
『……成る程、仲間内の冗談の言葉を定規に此方がより優れている様に言っていた……と言う形になるんですね……事実を言っただけなのに』
ちょっと不満気である。
『まぁ、見えてるもんや聞こえてるもん、感じてるもんだけが真実ではない。ってこったな』
『……むぅ、そうですね……確かに……私は私の事実を言いましたが、彼女等の事実は考えもしていませんでした……これが問題なのですね?』
『なんだ、零歳児にしては良く分かってるな』
『からかわないでくださいよ。もう……』
レティも意地張ってるだけで分かってはいるだろう。
『ま、ともあれ、俺たちは王の下色んな人材と協力して行かなきゃならん。中には俺等が3人協力しても勝てない様な者もいる。相手の気持ちになって良い事悪い事考えて、そんな奴らと仲良くやって行けたら、俺達ももっと強くなれるさ』
ほんと、ユキ以外にもヤバイのすげぇいるからな。
『あとは、そうだな……レティはあの3人を敵に回しても余裕で勝てると思ってるかもしれないが、実際の所あの3人は一人一人が俺並みだぞ』
『えっ!?』
『……そんな……強いんですか?』
『本気で戦う機会があんま無いから分からないと思うが……正直俺くらいの奴なんて掃いて捨てるくらいいる。ついでに言うと、奴等を敵に回すともれなく追加で3人が敵に回り、更にクラウの側近が3人、部下が9人敵になる』
自分くらい強いのが18人敵になると聞いて絶句する2人。
……やっぱり先ずは身の程を知らないとな。ユキの教育方針が一番だわ。
◇◆◇
隠し通路から進める大広間。
両開きのドアを少し開け、チラリと中を覗き込む。
そこにいたのは、一体の巨大ゴーレムとおよそ500の取り巻き。
レベル300に相当するとされるドール達は、優雅にダンスを踊っていた。
「……一応あれは敵なのだよな?」
「……良く見よ愚か者め、奥に捕らえられたドール達がおるじゃろうが」
ルーレン殿が指し示す先には、確かに、檻に閉じ込められたドール達がいた。
ダンスを踊っているせいで敵が見事にばらけているが……。
「……魔法を使えば一掃できる、か」
「……愚か者め、それでは捕らえられた者達まで巻き込んでしまうわ」
「そこはルーレン殿の結界でなんとか」
「……お主遠慮無くなってきたのぅ」
そうかもしれん。何せユキ様の御心がご自由であらせられるから。
「それよりも護送班が居らぬ。救出しても連れては行けぬぞ。ひぃふぅみぃ……うむ11人は居る」
「此方から10人、ルーレン殿の部下から10人。これでどうか」
「むぅ……致し方ない」
あまりに広大故敵の復活地点が未だに判明していないこの状況。戦力が分散するのは控えたいところだが……何より民を守るが騎士の誉れ。
どのみち占領地点まで撤退する必要があるのだし、疲弊している者から防衛部隊の元に戻り休息を取らせるのが良い。
そうと決まれば早い物で、ルーレン殿は囁きの魔法で即座に命令を伝えた。
選出された20名が扉の前に立ち、作戦決行。
扉を蹴破り、魔法使い達が波の魔法でドール達を蹴散らす。
即座に飛び込んだ10名の騎士がゴーレムを迂回する様に突撃し、結界に守られた民の周囲を守る。
さぁ、行くぞ。
「我に続け!」
『応!』
部下を引き連れ広場へと雪崩れ込み、散開してドール達が立ち直る前に少しでも数を減らす。
しかし、大波を受けてびくともしなかった巨像がそれを阻む様に、巨大な剣を振り上げた。
頭上を火球が駆け抜ける。
雨霰と降り注ぐそれ等は次々と巨像に着弾し、その体をボロボロに崩して行く。
露出したコアに、魔力の矢が撃ち込まれ、巨像は沈黙した。
そうこうしてる間に敵も持ち直し、残敵はおよそ250。
大将首を討ち取り、半分を殲滅した。しかし敵はそれに動揺する様子も見せず、此方に対しては堅守の姿勢、そして奥の10人に対しては苛烈な攻めを展開している。
やはり連中は、誰かが指揮を執っているのではなく、黒霧殿の様に群体としての意思が存在しているのだろう。と言うか黒霧殿が操っているのだろう。
しかし、格下相手に幾ら集られようとも、私の部下達の堅牢な守りを突破する事は出来ない。
人質を取られる心配さえなければ、此方は如何様にも攻撃出来ると言う物。
節約用らしい小火球が正確に敵の胸部へ着弾してコアを破壊し、崩れた戦列に我が部隊が切り込んで敵を撃ち減らし、囲まれる前に後退する。
これを繰り返し、数分と掛けずに敵を殲滅した。
「うむ、皆の者、良くやった。占有地点まで後退す——」
『——構内放送。攻略率が一定値を越えました。それにより、フィールド内にボスが出現します。繰り返します——』
響いたのは、黒霧殿の声。
ボスが出る? 態々それを伝えると言う事は……強いボスなんだろうな。
「……先走るでないぞ?」
「え? あぁうむ。任されよ」
「何をだ。まったく」
ルーレン殿に呆れられてしまった。何故だ。




